episode.1 創設
この作品はKaminomiWorldの作品です(小説家になろう内のアカウントです。ツイッターも。検索したら出てきます)。名前の通りですね。コメディーチックにしてます
「明日の公式戦のスタメン発表を行う。キーパー、1番・刈谷志保」
「はい!」
「2番…13番…10番…」
私の顧問がスタメン発表で名前を読み上げている。私はキーパーとして選ばれた刈谷志保である。初めまして!
ていってもこれは一人称なのかな? まあいいや。
私がサッカー部に入ったのは一年生の7月。それまで小学校の頃などに習っていなくて、好きだから、という理由でこの部活に入った。もともとキーパーとしての潜在能力があったのかは知らないが、一か月でレギュラーを取ることが出来た。だからこうして二年生の十一月、公式戦に向けてのメンバー発表で名前を公表に至る。
私の性格? うーん、自分では何とも言えないんだけどね、みんなが呼んでいるニックネームは「二次オタ」とか「アニオタ」とか。
でも私は自分では思うけど、他の人に嫌われていない、むしろ好かれているという自信は持っている。
そりゃ一年生のキーパーになる前は嫌われていたけど、私は決めた。自分で自分のキャラクターを作ってこの世界を駆け抜けようと。
だから今はそんな自信が持てる。キーパーもやって、成績を上げて、クラス委員長もやって、アニメも好きで、音楽や美術もやって。
そんな私の特技・趣味はイラストと音楽、あと小説を書くこと。
私は面白くない私で終わらしたくない、自分でも他の人にとっても面白く、また輝ける存在になりたいと思った。
だから一生懸命練習した。
イラストも、ピアノもリコーダーもドラムも、小説も。
たくさんのイラストの練習をして、お金がないから楽譜とピアノのみで独学で学んで、小説に至っては友達かららラノベを大量に借りて読み書きして。
そして今に至る。
私は今すごい幸せ。
自分の趣味を分かってくれる友達がたくさんいて、一緒に話し合える時間があって。小学校の頃はこんなこと出来なかった。塾や習い事(その他恋愛)で忙しいということだけでなく、単純に公立の、それも田舎のほうの学校では都市圏から遠いため、アニメにはまるものもあくまで趣味であって、「オタク」という領域まで達していなかったのだ。
やっぱり私立ってすごいかな。親に感謝。
そういえば説明していなかった。
この学校・暁中学は共学の進学校で、伝統ある学校。私の入った年が創立100年であり、それまでなかった校歌が作成された。
知らない歌を入学式の日に歌わせるというのもどうかとおもったんだけどね。
校則も比較的緩く、規制もほとんどない。女子サッカーがあるのもその証拠。あまり強くはない。
しかし、プレーがフェアということで、度々フェアプレー賞をもらう。優勝や準優勝などでもらうのとは少し価値が違うかもしれないが、私たちにとってはうれしいこと。何かを形に残せるのは以前から目指していたことだから。
「志保ー!」
私の名前を呼ぶのは、同じクラスの関口智香。
「今日、じ○さんの新しい曲がニコ動にうpされていたよ!もう昨日の…違った。今日の3時まで聴いてた!」
「その割には元気そうだね…」
「あの人の曲は元気をくれるもん!!ああ~やばす、授業聞いてらんないや。iPodに入れてきたから授業中聴くから話しかけても無駄だってこと覚えといてね」
彼女はボカロ厨。「VOCALOID」厨の略である。その名の通り、ボカロをこよなく愛するのだが、本人は否定。
「別にボカロ厨でも廃人でもないし」
いつも言う。周りのやつがボカロ厨認定しているのに。いい加減認めてもいいんじゃないかと日々思いが募る。
「うわ、あいつキモ…」
「キチガイだろ、あいつ」
そんなクラスの声が彼女に向けて発せられているのは分かっているのにもかかわらず、彼女は微動だにしない。
しかし私は彼女のことが嫌いではないのだが、この世界で生き残るためには周りに合わせていかなければならない、そう思い、
「確かにあいつキモいよね。特に顔が」
などと誹謗中傷な言葉を発しているのも同じ自分。正直心が痛い。しかし生き残るため。この世界の実情は厳しい。
「やっぱボカロ厨だよね、智香」
「だから違うって言ってるだろ! 何回も言うけど、俺はじ○さんの作品が好きなだけで、オカロ全部が好きなわけではない。AI派だ」
「そういうのを本当のボカロ厨って言うんじゃないの?」
「…」
急に答えられなくなったので、
「みんな~」
私はクラスの連中に呼びかけた。
「こいつが廃人まっしぐらの人生歩んでいると思う人!」
見事、全員挙手。笑えるほど同時だった。
「はははは! 智香全員に手挙げられてるじゃん」
岸田優華。小説書くのが得意な、同じ一組の友達。こいつは一番合うやつ。
優華の一番尊敬できることは、さっき言った小説、つまりライトノベルの執筆。
「小説家を目指そう」というサイトで、利用者15万人のうち、彼女の小説は第9位の実績を持つ。もちろんこれは累積ランキングで、デイリーランキングでは1位を獲得したこともあるという。私がネットで確認したから間違いない。
「…! ていやっ!」
優華が智香にカイロを投げつけた。
「うわっ、危ないな~」
二人は教室の端っこ(前と後ろ)に後ずさりし、防御と攻撃の姿勢をとった。
「とりゃ!」
カイロは智香の手から離れた。
目に見きれないと思う速度。しかし優華はそれをたった片手でキャッチングした。
「…! 私の力を宿したゴッドハンドの投球が…たった片手で…」
「うわ、こいつ中二病や! 『私すごい、私は強い。ゴッドハンドを持っている…!』とかほざいているよ。やべww」
「私は中二病なんかじゃ…うぐっ!ぶ、物体が私の目に…うあぁぁぁ」
「うわ中二病や…」
「やっぱり近寄ったらあかんで」
カイロを投げ返したのち、智香が中二病そのものを表面上に出してきたのでクラスの連中も引いている。当然のことだ。しかし私はそれを面白がっていて、キモいなどとは言わない。話のネタにもなるし。
「おい、ゴッドハンドどうした、あ? ほら、私今どフリーだよ?」
しゅぱーん、とカイロが風を斬る音がした。その後、それは大きく逸れ、壁に激突。同時にチャイムがなったので、撤収。
「…戦いは引き分けと来たか…おもしろい、次回決着をつけようじゃないか」
「いいでしょう、約束ですよ…?」
謎の約束を交わして、二人はそれぞれの席へとついた。
先生がやってこない。
何故だ、数学だというのに。私の一番得意な科目。授業は全く聞いておらず、イラストに没頭しているが。
「ちょっといってくるね」
クラス委員長の私は、教室を出て、一階の職員室へと向かうことにした。
「先生呼んで来たらめんどくさいって」
クラスの声が飛び交うが、それを
「大丈夫、ただのトイレさ」
とか言って振り切った。
廊下。
寒い。
新学期が始まって二か月たった十一月初旬。気温は上がることはなく、十二月に向けて冷え込む一方だ。
さっき手に入れたカイロを両手に、職員室へ向かう。
さて、階段を下りなければならないのだが、自分のものは思えない足音が聞こえてくる。
耳を上からのぞいてみるが、まだ姿が見えない。
そろそろ、教室の連中も私が廊下で留まっていることがバレテしまう。それはそれで構わないのだが、何をしていたのかを聞かれると、後が面倒くさい。
「志保」
「うわっ!」
「Hello、こんなところで何してんの?」
「いや、職員室の偵察に…」
話しかけてきたのは2組卓球部のS・R・リリア。帰国子女枠でこの学校に入ってきたスーパー天才少女。
少女、つまりロリ。金髪で蒼眼のロリ。男たちは彼女に迫って迫りまくって振られまくるという運命を辿っている。
しかしそれでも諦めない男は金を渡して体を買おうとしていたりするが、襲いかかろうとしたとき、外見とは裏腹に巧みな奇術で相手の体をふっとばす体防術を身に着けている。おそらく父が教えたのだろう。そうだとすると父はすごいロリコンということになるのではないか、となってしまう。
「実はミーのクラスも先生来なくて困ってるんですよ~」
女の私でもリリアの可愛さには困ってしまう。先生が来ることよりも彼女のことでいっぱいになってしまいそうだ。
「どうする?」
「対処法がないのだ。少し見回ってみたですが、どのクラスも騒がしくてですね、つまりどこも先生が来ていないということなのですよ」
「とりあえずリリアが1組をまとめてよ」
「…もしかしてロリコンに目覚めたのですか?」
「いや、そんなことないから。とりあえず入って」
そうやってリリアを1組へと誘い込む。
すると男子たちが騒ぎ出す。
「あ…あのリリア様だ」
「嘘…あ、本当だ! リリアちゃーん!!」
「リリリリコール!! リリア、リリア、リリア!」
全学年の中で一番騒がしくなってしまった教室を、
「みんな騒がしいのです、ちょっとミーの話を聞いてほしいですにゃ、静かにしてくれるかな~?」
シーン、となった。絶大な説得力。心底驚く。
「でわぁ質問です。なんで先生がいなくなったのでしょう。答えは私にもわかりましぇんよ?」
腕を組んで考える者もいれば、挙手を繰り返してひたすらリリアに関する質問を繰り返している。
「リリアちゃんのスリーサイズはなんですか!」
「それは秘密事項です~知りたかったら私の質問に答えてからにしてねっ」
「はい、リリア様」
「今度はなんですか?」
「先生は、多分ストライキです!」
「ストライキですか…この学校の平均月収は80万円を超えているので、そんな文句はあまり流れないと思うよ?」
「リリア様のご意見が正しゅうございました!」
「よろしい。…さて、意見は出そろったようですにゅ。一つ、インフルエンザ。一つ、職員会議。じつはおんりーてゅーなのですよ」
確かに授業放棄する理由がない。
インフルエンザにしろ、職員会議にしろ、前者である場合は学校閉鎖の可能性が高いはず。後者の場合はまず授業に食い込むような日時の取り方をしない。
「あれ、出席簿…」
智香がふと呟く。
「ねえ、この『塚本里香』ってやつ、このクラスに今日来ているよな」
「昼休みまではいたよ」
クラスの子が助言をする。
「こいつって黒縁の丸メガネかけたいかにもオタクって感じのやつだよね」
「そうそう、私斜め後ろ」
「斜め後ろ…」
志保は里香の机へと向かった。
何の変哲もない机。何も彫られていない2号の椅子。
「何もないと思うんだけどな…」
そう言いつつ疑問の顔はそのままだ。
しかし、机の中を見ると、
「…!! ははは!」
「どうしたの…?」
智香と優華が完全一致の質疑応答。
「見て」
志保は机の中に入ってあった大量の写真をみんなに見えるように見せた。
「こいつ知ってる…一年の白川優斗じゃないか?」
「知ってるの?」
「ツイッターで知り合った。一応メールアドレスも交換している」
優華が携帯の液晶画面を見せながら言ってきた。確かにアドレス帳には「白川優斗」の文字が記されている。
「この子可愛くない?」
「思ったそれ、私も結構タイプかも」
周りの女子がつぶやき始める。携帯を持ちながら。
「いわゆるショタコンってやつですか? アメリカにはそんな言葉はなくて、日本に来た時に初めて知りました。『もったいない』に続いて実は二番目に知った言葉なのです」
「ショタコン…そうか!」
「何か気づいたの?」
志保が優華に疑惑の顔を向ける。
「隠し撮りじゃないのかな、この写真の数々」
そういうことか。
これはすなわち盗撮、別の言葉でいうと犯罪に当たるのかもしれない。
「これは調べる価値がありそうね…」
「ですね…」
「よし決めた。私行ってくる」
「どこにですか?」
「Go to ティーチャーズルーム――」
寒いのをこらえてリリアと志保は一階へと降りてきた。
全教師が職員室にいるという憶測を立てると、それは正しく廊下には誰もなかった。もちろん剣道場からのいつもの声が聞こえる訳もなかった。
「――あ、ああー、こちら智香。どうぞ」
「こちら志保&リリア。無事、職員室前まで到達完了。どうぞ」
「了解。隠しカメラのセットは完了したか、どうぞ」
「完了済みですー、どうじょ」
「オールクリア。これより潜入捜査の許可を下す。では潜入したまえ…」
超小型トランシーバーに超小型カメラが作動していることを確認すると、彼女たちは職員室の扉をびくびくするように開けた。
中を見回すと、誰もいなかった。ように見えた。一人だけ残っていた英語教師・古多雄太がぽつんとPCに向かって必死に仕事をしていた。
「Good Afternoon、Mr.Huruta」
「おお、志保とリリアか。いつも可愛いね、二人は」
「またそんなこと言って…中学生のことばっかしほめてたって現実彼女できないですよ。大学生以上を狙いましょう、古多先生?」
「そうですよーいくら私がロリだからって可愛い可愛いなんていってたらただの変態です。もう少し言葉に気を付けましょう」
「言葉に気を付けなければならないのはどこのどいつだよ」
「少なくとも私たちではないですよ? 先生」
「はいはい、そうですね…。で、お前たちは何しにここへ来たんだ」
(「大事なところだ、ミスするなよ!」)
超小型イヤホンから智香達の声が聞こえてくる。
モールス信号で返信。
(大丈夫、私こういうのには強いから)
「ああ、授業の先生が来ないからクラス含め、学年が困ってくるんですよ。何が起こったんだ、て」
「あまり言えない事情なんだが…ちょっと犯罪ぎりぎりのことが起こってしまってね…その対処に困ってるんだよ」
ガ○ダムオタクらしくいう感じが一層彼女がいないことを奮いだたせる。
(私の予想合ってたみたい)
(OK、続けて)
「もしかして…塚本里香のことですか?」
「え、なんで…あ、しまった…」
「やっぱりそうなんですね。彼女はどこにいるんですにゃ?」
「隣の会議室に…あ、また…」
「正直に答えてくれてありがとうにゃ、古多先生~?
(会議室にいることが判明した)
(了解。ここからでは何も指示内容がないのでお前たちに任せるよ)
先生の席から二人は立ち去った。角で見えなくなるか否かの地点でリリアが振り向きざまに、
「本当にありがとう…古多先生…」
「…やっちまった…どうしよう、俺の教師人生…」
トントン。
戸の叩く音がした。声で応答する前にはすでに扉は開かれていた。
「話は全て推理しました、先生方。お取込み中すいません、二年一組の刈谷志保です」
彼女は確か学年で一番有名なやつだった気が…。
「そこにいる塚本里香さんにお話があります」
僕はつい起こった口調で言ってしまった。
「君には関係ないことだ、志保君。早くここから出て行きたまえ」
「いいえ、出ていきません。彼女を連れ出すまでは」
あまりしつこいので最低の一言。
「君も同罪にするぞ」
すると、予想外の答えが返ってきた。
「別にかまいません。私の考えがわかっていただければそれで」
何か企んでいるようだ。
「なら言ってみろ」
とりあえず聞くことにはした。しかし僕は初めから聞く気などなかったが。
「里香さんはショタコンです。それは私たちのクラスに彼女の机から大量に出てきた一年生の白川優斗君の写真が物語っています」
志保は僕、また他の教師によく見えるように写真を見せてきた。
「さしづめ里香さんは盗撮を異常なほどし、相手に迷惑と思わせるほどのことをしたと私は推理しました。おそらく泣かせたのではないかと。しかし私は思うんです。この私立には色んな地区から色んな人間が集まってくる。それぞれ違った形を見せて、色んなキャラクターを持つことを。それは私にも言えることです。そして、私はずっと思ってきたことがあります。この学校を面白くしたいと。正直現状はあまり盛り上がっている学校とは言えません。規則が緩いといえ、ただそれだけ。緩いだけで、進学校という名の元に群がってくる、自分を出し切れていない人間の集まり。私は面白くありません。ですが、この事件たるものに私はとても惹かれました。ショタコンという新しいキャラクターは面白いなと。私は彼女が学校を変えてくれると信じています。いきなり学校と行ったら大きいかもしれません。まずはクラス。次に学年、中学、そして中高両方…。そういうことです。」
彼女の意見は僕にとっては不適切と思える考え方だった。確かに学校を変えたいという思いは一緒であるが、方向性は違う。
そう思っていると、
「行き着くゴールは同じですよ、御笹先生」
と言った。
「僕は面白いと思うな、その意見」
歴史教師・庸田龍之介。
「なかなか面白いぞ、その意見。共感を覚えたよ。その可能性にかけてみるのも悪くないか漏れないぞ」
「ですが庸田先生、それでは…」
「いいんですよ御笹先生、学校生活は面白く送るもの、そうですよね、リリアちゃん」
「はい、先生! 私は帰国子女で日本の学校はあまりわかりません。だからこそ、面白い青春時代を送りたいと思っていましゅ」
「うむ、よろしい。どうですか御笹先生。生徒がこんなに意見を述べ、対抗している。教師団も同じように戦っていかなければならないのではありませんか?」
庸田先生がにやつきながら僕を見る。
「分かりました。では教師団代表として述べます。塚本里香の処分を保留とし、学校行事を変えていくことを約束したうえで解放します。よろしいですか」
「いいんじゃねぇの」
体育科の久利先生。
「おもしろいなぁ~」
理科担当の田仲先生。
「That‘s right!」
英語科外国人教師の松元先生。
他教師団も全員賛成の色を示した。
「全員一致とのことで、塚本志保の処分保留を認めます。では志保君、リリア君、里香君、とりあえず教室に戻りなさい。残りの授業時間は自習です」
「里香の解放に成功した」
「おお、でも解放したところでどうするつもりなの?」
「聞いてたでしょ」
「学校を面白くする…?」
「そういうこと。だから私はいま考えを持ってる」
「どんなの?」
「放課後、私と智香と優華とリリアと里香で集まろう。4時にJR前のシュークリーム屋さんで」
「了解、私は智香に伝えておくから志保はリリアと里香に」
「おーけ、ざっつらいとなのですー」
放課後、4時。
冬の外というのは極寒であるのは少し前も述べていたことである。
「ごめん、待たせたね…」
「遅い!何分待たせてるのよ(でしゅか!)」
志保とリリアが同時に怒る。
「担任にこっぴどく怒られていて…英語のことで…」
「40歳超えた人に怒られるなんてマジキチですね」
「うわ、里香いたの!?」
「はい、25分34秒前からこの駅のシュークリーム屋の前であなた達二人の到着を待っていましたよ」
「か、数えてるの…?」
「全て感覚で分かりますよ。あなた達には分からないのですか?」
「ごめん…そんな超人的な能力は持っていないよ…」
特に智香が強調して答えた。
「じゃあ行こうか」
かの有名ビアードママへと入っていった。
店内は大きい女店員がそれなりの声を張り上げて商品の宣伝や焼き立て情報を言っている。こういう雰囲気ならなおさら言いやすいかな、と志保は思う。
「それで話ってなんですか?私は興味がなかったら帰りますよ」
「まあまあ里香、ちょっと待ちなよ」
そして全員の目が志保に向けられる。
店内はうるさいがぎりぎり声が届く。
「部活を作らないか?」
誰もがその言葉に驚嘆やら疑問やらを覚えた。
最初に発言したのはリリアだった。
「部活…? 作れるのですか、それは」
「うん、一定のメンバーとそれなりの条件を満たしていれば誰でもね」
「おお~」
智香と優華が声をそろえて納得。
「…」
里香だけがまだ沈黙のオーラを破っていなかった。
「それで部活の名前はというとね…」
それは…。
「漫研部」
漫研部、漫画研究部の略称で誰でも知っている言葉。
実は暁には漫研部が存在しないのだ。
「どう、みんな」
志保は周りの顔色をうかがう。
「面白そうですね、それは。リアルでリア友と一緒に何かをするということは。学校を変えるということにも結び付きそうです」
里香は持っていたショタ雑誌から目を上げて、意見を述べた。
「ほかのみんなはどう思う?」
「いいんじゃないかな」
優華はにこりと笑顔で。
「それ最高! 職員室ジャストぉナウ!」
智香はテンションが上がりすぎて暴走。周りのお客さんから非難の目を浴びている。当の本人は気づいていないのは承知。
「私はまだ部活には無所属だし…いいよ、やってみようぞ」
「みんな…!」
「じゃあ、明日は生徒会担当の庸田先生の元へ行って部活申請用紙をもらってこよう、では解散!」
新たなスタートはここで幕を切った。
同時にそれは学校を変える、小さな彼女たちだけの世界が存在した。
「みんな、揃ったか! 番号!」
「いち!」
「…に」
「さ~ん」
「よんにゃ」
「そして…志保が5!」
翌日の昼休みの教室、志保達一同は職員室前でメンバー確認をしていた。
番号を言っていたのは、やりたかっただけ。めったにやる機会がないから一度ぐらいは体験しときたいという思いからだろう。
たまに通り過ぎる教師によくわからない5人組と、またその中に処分保留となったショタコン・塚本里香がいたからか、不審な顔をしていた。
「失礼します!!」
職員室の両扉を豪快に開けて、入り口。三本の通路のうち、真ん中の通路の真ん中付近に目的の教師がいる。
「庸田先生」
「ん? ああ、例のメンバーか」
「ええ、今日はとある用事があってきました」
「何だ?」
「部活を創設したいです」
「…」
腕を組んで考え始める。
「何部にする予定なんだ?」
「漫画研究部です」
はっきりと自信をもって答えた。
「どうしてだ」
「え?」
「どうして漫画研究部を作りたいと思ったのか説明しろっていってんの」
前向きに向き合ってくれたので、話を続けようとする。
「僕らはこのメンバーで何かがしたいんです。先生もお気づきでしょうが、私たちは世間一般では『オタク』と呼ばれる存在です。私たちはいわば心で通じ合ってる存在なのです。だから、このメンバーで何かを成し遂げたいという思いに駆られた末に、漫画研究部という考えに行き着きました。」
昨日3回ぐらい読み上げの練習をしていた甲斐があってか、すらすらと流暢に言えた。
前もってこのような質問が来るだろうと思って作った質問文・回答文は10組ほどある。これはそのうちの2つ目の内容だった。
(練習が役に立ったな…)
「やる気は本当にあるようだな。分かった。なら部活申請用紙を自分らで作ってこい。明日提出。いいか?」
「わっかっりました!!」
志保達一同は元気よく潔く、庸田先生に挨拶を済ませ職員室を出て行こうとする矢先、
「おおお前らいつものメンバーでなにしとんねん」
担任の久利先生が現れた。
「いえ、私たちにも事情があるんですよ」
「まぁ何でもいいが…これ以上成績を下げるようなことをしたら…分かってるよな?」
先生の視線は志保とリリアと里香には向けられず、少し後ろを歩いていた優華と智香に向けられたものだった。
二人は成績が悪く、学年257人中、230番以下のゴミみたいな連中なのだ。
だから勉強しなくてはならないのだが、廃人化している二人にとって勉強とはお荷物にすぎない。だから勉強しない。しかし優華に関しては国語だけはトップ層にいるので問題ない。
「はい、分かりました…」
「ああ、あと二人今日残れ」
帰り際にかけられたその言葉はとても重苦しいものだった。
「しかし申請用紙か…」
「何書く?」
「とりあえず活動名と場所、あとは活動内容じゃない?」
「活動内容…あんまり思いつかないです…うぅ」
「…こんなのはどうかな」
里香が提案したもの。
「出来上がり中二病のこの四人とそれ以外の一人による、『私はなんでもできる』をモチーフに活動する漫画研究部。以下同文」
「同文もなにもなってないじゃない! ていうかそれ以外の一人って…」
考える間もなく、
「私だ」
それは里香のことだった。
「却下」
智香が否定した。それに対抗して里香が、
「じゃああなたは何か案でもあるの…? 言って御覧なさい」
「わ、わかったわよ…えと…」
「私達五人による、漫画やライトノベルの執筆を行う。また他学年との交流を図るため」
「智香にしては上出来じゃない」
「なんか普通ですぅ…」
「…」
「いや、真っ向から否定するのやめない? とりあえずこれも一案として」
「じゃあ私の案はどうなったの…一案におかないの…?」
「それとこれとは違うの!」
「どう違うのかを説明して。いつどこで誰がどんなふうになにをしたかって感じで。英語で言うと5W1Hね」
「分かった…分かったから…しょうがないから一案に置いていてあげるわよ」
「…正義は勝つ!」
里香と志保の正面対決が終わったところで、
「リリアにも案がありましゅっ」
言うまでもなくリリアが言った。
「私が思ったのは、漫画研究部というのは他学年との交流を踏まえてこの学校から優秀な人材を選抜するもので、決して遊びなんかではない。従って入部テストも行い一定以上のレベルを超えた者のみを選定することとする。意義はあるかと聞かれるとみなさんはないと答えるだろう。だって私の意見は正しいのしゅ! といつもの通りに言ってみたら多分学校の生徒の大半は納得してくれるだろうなと思った。だから私は私の権力でこの部活を創設してみせることにしたのです!」
「えらい長いね…なんかあれだね、リリアが生徒会執行部の椅子に座って生徒会顧問の庸田先生に直々に態度と体(?)で強行説得してる様子が思い浮かぶよ…」
「どうでしょ! 結局私が正しいのですよ」
「でもこれは結果論であって、創設前の理由とはなっていないじゃない? だから却下。あ、一案としてもおかないわよ」
リリアの案は難なく(簡単に)却下され、優華は特に内容なので、じゃあ最後は志保ということで。
「私はね…」
「文化祭において、自分たちの作品の発表の場を作りたいから。応募するにあたって、未成年の場合成人の許可が必要となるので、顧問という責任者が傍についていると書きやすい。また、学校などの団体として応募することによって、会社側は作品を特別枠で見てくれる場合があり、選考はしてくれる。作品を応募すると評価シートが返ってくるので、それを元に次なる作品を作り出すことができ、またその評価を共有できる。漫画というものにおいて、他学年と交流しやすく、関係を築く基礎になる」
「漫画やラノベというのを避ける人も多いと思うんだ。だからこそ部活から始めて大勢の人に知ってもらうことが大切なんだと思う」
「まあごもっともだよね」
優華が初めてここで口を開いた。
「まぁいいでしょ。優華に許可もらったから決定」
「なかなか強引に決めるね志保」
里香もここでまともな意見を述べる。
「普通が一番なのよ、ここは。ちなみに里香に任せるとホモホモになってしまうから端から却下ね」
「…ちっ」
「というわけで明日の朝休みに提出ね。時間は…八時十五分に職員室前集合」
「あいあいさー」
翌日朝。
「みんな揃ったね~じゃあ行くよ~」
全員が揃ったようなので、職員室へと参る。
「失礼します!」
朝からいい声だね~晴れ晴れするよ、と別のあまり知らない教師に言われ、
「はい、私たちは運命共同体ですから」
と言って引かしてしまった事実は忘れてしまいたいほどだ。
「おはようございます、庸田先生。今お時間ありますか?」
「残念、ない」
「…」
すごーく暇そうにしているのに残念、らしい。
「そう泣かんでいいやん」
「別に泣いてなんかいませんっ」
「ごめんごめん、で用紙は出来たのか?」
「はい、一応」
教師に紙を差し出した。
「…」
「…」
「…」
「…」
「ほう。しかし足りない事項があるみたいだな」
「足りない…? 昨日みんなで出し合った意見ですのでそんなのあると思わないんですけど…」
「水戸黄門の名前の方の『ん』の字を抜いたやつだよ。抜かなかったらHな意味になるから木を付けてね」
「そんな下ネタ女生徒の前でばらまかないでください。そういうネタは小学校のころに使い果たしてます」
「まぁまぁ、で顧問の欄がないんだよ。探してこい」
「分かりました…」
――五人は探し人を見つける旅に出た
つづく――
「勝手に終わらしてんじゃないわよ!」
志保がリリアを殴った。
「だって日本のアニメっていつもいいところで次回に持ち越しとかよくあることじゃにゃいか! そんな感じで次回に続けたかったんだよ~ぶうぅ」
「ぶうぅ、じゃないのっ。確かに代表例としてドラ○ンボールとかそうかもしれないけどさ」
「かめは○はー!!!」
全員が志保に向かって打ってきた。
「う、か、カ○ロット…俺はお前を許さない…認めないぞ!…馬鹿なことやらしてんじゃないわよ!!」
「ははは、さすが関西人ですね~」
「そうか…外国ではないのか…てか指さして笑うんじゃないっ」
この五人全員が中二病というのは嫌でもわかることさえも嫌になってくるのはなぜだろうか…。
そう騒いでいるから教師に怒られ、馬鹿なことするぐらいなら勉強しろと言われの無限ループなのだ。いい加減学習しろと思う里香だった。
「おい、里香。執行猶予期間なんだから気品よくいろ」
一番わかっていないのは里香だった。