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九正義:バイオレンスバスケットボール

前回のあらすじ


主人公「好きだ、結婚してくれ」

「…え?」


唐突な告白に、美香は思わず呆けた声を出し、数秒してから急に顔を赤くする。


「きゅ、急にそんな…だ、ダメよ。だってお互いのこと、まだよく知らないし、それに…わ、私、恋愛なんてしたこと…」


先程までの態度と打って変わって、美香はうつむいて急にモジモジし始める。


そして、当の明は自分の失言に、しまったと内心で舌打ちしていた。

出来る限り自然に、かつ迅速に質問をして相手から情報を引き出す。


それを目的としていたというのに、あろう事か、自分の口から出た言葉は、間違いなくチャラ男が、女を口説く時のセリフだった。


(すぐに誤解を解いて…いや、待てよ)


先程から、明は美香に執拗に接していた。


出会ったばかりの男子が、自分につきまとって来るのだ。もしも自分がスパイだった場合は、こういう相手には最大限の警戒を払うだろう。


相手は自分の正体に気付いているかもしれないのだから。


その影響で、美香は少なからず明に警戒心を抱いているはずだ。

警戒されたままでは情報を引き出すことは困難になる。

その警戒心を解くために、『告白』という爆弾を投下し、相手の警戒の壁をぶち壊す。


自分は赤松明に好意を向けられている。故に、付きまとわれていたのだ…と。


(即興劇で美香の警戒心を取り払えるかどうかは怪しいが、やるしかない)


「俺、最初に会った時からずっと、美香のことが気になっていたんだ。こんな気持ち、生まれて初めてだよ」


そう言って、美香に歩み寄ろうとすると、美香は赤面した顔を背けて、その場から逃げ出そうとする。


(逃がすか!)


「待ってくれ!」


美香の肩を掴み、無理矢理こちらを振り向かせる。


「俺、美香のことをもっと知りたいんだ!会ったばかりで何を言ってるんだと思うかもしれないが、それでも…」


そこで明は口をつぐむ。


(どうすればいい?どうすればこいつと話が出来る?考えろ!考えろ!!考えろ!!!)


「それでも…何?」


美香は意を決したかのように、こちらを見つめ返してくる。

美香の瞳の奥には、自分の顔が映っている。

冷静さをそのまま絵にしたような顔だ。

それでも、内心は焦りに焦っているのだから滑稽である。


(会話を切ってはダメだ!話が続けば、それだけ情報を引き出すチャンスが増える。今は会話を続けることに専念しろ!)


「ねぇ、それでもって…」


「なあ美香」


美香の肩に乗せていた手をそっと下ろし、優しげな顔を作って、美香を見据える。


「急に美香自身のことを教えてくれなくてもいい。そうだな…例えば、兄弟か姉妹は居るのか?」


そう尋ねた瞬間、美香の肩がビクンと跳ねた。

突然の美香のリアクションに、驚いたのは明の方だった。


美香は視線をさまよわせ、どうしようかと悩んでいるようにも見える。

困惑、怯え、不安、苦しみ、悲しみ、愛しさ、空虚、様々な感情が入り混じり、明は美香がどんな心境にあるのか読み取ることは出来なかった。

美香は恐る恐る口を開き…


キーンコーンカーンコーン…


昼休み終了のチャイムが鳴り、美香は開きかけていた口を閉じる。

居心地が悪そうな顔をして、美香は無言でその場から立ち去ろうと踵を返す。

明は伸ばしかけた手を、すぐさま引っ込める。

引き留める理由が思いつかなかったからだ。


(ざっけんなよ…!)


明はあまりのタイミングの悪さに、チャイムの存在を呪った。


「美香っ!」


明の叫びに対して、美香の返答は無言。

一度も振り返ることなく、教室へと帰って行った。


クソッ!と悪態をつきながらも、明は冷静に先ほどの美香の反応を分析していた。


(確証はないが…クロだな)


兄弟姉妹の存在の是非を問われ、あんな反応を見せる人物を明は見たことが無い。

何らかの事情があると見て間違いないだろう。


「悪屋で聞いてみるのも手かな…」



五時限目は体育館でバスケットボールの授業だ。

慌てて体操服に着替えた明は、先を歩いていた美香に話しかけていた。


「なあ美香?何で黙ってるんだよ?」


「……」


あまり…いや、全く良い雰囲気とは言えず、明が話しかけてもやはり、美香の反応は無い。

先ほどまでとはベクトルの違う「つれない反応」に、明はどうしたものかと頭を掻く。


「俺、何かお前の気に障る事でも言ったか?」


あんなセリフを吐いておいて何を白々しい、と自分でも思うが、告白なんてしたことも、されたことも無いのだ。

相手がどういう気持ちになるかなんて予想もつかない。


美香はふと、足を止め、明の方を振り向く。


「…」


しばらく黙っていたかと思うと、美香は口を開いた。


「急にあんな態度とってゴメンね。あなたが…ううん、明君が悪いんじゃなくて、全部私が悪いの。そう、全部…」


美香はその先は口に出さず、先ほどまでの暗い表情とは反対に、どこか弱々しい笑顔を浮かべた。


「ゴメンね、家族の話題はあまり好きじゃないの。明君は気にしなくていいよ」


そう言って、美香は右手を差し出す。

明は一瞬だけ眉をひそめ、美香の行動の意味に気づく。

明も右手を差し出し、美香の手を軽く握る。

美香もその華奢な腕で明の手を握り返す。


「仲直りの握手。いいえ、仲良しの握手ね」


美香は先ほど浮かべた笑顔よりもさらに明るい、本物の笑顔を浮かべた。

握手を解き、美香は静かに呟いた。


「…皆とも、こうやって仲直りできるかな?」


しかし、その呟きが明の耳に届くことは無かった。



明と美香が体育館に着いた時には既に、他の生徒は集まっており、二人が最後だ。


「赤松と黒内もやっと来たか。それでは、バスケの試合を始めるから適当にチームを組んでくれ、組み合わせは問わない」


男の体育教師の言葉と共に、生徒達は五人グループを作り始める。

一クラス四十人なので、八チーム出来るはずだ。


チームは男女混合で、

明はタケシと卓郎、そして、美香とも同じチームになった。

そして、肝心の五人目はというと…


「さー、張り切っていこー」


女子モブだった。



明のチームは二試合目からであるため、観戦するために体育館の端っこで座り込んでいた。


タケシが明に手話で話しかける


『全身タイツはどうした?』


明も手話で返す


『カバンの中』


「そういや美香ちゃんってさ、バスケのルールわかるの?」


女子モブがそう尋ねる。


「もちろんよ、私だってバスケの一度や二度くらい…」


「あ、ごめんごめん。そうじゃなくて、この学校の・・・・・バスケのルールはわかる?」


女子モブが再び尋ねると、美香はきょとんとした顔で、首をかしげる。


その様子から察したのか、女子モブは苦笑する。


「この学校の…?」


「大丈夫、見ればわかるから」


美香がどういうことかと追及しようとするが、それと同時に…


ピーーーーーー!


試合開始の笛が鳴り、ボールが宙を舞う。

普通のバスケットボールならば、ここでボールを奪い合うのだろうが、この学校のバスケは違った。


「ウオォォォォラァァァァア!!!」


生徒が一斉に殴り合いを始めた。


「なっーーー!」


亜美が突然の試合バトルに、驚愕している隣で、女子モブは淡々と説明を始めた。


「ルール無用ルール、敵に対しての攻撃を認める、ヒーロー学園特有のルールだよ」



空中にあるボールと取ろうと、生徒Aー1が跳躍し、手を伸ばす。

だが、敵の生徒Bー1に足を掴まれ、そのまま床へと叩きつけられた。

Bー1はボールを取り、ドリブルでゴールを目指す。

しかし、そこに二人、Aー2とAー3が立ちはだかる。

ジャンプで空から越えようとするBー1、しかし、それを見越してか、同時にAー4も跳躍、空中で縦に一回転し、Bー1の持っているボールをかかとで蹴り落とす。

ボールの落下地点にはAー5がおり、ボールを受け止めたAー5は横からのBー2の飛び蹴りを食らって吹き飛んでいく。

Aー5の手から零れ落ちたボールをB-3が拾い上げ、シュート。

入るかと思ったボールは、復帰したA-1によって空中で受け止められた。



「ま、こんな感じかな?」


女子モブは平然としており、周囲の生徒も全員驚いた様子を見せることもなく、応援をしていた。


「…………え?」


美香は呆然としており、何が起こっているのかわからない。といった表情で、殴り合いバスケを観ていた。


「バスケとルールはほとんど一緒だけど、能力の使用以外に禁止されていることはほとんど無いね。それが、ルール無用ルール。この学校ではスポーツ全般で攻撃行為はオッケーだから、体育の授業はそれなりに怪我人が多いんだよね」


説明を続ける女子モブ

しかし、美香は心ここに在らずといった様子だった。


「…心配しなくても男子が女子に攻撃するのは禁止だから安心して?」


女子モブはやや見当外れなフォローをして、美香を安心させようとする。


ちなみに、勝ったのはAチームだった。



一試合目に参加した生徒は、死屍累々といった様子であちこちに倒れており、骨折している者さえいる。


「よしっ!次は俺たちの番だなっ!」


そう言ってタケシはすっくと立ち上がり、ニヤニヤとイヤラシイ笑みを浮かべる。

タケシの事だから、試合中のどさくさに紛れて女子の胸や尻を触るつもりなのだろう。


「ククク、時は来たれり、見せてやろう、俺様の真の力!千年の時の眠りから解放されし我が右腕よっ!今こそその力で敵を焼き尽くすのだっ!くらえっ!一斉回復射撃リカバリーショットアボリィオブファイアァァァァ!」


卓郎がそう叫ぶと同時に、指貫グローブをはめた、右手の指から緑光の弾丸が射出され、一試合目の怪我人の傷を治していく。

その姿を見て、美香が感嘆の声を上げる。


「スゴイっ!卓郎さんの能力ですか?」


卓郎は無言で顔を背ける。


(絶対にコイツ照れてるよ…)


明がそう考えているのも知らずに、卓郎は話し出す。


「フッ、この程度は造作もない。それより、俺たちの試合は次だ。せいぜい足を引っ張るなよ?まあ、貴様に足を引っ張られて困るほど俺様は軟弱では無いがなぁっ!フハハハハハハ!」


そう言って卓郎は高笑いしながら歩いて行った。

明はそれを見ながら、はあ、とため息をつく


「なんで俺の親友はイロモノが多いんだ…」



結論から言うと、試合は反則負けになった。


タケシは敵チームの女子生徒の持っているボール…ではなく胸へと飛び掛かって行き、結果、両頬に女子達からの全力の平手打ちを食らい、頬の肉が削げ落ちた。


その傷は既に、卓郎によって治されている。


卓郎は演出なのか善意なのか知らないが、生徒が怪我をする度に、派手に回復の光を撒き散らしていた。




そして、今は二人そろって女子モブに説教されている。


「もうっ!このバカっ!タケシ君はもうちょっと慎みを覚えて女子に飛び掛かりなさい!っていうか飛び掛からないで!卓郎君は試合中に能力を使わない!怪我してる人を治すのはいい事だけど、試合中の能力の使用は反則なんだからっ!」


そんな説教を横目に見ながら、美香が明に話しかける


「これもヒーロー学園の常識?」


「…こいつらが非常識なのは、常識だ」

主人公「イロモノが多い」


「学校に全身タイツ着て来てるお前が言うな」

と、作者は密かに思うのです。

ついでに今回の作品の冒頭部分のボツシーンを載せてやんよ!

…え?いらない?

あ、そうですか…ハイ、わかりましたスミマセン。

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