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第一章-10
二人の会話を遮るように猫がにあ、にあと鳴く。
木戸を開けて空を見上げると、高い空にうろこ雲が伸び伸びと泳ぎ、金木犀は鼻を突くほどに香り高い。
人気も無いのに何処からか流れてくるラジオからの音楽は、人がまだ季節が変わることを名残惜しむように、軽快なナンバーが流れてくる。
少年たちはやり終えた花火を片付けもせず、ひとつのシンボルのようにそれを夏に置いてくる。
祭のゴミは早々に片付けられるが、そこに残る黒いしみは人が忘れ去るまで消えやしない。
ツクツクボウシも鳴き終えて、せみの抜け殻は風と共に解け、土へ還る。
彼は生き生きとやってくる初秋に辟易しながら、残り少なくなってきた缶詰をいくつか開けた。
幼猫たちは嬉々としてそれに飛びつくが、親猫はこちらを見つめるだけであった。まるで彼の気持ちを見透かすかのように。
彼は一端が切られた麻縄を手に取った。
脚立が、大きな音を立てて倒れた。




