episode.2 顧問
「でさ、顧問どうするの」
智香が面倒くさそうに机に体重をかけるようにして手を置いて言った。
「顧問どうするのかな、みんな」
志保が自信満々に笑みを浮かび皆へ問いかける。
「緒田先生でいいじゃない?」
「あ、それいいかも」
緒田先生とは、国語科の教師でオカルト好きなオタクとして学校中に名を馳せている。しかしその存在は志保によってロリコンやBLなどに分類されてしまう始末である。
「う○、いい男…」
という雑誌の読み切り漫画をニコニコに音声付でアップロードしているのを見たことがある志保にとってそれはいいネタだった。とことん緒田先生をいじれる、と思うと血が奮いあがるらしい。またロリコンなのは娘が十二歳であるからである(以下省略)。
「でもあの先生電気物理研究部と生物部と他同好会の顧問請け負っていたと思うのでしゅが」
「そんなに!?…レベルが違うね」
実のところ四つの顧問を請け負っているが仕事のせいで対して行けていない。なので該当するクラブの生徒はPSPをやっていようともバレないわけだ。もっとも、緒田先生自体が校則に漬け込むような先生では無く、生徒に好かれているのは結構緩い点があるからだろうと思う。実際PSPや漫画を見かけたことがあったが取ったことはほとんどないという。
「ダメか…じゃあ古多先生は?」
「ああ、あの新人教師…行ってみる価値はありそうよ…」
「じゃあいくです!」
リリアに続いて皆が再び階段を下りて行った。
「古多先生!」
里香以外の全員が古多先生の名前を呼んだ。
「ロリコンになりたくなかったら私たちの質問に答えなさい!」
「なんだ…可愛いみんな揃って…」
噂(言葉)通りロリコンの古多先生は、聞き返した。ちなみにガン○ムオタクである。
「私たちの顧問になって! こないだイラスト見せたでしょう」
「ああ、あの文化祭の時に黒板に貼っていたイラストか…もしかして顧問になってとかいうんじゃないだろうな」
「まさかのまさかのその通りです!」
「断じて否」
ここでガン○ムネタを振りまいてきたか…と二人は思った。
「どうしてですか!私達ずっと考えて古多先生という考えに至ったんですよ」
「俺はまだ新米教師で、仕事もたくさんある。だから部活の顧問にはなるのは無理だ」
「結局ロリコン教師ってそうなんですね…どうせ私達目当てじゃなかったってことですか…」
「いや、そういう訳じゃなくて…」
「もういいです、さようなら。また会える日がきたらその時は」
「あ、ちょと…」
古多先生の元を後悔ぶるような顔持ちで去って行った。
「ああ…ごめん…」
そんな声は、蚊の鳴くような声よりも小さく、当然彼女たちの耳にも届いてる訳なかった。
「…顧問どうしよう…」
暫定部長の志保が落ち込みながらため息を吐いた。
「他に宛てがあるのですか」
「多分…無い」
「まさか顧問探し四ページ目にしてバッドエンドなんて私は今までどう生きてきたんだろう…神様」
たとえ神に悪態を付こうとも、その事実は変わらず受け止めなければならない。
「ここで終わらしたくないよ…もうちょっと続けない?」
「読者に対して『続けない?』って語っているようなもんだぞ。ちょっとは考えろ」
「だよね…」
確かにこの話四ページ目にして簡潔というのはいささか苦しい場面である。
そんな時、里香がいい案を思いついた。
「How is that we ask Ms.Matsumoto?」
「な、なんて?」
一番英語の出来ない智香が聞き返した。
「要は、松元先生はどうか、ということよ。あの人外国人だし」
そう、松元先生というのはヨーロッパの有名大学出身の四か国語を話すことが出来る外国人教師。出身地はスロバキアで日本語ももちろんペラペラである。
「なんでドロタ先生なの?」
「外国人って日本の文化に興味ある…だから」
確かにその通りだ。
外国で「アイアムオタク」などと言ったら結構よってきたりする。それだけではなく、アニメバックなどを吊り下げていればなおさらだ。
「ならその可能性にかけて行ってみようか」
志保の決定の元、もう一度職員室へ戻った。
ドアを開けると、先ほどまた会う日までさようならというかんじで分かれた古多先生とばったりご対面した。
「さっきはごめんな…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
全員が素通りした。
「無視か…やっぱ俺のロリコン癖がダメなのか…? いや、緒田先生もロリコンだ。教師に仲間はいる…!」
松元ドロタ先生の席は入って二列目の真ん中あたり。実は彼女はアメフト部の顧問だったりする。
「松元先生」
「Hi, Tsukamoto. How are you here?」
「I have come here because I had a question to ask you.」
「What is it?」
「Are you interesting in Japanese culture about comic and anime?」
「Yes, I am. I have it. Next?」
「I want you will be adviser on club.」
「I am afraid, I can’t.」
「I am sorry to hear your saying」
「I’m sorry.」
「Thank you for listening.」
「Oh, me too.」
「どうだった?」
一番英語の話せる里香が交渉に言った。
「だめだった」
「そっか…」
結果が字のごとく完敗。
「なんでなんでしゅか」
「日本文化には興味あるけど顧問にはならないって…」
「日本文化は素晴らしいですよ! エロゲとかギャルゲとか…とにかく可愛い女の子が大量にいるです!」
「別にエロゲとかに絞らなくてもいいんじゃないかな、リリア…」
実はリリアは外見の割に大の攻略系ゲーム好きなのだ。自称・プレイ時間九千九百九十九時間を優に超えているらしい。
また四ページ目で終わりそうだ。
「またまた四ページ目ですか…」
「いま筆者が一回言ったからって『また』を二回もつけないの! 二回失敗してるみたいじゃない、それは流石に嫌」
そう悩んでいたところに一人の教師が声を掛けてきた。
「おい、お前ら、ちょっと来い」
その声は生徒会執行部の庸田先生のものだった。
「はい…」
職員室の前で集団でいても仕方がないことなので否応なく庸田先生の元へ付いて行った。
「お前ら、文化祭で応募して、それを賞に出すって言ってたよな」
「はい、その通りです」
志保は答えた。
「…電撃大賞って知ってるか?」
その名前はアニメやラノベを見ている人にとって知らない者はいないと呼ばれるほどの「電撃文庫」による新人をプロデビューさせる賞の名前だった。
「はい、もちろん知ってます。電撃文庫の本は沢山読んでいますから」
「例えば?」
「それはそれはアクセルワールドとかソードアート・オンラインとかさくら荘のペットな彼女とかとかですよ! 全部面白かったです! あ、ちなみに加速世界とSAOの作者は一緒なんですよえっへんっ」
リリアが急に口を挟んできた。別に発言権が志保だけにあるというわけではないのだが、急に入られるとビックリする。多分余程電撃文庫の書籍が好きなんだろう。もともと気さくな性格だが話を聞くときは聞くのがリリアの特徴だから。
「リリアちゃんはそんなに好きなん?」
「はい、もう好き好きでたまるたまらないの一本です!!」
「そうか、なら話は早い。そこでだ、君達にはその電撃大賞に応募してもらう」
「電撃大賞…に…?」
「そうだ。ただ部活を作ろうとしても申請が通りにくい。職員会議の許可の後に生徒会執行部の捺印が必要になるからな」
「それで、私たちはどうしたらいいのですか」
「名前のごとく、大賞を取れ」
それは大きな挑戦だった。ただでさえ人数が多いというのにそれに中学生の身で選考を通過するということなのだ。取れたら天才、取れなかったらそこ終わり。そんな世界が広がる実力の作家の世界。
「部活を創設するにあたって、何か実績を残してもらわないと困る。学校側としても。だからこういう判断を下した。分かったか?」
「…了解しました」
「もっと表情作れ(笑)」
「パンツァーゴー!!」
「おお戦車か。この学校にはそんなことも知っている生徒がいるんだな」
急にこの学校でのオタク(&ロリコン)で有名な緒田先生が話に参加してきた。
「緒田先生?」
庸田先生がクエスチョンマークを浮かべた。
「戦車発進の時に言う掛け声みたいなものですよ。でもなんで知ってるんだ?」
「今季アニメにあるんですよ、戦車アニメが。なかなか面白いですよ」
「へぇ、今って何でもありなのか」
「…まぁさておき、だれがどの担当にあたるかの表を提出しろ」
「別に先生のためにここに来てあげているんじゃないんだからね…」
「塚本?」
「いえ、妹キャラというのはこんなのでいいのでしょうか。私にはまだわからないので」
ショタコンの里香がロリになろうと努力する姿を見て庸田先生は、
「里香のロリ姿なんて初めて見た…」
「いや、もう恥ずかしくてたまらないんだからじろじろ見ないでよ」
「おお…」
無駄に感心している庸田先生は里香だけを残して他のメンバーは解散させた。
「…結局顧問は庸田先生でいいんだよね?」
優華と智香がリリアにベストアンサーを聞いていた。百文字以内で。
「多分そういう流れでいいと思うんですよ!」
「はぁ…職員室にこれから通わなきゃいけないのね…憂鬱…」
「なんで?」
志保があっけらかんと言った。
「だって職員室行ったらいっぱい怒られるじゃん…」
「成績上げたらいい話じゃないの?」
「そんな軽々しく言われてもそれができないから今こうして悩んでるんでしょうが…」
優華と智香が再び声を揃えて溜息を付く。
確かに実際問題この学校で成績を取れば国立の大学は行ける。そのぼーだラインとされているのが上位百番以内。留年を防げるのが下から十人以上だといいのだが、実は昨年末に中高一貫の高校に上がるのは確定となった。そういう制度に校長が改革したのだ。しかし安心は出来ない。高校で留年はあり得るのだ。欠点(各科目四十点以下)を三つ取ると危ない。挽回の余地はあるが、相当頑張らなければいけない。
例えば、成績評定が三十五点未満の者、出席日数が週授業日数×三十五の三分の一未満の者は留年となる。つまりは全科目において単位を取らなければ進級できない。
「筆者がこんなに長い説明をしてくださったけれども…
「いや、出席日数は本物のNEETにならない限り大丈夫だし、総平均三十五なんてそうそうないから。最下位ならわからないけど…」
「私のこと…を言っているのかなみんな…」
智香が泣きそうな目で見てきた。
「うわぁぁぁん!!」
本当に泣きながら抱き付いて来ようとしたので蹴とばした。
「うう…この人情なし!」
「こんなの人情もどうもしないわよ!」
「あの泣いているところ悪いんだが…」
そういって割り込んできたのは英語科・古多先生。
「優華と智香、ちょっと来てくれないか? 成績のことで」
「噂をすれば影、だねっ乙」
「うぜぇぇぇよぉぉ!」
智香の叫び声が遠くにこだましている。
入れ替わりで戻ってきた里香とリリアと志保、この三人で放課後の廊下を歩いていた。十一月の初旬、冷たい風が肌に触りそれがまた心地いい。
「私たちは大丈夫だよね…?」
「問題でもあるのですか?」
「特にないんじゃない…?」
ちなみにリリアは学年二十位、里香は百番以内には入っている。
「ま、とりあえず叫びますか」
志保が呼びかけた。
「結局漫研部の顧問は多分庸田先生だとおもうよ! By漫研部(仮)」
天井の先にある空に向かって叫んだ。