episode.6 色んな苦労があって中間発表当日含め他エピ
冬がとうとう肌で感じられ、時は衣替えを過ぎ去り学校の制服も冬服と変わっていく。
しかし暁では服装の取り締まりはとくに無いのでたとえ衣替えを過ぎているとしても別に上着を着る必要なんかない。
「いよいよですね」
制服の下に白川の普段の私服をコーディネートして着込んでいる里香が、三時間目が終わった後の十分休みで学食の食券を買うための道で、昼休みのことについて考えていた。
「だね」
志保も曖昧に返答。
しかしここで返答というのだろうかという議題。答えは「断じて否!」
「残り一時間かと思うと、なんか緊張より恥ずかしさが込みあがって来るよね」
「恥ずかしさ…? なんですかそれは」
「えと…恥ずかしいという語句の意義を知らない人はいないと思ったんだけど…」
「少なくとも、私の脳にはインプットされていないようですね。しかし私にはあってリリアには無いのは文頭と文末に疑問符が付与しますね」
「例え方が思いつかない…」
頭上に疑問符を浮かべる志保。どうしたことか、それは「~ってなに」「~ってことだよ」「じゃあ~ってなに」「…」みたいなやり取りが続く、子供のように見えて、広辞苑の内容をせt名するのと同じである。
「今までの経験からして、昨日その“恥ずかしい”という感情を浮かべている人が予測付きました」
「え、ほんと?」
「はい。この写真です」
胸にかけていたボールペンから薄型メモリーカードを取り出して自前のPCに差し込んで志保に見せた。
「智香と…山口君? ていうかいつ撮ったの!?」
「この間新たな生命体を見つけに廊下を探索していた時にたまたま。一組の教室がやけに静かだったのでいったら…これです」
そこには、前回の話でちょっといいムードになった智香と裕也がお互いにはにかむ写真がばっちり画像に残されていた。画素数が二千五百万画素なので紅潮までしっかり見える。
「これは、だまっておいたほうがいいんだよね…発表の時なんか気まずい…な」
「これが“恥ずかしい”の原義でしょう」
「いやこれは…いややっぱりいいわ」
「“恥ずかしい”ではないのですか?」
里香は凛とした表情だった。その顔の裏に何が潜んでいるのか…。
「いつか分かるよ」
志保はその言葉を軽く言った。
「…志保…よくわからない女です」
四時間目。
志保は一生懸命イラストを描いていた。
何故かというと、次の昼休みに行う中間発表のイラストの五枚のうち、衝撃文庫モチーフの作品が仕上がっていないからだ。となりの優華が間髪を入れる。
「あとに十分で間に合う?」
「頑張ってるの! 授業どころじゃないよ…」
今回のモチーフはさ○ら荘のペ○トな○女を描くことに決めた。理由は、かの有名(?)な山口が愛している作品でもあるから。というか彼が愛している理由は声優にある。ヒロインの声優が好きな人という理由だけで愛している。別におかしくないことだけど、なんか作品を侮辱しかねない感じの心情にも受け取れる。
そうしているうちに時間は刻々と過ぎてゆく。時間はビッグバンが起ったその時から延々と針を動かしている。
「構図が本当に思いつかない…」
「もっと想像しながら描いたら? ちょっと義務感がでてるよ、志保」
「分かってるけど…でも今はやばい…あ…思いついた」
「どんなの?」
ラフ画を描いて見せる。ものの一分後。
「ほら…」
「おお…これは結構色々伝わって来るよ」
ヒロインは絵の天才。その彼女が絵を描いている姿…ヒロインと主人公が顔を近づけあって紅潮しているほほえましい図
「これ最後まで描いてよ!!」
「分かった! あと十分粘ってみる!」
それを機に優華は心づかったのだろうか、前を向いて授業に集中…はなく、そのまま机にうっつぷしてゴー・トゥー・スリープ、安眠の世界へと旅立った。
四時間目終了のチャイムが学校に鳴り響いた。その音は彼女たちがいる三階の階段前廊下にも。
「じゃあ行こうか」
志保の合図で五人は階段を降りる。
「イラストできた?」
「うん、まあね」
「小説は?」
「あらすじを書いて発表することにする。作品自体は多分先生は最後に目を通すだろうし…」
「作曲の方は?」
「マインドマップを書いてみたよ」
それぞれ五人が報告を行う。
この時はまだ、部活動に見えた――。
「庸田先生」
ここに来るのは何回目だろうか。かなりの回数訪れている気がする。
なんか最初を振り返ってみると懐かしいな。
「あっちで話そうか」
ソファと机がある、一同・洗面所前の場所へ。
座って、誰が話し出すか。
(誰から行く?)
(とりあえず優華から行って)
「えっ…と、私の作品はMMORPGを舞台にした、ジャンルはラブコメになります…。突然MMOの世界に投げ込まれて、そこでの生活を描いたものです……」
説明が続く。
先生は神妙な面持ちで考えながら耳を傾けている。
(次、志保だよ)
そういわれて私はイラストノートを机の上に参照した。
「これです」
五枚のイラストの一ぺーめから順を追って説明する。
(志保…足震えてるww)
(そこでwwとかつけないほうがいいとおもうな、智香)
「えと、まあこれは里香のアイディアで、水着を着た妹が急にお風呂に潜入してきて焦っている構図です…これは、里香のアイディアです」
その部分を何度も連呼した。
これもまあ神妙だ。
「次は…」
電撃モチーフ。
「…という作品のモチーフイラストです」
当然そんな固有名詞を語られても分からないので、そこらへんはスルーの様子。というかこういう世界観は読んでいる人で無いと分からないものだから説明する意味もないはずなんだが、どうしてもこの作品を愛しているので語ってしまう。我ながら不覚。
「ヒロインは主人公に出会い、問題児の巣窟の寮に入ることで感情が灯ってゆき、この作品が成り立つのです!!」
「説明はいいから…ね?」
「すいません…」
本日二度目の失態。あーあ、語りすぎかなあ私。
「それで最後は…まだできていません」
そう、先ほどの時間で描けたのは一枚だけ。二枚を描く余裕なんてなかったのだ。
「そうか、まあ中間発表だからそれはいいのだが、もうちょっとイラスト見たかったなとは思っているぞ」
「そ、そうですか、次の機会に持ち越します」
そして私の発表は終わり。そして、
「作曲の方は…」
先ほどのマインドマップを提示した。
「同じ作品での世界観を描いた作品です」
智香が語り出すとき、世界が消滅するという法則が成り立っているのは知っているだろうか。すなわちそれは“二次元の法則”。二次元から三次元へと異次元への干渉を行ったとき、干渉元の次元の人の脳波が大きく揺れるというものだ。
言い換えれば興奮、ドーパミンというやつ。
「それで…これはこうで…ここがすごい!! あああああああああ!」
「……分かったから発狂するのはやめてくれ…中二病が移る…」
「…!!」
「うぐっ!?」
智香は失神した。
一瞬誰もが何が起ったのか、見当もつかなかった。
その主犯はリリア。たまに性格が変わるその能力で智香のお腹に瀕死の一撃を食らわせた模様。
「…えっと、私なにかしましたですか??」
犯人を知っているリリア以外の人は唖然とした表情だが、当の本人は全く気が付いていないようなので深入りはしないことにする。しかしここにゴミが出来てしまったが、石こ○帽子をかぶせて気にしないようにしよう。ついでにモーテ○ボシもつけて。
「と、まあこれで全員の発表は聞いたが…主に作曲、何が言いたいのか全く分からなかった…」
「そりゃ、智香が超新星爆発を起こしましたからね…」
「いつかブラックホールになりそう…」
縁起でもない…。いや実際ならないけど。
「そしてイラスト…まあ頑張って」
「あ、はい!」
「小説…なかなか面白そうじゃないか。その仮想現実大規模多人数参加型ロールプレイングゲーム…MMORPGネタはいけそうだな。俺もそんな時代に生まれたかったな…」
「先生…?」
「ああ悪い。今の時代に生まれてたらもっと楽しかったかなって」
そんなお茶目あ先生の姿に、皆共感を覚えたのは後で知った。
「私たちの発表はこれで終わりですが…先生は他に何かありますか?」
「一つ、意見を出し合っているか? これ一番最初に言ったことだと思うが」
「いえ…ある程度ってところです…」
「なら、しっかり討論をしろ。いつかいい出来になってお互いが笑顔になると俺は信じている。俺も経験しているからな…」
「experience…先生の経験ってなんですか…」
「じゃあリリアの経験って俺に言える?」
「ええ、一応言えますけどぉ、でも恥ずかしいことは言えないですよ…」
「“恥ずかしい”…」
「何か言いましたか里香さん」
「なんでもない。白川のことを考えていただけだ」
なんともいえぬこの空白。ビバ、海よ割けよ!
「……というわけで解散、お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした~」
「ちゃんとする! お疲れ様でした!!!」
「お疲れ様でした!!!!!!!!」
「終わったね~」
廊下で集会のことを振り返って喋り出した。こんな時間が本当の部活だったらいいのに。みんなで気ままに話せるそんな部活。活動よりもみんなの時間を共有したいなと思う。実際部活を作るという、“他学年と交流しやすく”をとって返せば、「喋るだけの部活」という意味にも取れる。私が提案したのはそんな些細な理由から。
この関係が、いつまでも続きますように――。