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第三章―7
動物の臓物の匂いがした。
道路で猫が轢かれて死んでいる。
原型を留めないほどに、赤黒い肉の塊は散乱して、雨に濡れていた。
近くで子猫が泣いていることに気付いた彼女は、そっと抱き上げて、これ以上濡れないように自分の服の中に潜り込ませた。
よく人に慣れている猫だ、きっと人から餌を貰っていたのだろう。
そんな彼らも、最期は人に殺された。
「ごめんね、一人じゃ寂しいからね」
錆びたポールをくぐって、中へ入っていく。
雨の勢いは一層増して、波は高く、海は濁っていた。
「一緒にお母さん探しにいこうね」
ずぶ濡れの鞄から、睡眠薬を大量に取り出して、三回に分けて飲み込んだ。
雨が落ちる小さい波紋はかき消され、波になり、いずれ消えた。
暗い、暗い、光も、もう何も届かない場所で、静かに暮らす。




