episode.3 授業中のハーレムリレー(危ない意味ではないからね)
予定表も提出し終わり、作業へと移る段階へと来ていた。
「へぇ、志保がイラストで、優華が小説、智香とリリアと塚本が作曲…分かった。では電撃大賞に向けて頑張ろう! 解散」
作曲というのは、電撃大賞第二十回特別部門「学校大賞」のことである。学校のグループとして応募し、電撃文庫の作品をモチーフとしたものなら何でもいいのである。同人誌でも曲でも演劇でも。イラストはもともと電撃イラスト大賞というのがあり、それのことである。
そして今は授業中。数学。眠くなる数学。しかし二人は違い活発に作業をしていた。
志保と優華は運により一番後ろの席の隣同士になり、よく話していたりする。
「ねぇ、リレー小説しない?」
「なんの影響受けたの?」
言い出したのは志保。
「M○文庫Jのは○ないの影響。あったでしょ、そんな状況。あとなんかはまってる」
「確かにあったね…まぁ面白そうだからやってみるか」
これから始まるリレー小説は志保→優華の順に執筆していきます。
「時は二××××××年、異世界が認められた空間、地球。しかし、人口は十億人と危険だった」
「『なんちゃって~~ウケるぅ~ばっかじゃねーの二次厨乙www』」
「『俺は信じてたのに! 俺の登場を待つ一人の美少女が涙を浮かべる姿が目に見えるんだよ』」
「上の事情により(ry とそんなこんなで始まった『異世界ハーレムラブコメバトル』的なジャンルの下、この世界は始まる。“しかしそれは空想”そう思っていた主人公・優花は常識を捨てることになった」
「『う…何故だ??? ここは…』そんなこんなで魔人アシュタロス・シホーを倒すために立ち上がったのだ」
「私達これ書いてて思ったんだけど…リレー小説って完結の仕方どうするんだろうね…」
「うん、実は私も思った…」
授業中にも関わらず先生の耳に届く三センチぐらい前で止まるような小声で話していた。
「…とりあえず続き書く?」
再度サインを出す。
「まぁ、どうせ数学教科書通りにやってるだけだし…」
「俺の父はディッフェレント・フロム・ザ・ワールドの第一責任者の名を持つそれが意味するのは」
「まあ前の世界で言う『大臣』のようなものだ。ただし、大臣は大臣なので言う所の貴族の坊ちゃんなのだよー」
「真面目路線で来たね、志保」
「智香がふざけすぎなのよ!!」
少し声を張り上げて行ってしまった。板書を一旦移し終えた教師が教室前ドア付近で見回している。
「…次から三行にしない? 一行じゃ書ききれないよ」
「そうだね、じゃあお互い三行で」
ちなみにこの三行というのはB5レポート用紙の三行である。レポートと言えば例のオタクの緒田先生の宿題「太宰治の本を一冊読んで感想を書いてきなさい」で中二病らしく書いて鼻で笑われたあの事件。レポート用紙が無駄に余っているのもそのせいだ。
結局「走れメロス」にした訳だが、レポートの内容は廃人とロリコンの差を語ったものだった(以下略)。
「そんなこんなで幼少期の記憶は決して楽しかったり面白いものではなかった。しかし唯一いい思い出というものがある。これからの旅に必要なパーティーメンバーとの出会いである。まぁ俺のハーレムフラグはこの時だったと思ってもいい。まぁ他にもあったけど…」
「幼少期の辛い記憶を封印できるような力を持つ幸せを感じているのは彼女たちの仕草が俺の本能をくすぐり、学校で一人で苦痛を感じたことなどなかったのように。また会いたい。彼女たちに会って、また過ごしたい。あの時間を――」
「書いてて思ったんだけどね、優華」
「何?」
「『そんなこんな』とか『まぁ』とか好きだねほんと。フリーワークの方でもやってるの、そういう書き方」
「いいじゃない、それが私の書き方なの!」
ちなみにフリーワークは優華が執筆している小説。先日三千万プレビューを超えた。
「ちょっと声張り上げ過ぎ…」
そんな風に思っていた矢先、
「おい岸田。お前なにやってんねん。…その紙もってこい」
二人とも顔を見合わせた。
「ここはじゃんけんでどっちが行くか決めようじゃないの」
志保の提案。
「それはいいね…」
優華も参戦。
「がんばれ~!!」
端から応援している智香。しかしそんなの八割無視。二人だけの空間が授業中に巻き起こった!!
「じゃんけん…ぽんっ…おし!」
リザルト――勝者・志保、敗者・優華。ちなみにぐーとちょきだった。
ということは…
「おい、はよもってこい」
「今に覚えてろよ~!」
振り向きざまに笑いながら猫背のような格好で机で作られた通路を進んで教卓まで歩いて行く。
「これも運のツキ、かな…」
仕方がなく数学教師・尾畑の手に差し出す。その紙を受け取って神妙な趣になったのはいうまでもない。普通に2ちゃん用語を使用して作っているリレー小説だから。あ、でも尾畑はそもそもリレー小説ってこと分からないのかな?
一通り目を通した後、今度は朗読し始めた。
取られた志保と優華はもちろん反抗できる術もなく、ずっと笑いと後悔を重ねていくばかりだった。その点、クラスのメンツはずっと笑いっぱなし。何故か憎い。
「ははは!! お前ら何やってんの!? バレてさ…ばあかばあかばあか」
智香が攻撃参戦してきた。あ~あ鬱陶しい。消えろボカロ厨廃人。あなたの住む場所はもはやこのクラスでも三次元でもなく二次元ですよ。帰ってお母さんの乳にでも縋り付いとけ。
…というわけで基本無視した、うん。
「このようわからん紙、どうしたい?」
「どうしたいって…どう…」
「一つ目・久利先生に提出。二つ目・破り捨てる。この二つだ」
「……破り捨てるで…」
おいっ、と声を掛けたかったが無駄な介入は避けるべきとキーパーならではの反射神経(?)で未来の予想が頭の中に流れ込んできた。
「ほんまにいいんやな…?」
ファイナルクエスチョン。ラストアンサー。ラストパンサー?
「はい…」
ここで照明が揺れ動く!! …は無かったがそんな空気には染まっていた。…が、このクラスの男子サッカー部集団(志保以外)が騒ぎ立て始めた。
「破れ~大将!!」
「隊長! 大将!」
「おつかれ~」
右から順に田仲厚斗、玖珠元大紀、綿山比呂。いつもクラスのムードメーカー。時にはそれが精神的にハートを侵食するぐらいの破壊力を兼ね備えていることはエブリワンしっていることである。ちなみに大将というのは尾畑のことを指す呼び名、つまりニックネーム。何故大将という二つ名がついたのかは不明。
ちなみに厚斗は隊長と呼ばれている。もちろんこれも不明。
「まぁ今回は許してあげるわ…」
「え、いいんですか」
「今回だけ、たまたま僕が機嫌よかっただけだからな。それにお前が漫研を作ろうとして努力しているのはよく知っている」
(知っていたのか大将…)
「だが授業中にやるのはだめなんじゃないか? それお前数学欠点だろ」
「承知してます…」
「という訳でこれは俺が預かっておく」
「え!? さっきそんな選択肢なかったですよ!」
「いま作った。ははは」
「サンキュー大将」
「大将やってくれるなぁ」
「大将~~~!!」
PS:気づいたことなんだけど、私(志保)注意されなかった! てことはじゃんけんした意味なかったんじゃ…。副部長がんばって~、私は安心して書けるよ~。