episode.4 中間発表までに~うがっ(乙です)
リレー小説事件から早くも一日。これをたった一日と取るのかもう一日ととるのかはあなた次第ですが…。
「今日何日だったっけ」
「十一月四日なのですよぉ」
恒例の一組集会。昼休みにオタの集団が一組の志保の席の周りに集まってくる。
今日はリリア、優華、志保。…と智香。わざわざ分けたのは彼女が廃人だからだ(特に理由になっていない。ちなみに世間一般的には腐女子と申される)。
「この前庸田のところに行ったとき、「中間発表」的なものをやると言っていなかった?」
暫定の部長のお言葉。されど暫定。いや、別に暫定を強調したいわけじゃなくて、暫定部長のお言葉は確定事項よりは低いという訳で、なにも部長が今後変わるなんてそんなことを言っている訳じゃない。はい、どうでもいい。
「…という訳で今後部長は岸田に決定」
「「え…」」
優華と志保の声が同時に「え」というたった一文字の単音で全ての状況を現すことができた。
読者にはいきなりこんな説明をしたところで分かってもらえないだろうから事の成り行きを説明しよう。
まず、中間発表について聞きに行こうということで、集会の後の授業を一時間受けた後の十分休み中に同じクラスで移動教室も一緒なのでこれから行動しやすいとのことで二人で職員室へ。庸田曰く「二週間後…そうだな、十一月十五日でどうだ。十四日は水曜日で僕は休みだから」と言ったのでじゃあその日にしようと。それで帰ろうとしたとき、「そういや部長誰だっけ」と声を掛けられ、「私です」と志保。そして「なら岸田に任せる。だって面白いから」
「「え…」」
「面白いからで片づけてしまうんですか…一応私が仕切りたかったんですが…」
「だって志保級長じゃん、それじゃ面白くない。元々リーダー格だし。じゃあここはあえて謙虚な岸田を筆頭にする方が面白いじゃないか!!」
こんな先生だったっけ…いや、そうか。授業中に電子黒板でいきなりロシア実写版の「涼宮ハ○ヒの憂鬱」を流し出す人だもんな…そうだよね。
「…はぁ」
「へぇ…」
「てな訳で次授業だから急いだ方がいいと思うな~。あと一分だよ」
疾風のごとく後方十三メートルの壁に接触される時計に目をやった。
十四時九分二十三秒。
次の教科、美術。はい、死んだ。てか元々遅れる気でいた。実は、ね。
「あ~あ、遅れちゃうよー」
「そうだねー急ごうかー」
噂をすれば影、だっけ。
「おいお前ら」
運悪く、中二美術教師・雪漏に出会ってしまった。いや、遭遇してしまった。
「確か一組の岸田と刈谷だったよな。先週に、来週版画汚れるから体操服に着替えて来いと言っておいたのに着替えてないじゃないか。それにもうチャイムなるぞ」
助けを求めた。
「庸田先生~~!!」
選択肢――戦う・アイテム・眠る・逃げる。ティーチャー庸田は「気づかない(ふりをする)」を選んだ!!
「そんな選択肢存在しないぞ!! チート使っただろ!!」
口笛を吹きながら優雅に職員室を出て行った。
「これは俺へのあてつけ、ということでいいんだな?」
「いえ、そういう訳では…」
もはや逃げ道などなかった。やっちまった感が体を蝕み、膝が震えている。ちなみに笑顔維持を目標に生きてきた人間なので二人とも微妙に引きつる。それが教師の怒りの根源を弄繰り回した。
「お前ら美術受けんでいいわ、今日は美術室に入ってくんな」
笑顔維持ではい、と答えてしまった。だがもう見向きもしない態度で職員室を去って行った。
気づけば二時十五分。約五分の説教タイムは一時間にも感じられた…。
「やってしまったね…」
「うん、もっと反抗しておけばよかった」
「え!?」
志保は相当雪漏が嫌いなようだ。何があったのかは知らないが、彼女は「絵下手なくせに授業中に上から目線で喋ってくんな」と言い張っている。確かにそうだ。それはクラスの意見全員一致まで持ち込めるだろう。だって本当なんだもん。
「あの睨み方嫌い。微妙にメンチ切れてないじゃない。あんなん厚斗と戦ったら余裕であいつの方が勝よ。か賭けてもいい」
「ここで賭けてもやる機会なんてないし、結果は見えてるから私は賭けは負けるわ」
十一月で気温も下がってきた時期の孤独感を醸し出す教室に優華と志保の物質が存在した。もちろんあの状況で美術室に平気な表情で赴くとそれもひどいことになりそうなので、おとなしく教室で待つことにした。
「しかし…暇だねぇ…」
「…うん、暇」
風の吹く方向に向かって二人は口を零した。
シーン。ヒュー。
風の音とカーテンの布が擦れる音しかしない教室は、つまり風が無ければ音の発生源なんて比例して無いのだ。この静けさは智香が授業中に大笑いした後の空気によーく似ている。関西人のノリなんて厳しいものなんだよ…。
「…イラストノートある?」
優華が訪ねてみる。
「当然、私のエナメルに入ってるよ。No.5とNo.6のノートが」
「ていうか、本当にNo.1からあるの?」
「うん。あるよ。小学三年生の頃がはじめ。確かハ○テのごとくのイラストを描いていたの。そのころは幻想に追われていたな…」
思いにふけっている。
「普通の人が聞いたらその言葉、誤解を生むよ?」
そういいながら志保のカバンを漁って、二冊のノートを手に取る。
中間発表が十一月十五日。それまでに衝撃文庫作品をモチーフとしたカラー・モノクロイラスト各一枚と、オリジナルのモノクロ一枚、カラー二枚を描かなければならない。この下書き…原画? を描いているのがこのノート、「イラストノート、目指せ八千枚!」なのだ。八千枚というのはプロになるまでに描くイラストの目安総数を指す。
「この水着ロリっていうのはダメなんじゃない…? だって、『お兄ちゃん、お背中流してあげる! こんな可愛い妹が言うんだから拒否権は無いんだからねっ』みたいな」
「そのイラストは里香のリクエストに応えて描いたものなんだからねっ!」
「ここでツンデレキャラはやめていただきたい…」
「ごめんなさい…ちょっと外の空気吸ってきます…」
そう言って顔を恥らいながら教室から廊下に出た。
外の空気(窓から入ってきた外の空気)は気持ちいい。三階だから外の人の集団圧が直接入ってくることが無い。聴覚にも視覚にも。こんなときは伸びをしてみよう。うーーん!
はぁ気持ちいい。
今度は窓の外に向かって叫びたくなる。
お漏らしのどあほーー!!
はぁ、雪漏のことを言ってやった。すがすがしい。
「なんかさっき叫び声が聞こえてきたんだけど…なんだったの?」
「お漏らしのどあほーーって言ってやった。あいつ嫌いだし」
「それは私も同感だけど…ちょっと外に向かって叫んだのは間違いじゃない?」
「…それ後から気づいた…」
「弁解の余地は?」
「大丈夫、私が教室に居た、なんて事実を証明できる人いないから」
「本当に? 私がばらすかもしれないよ??」
「やめてください…もう悪いことはしませんから…」
「はいはい分かりましたよ…」
何に分かったのかはよく分からないやり取りであった。
「あんだけ騒いでもあと二十分は余裕あるんでごわすか…」
「…」
いきなり方便を吐いた。謎だ。
「一応美術の時間だし、イラストでも考案していこっか…まあどうせ美術教室行ってもスケッチブックに板書なんか書かないで漫画描いているだろうから」
「そうだね、賛成」
衝撃文庫に応募する作品のイラストページを開いた。案としては十枚くらいある。ちなみにモチーフ作品は「ロウき○ーぶ!」だ。
「やっぱりロリコン?」
「違う!!」
「じゃあ何」
「…そもそもなんでコンプレックスに行き着くの」
「人は孤独って言うでしょ、そこからよ」
「残念ながら理論的に理由になっていません」
あはは、と笑い声が教室に反射する。
教室に人が少ないと反響しやすい。
「じゃあ何が好きなの」
優華が息をはぁはぁ言わせながら聞いた。優華こそロリコンなんじゃないかとたがってしまうほど、である。
「…この話はやめよう、優華にはメリットがあるかも知れないけど私にはデメリットしかないし」
本当の事を言うと後で面倒くさいことになることがある程度目に見えていたので、言わないことにする。
「折角からかうチャンスだと思ったのに…おーまいがー」
「アイム、アフレイド。じゃあ構図といこうよ」
バスケットボールを持ってドリブルしながら司令塔としての仕事をこなすヒロインの図、バスケットボールを拡大して周りにバスケ部のメンバーが囲っている図、さらには主人公目線の、バスケ部メンバーがメイド服を着てご奉仕を待っていたという図。
それぞれの構図を約三分で描き、残りの五分弱を二人の検討会に充てた。
「…やっぱりロリコンじゃない?」
優華が再度尋ねた。
「なんでそうなるの…ロウき○ーぶをモチーフにするという問題はさておき、別にこの構図がロリコンを証明するものじゃあ無いでしょ」
「だって、ドリブル指令は下からの構図でブルマを斜め下から見上げる図でしょ? バスケットボールが主になっているイラストは何故か全員水着だし…メイド服のイラストなんて…」
もう言わなくていいか、という意味を込めてあえて続きの言葉を言わなかった気がする。多分気遣ってしてくれているのだろうが、志保には嫌味にしか聞こえない。というかロリコン決定だろ、これは。
「でもっ、これは私が得意な構図で…別にそんなのはっ…」
「得意…? 今大事な言葉が耳に入ってきた気がするな~。得意、だって。得意になるのってその努力が実ってようやく上手くそれをすることが可能なことを自信をもって言うことを得意って言うんだよ? 私の辞書にはそう書いている。つまり裏返せば好きだからやっている、そういうことだよね、ロリコンの志・保・ちゃ・ん?」
「…でもっ…」
「で・も…?」
「…でも、プロのイラストレーターの真似をして描いて今のレベルになっているの…つまりそのイラストレーターがロリコンな訳で私はロリコンな訳じゃないのよ、分かってくれる?」
「…独学なんでしょ? なら資料なんて好きに選べるはず。そんな中でそんな構図を選んでいるのは志保の勝手、違う?」
「…違わないです…」
これまで断固拒否していた志保だが、少し肯定し始めてきたのが分かる。
「じゃあこれを以て再度クエスチョン」
今までの討論会(?)も果て、まとめの一声は美術の終了(予定)時刻前一分。
「あなたは、これまでの言動を後ろ盾に自分自身が小さい子を愛するロリータコンプレックスであることを認めますか?」
「………はい………」
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン~♪
「そろそろみんなが戻ってくるから言い訳の準備を始めないとね」
明るく、そして弱みを握った後のニタっとした顔をオーラでふるまう優華に、志保は成す術が無かった。
P:S
後で知ったんだけど、優華のワイシャツの胸ポケットにi○odのビデオ機能が働いていて、実は音声はもちろん動画も全て証拠として取られていたの…。あんなににたっと笑った理由はそこにあったのね。はぁ、ちょっと鬼畜過ぎるよ…ほんと、()に「呆」って文字を入れた紙を優華の背中に貼ってやりたいわ!! 今度仕返ししてやる…あいつの弱みなんて握っている…ことは無いけど…。とっ、とにかく明日から探し出してやるわ!! 絶対…絶対復讐してやるww あ、違った…してやる(怒)!!