海賊はマイペース
すみません、パターン化してますがお待たせいたしました。ようやく更新です。ほんとうに毎度毎度(涙)お持たせしています。最後までお付き合いしてくださる方が、どれだけいらっしゃってくださるのか、この頃不安になって来ましたが、そんな作者の気兼ねなんかお構いなしで、海賊王は我が道を突き進んでおります。
「それで?彼はなんて?」
「おお、そうなんですよ旦那!おれっちもびっくりしたんですがね、旦那とそっくりなのがいるって言うんですよ!」
「そっくり?」
それは顔なのか何なのか。
「なんです?えっと、ちょっと遠いらしいんですけれどね。王様会議みたいなのがあってですね」
「王様会議・・・」
どんな会議なのか。多分それはいろんな国の国王などが集まる世界規模のかなり重要な会議なのだろうけれど。王様会議などと言われてしまうと何とも形容しがたい。
それでもタカが一生懸命しゃべるので、ツッコミは入れずにおく。
「その会議で、どうやら旦那みたいに生きている伝説みたいな人物がいるって、他所の国の王様から聞いたらしいんですよね」
「え・・・・・っと?それはどういう事?」
「セインみたいに非常識な生きている化石が他にもいるっていう事?」
横からキャルが、非常に辛辣な質問を出した。
「生きている化石って、僕、化石?」
密かにショックを受け、心の奥で泣きながら、セインはタカに話の続きを促した。
「まあ、その、そういう事です」
キャルに睨まれながら、タカは頷く。
「それで是非とも、その話をお前さんに伝えてくれって言うんでなあ?」
タカの頭を肘掛代わりに、のっそりとギャンガルドが割って入った。
その顔はいつもどおり、のらりくらりと笑っているが、どう考えても楽しんでいる。
「・・・・・・わかったわ。セインのような人物が、この世にもう一人いるのね?」
「うん。そう」
見上げるキャルを、白い歯を見せてギャンガルドが見下ろした。
「どうする?お嬢ちゃん」
しばらくギャンガルドを見つめていたキャルだったが、盛大に溜め息を吐き出した。
「どうするもこうするも、ギャンギャンの言う事なんか信用できないもの。どうもしないわ。私たちは私たちの旅を続けるだけよ」
そう言って踵を返し、セインの服の裾を引っぱった。
「ここでギャンギャンを捕まえても良いのだけど、行くわよ。セイン」
「キャル・・・」
セインは、うつむいてこちらを見ようとしないキャルを片腕に抱き上げて、いつもの大きなカバンを逆の手に持った。
「悪いけど、海賊王の君の事だもの。何かと引き換えなんでしょう?国王と海賊が取引したなんて、国民に知れたら大変なことになると、彼に伝えておいてくれるかな?」
セインはキャルを抱えたまま、ギャンガルドたちへ背を向けた。
「それで、良いのかい?」
意外そうに、ギャンガルドがタカの頭をぐりぐりといじりながら聞いてくる。
「だって、僕は仲間を求めちゃいないもの。もし、その人物が本当にいるのだとしたら、僕みたいな大馬鹿者が、この世に二人も存在してしまうことになる。それは、ありがたくはないと思うのだけれどね?」
「ふん?ま、取引してるってのはアタリ、だけどな」
タカに邪魔されて、彼のつるつるの頭から両手を離しながら、ギャンガルドはセインの背中と、担がれたまま大人しくしているキャルから視線を外さない。
「じゃあ、君は国王からの伝言を、僕らに伝えたのだし、取引は成立したわけだ。僕らはこれから行くところがある。新しい約束も出来たしね」
振り向きもせずに歩き出したセインを、ギャンガルドは止めなかった。
止めなかったのだが。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
野原を抜け、ゼルダのお屋敷も完全に見えなくなり、馬車も通る街道に出た。次の宿場町の看板も見つけ、目的地も定まり、キャルも自力で歩き出した。
「あら、セイン」
「何?」
「あれ、そうよね?」
キャルが指差す方向には、民家の屋根。看板のとおり、宿場町が見つかったのはお昼前。
「ねえ、キャル?」
「何?」
「僕ら、考えていることは一緒だと思うんだけどさ」
「ええ。そうね」
ここまで来たら、いっそ誰が振り向くものかと、二人とも黙って、ひたすら進んできたが、それももう限界だった。
「走る?」
「ダメよ。追いつかれるわ」
「じゃあ、いっそのこと?」
「・・・・・・・それでも良いけど、それはそれで、相手の思う壺みたいで、なんだか癪に触るわ」
「とりあえず、出しても良い?」
言うなり、セインは両手を持ち上げ、一度体内に納めた剣を取り出そうとしたが、キャルが止めた。
「町の近くで、セインロズドは出さない方が良いわ。だったら」
ドドン!
振り向きもしないで、素早くスカートの中の銃を引き抜き、後方へぶちかます。
「のわあああああ!」
「お嬢!俺!俺もいるから!」
海賊の悲鳴が二つ。
「いつまでもくっついて来るからよ!」
「用事が済んだんだから、船に帰ったら良いのに」
走り去りながら、キャルとセインが交互に怒鳴る。
ギャンガルドは、二人に伝言を伝えた後も、何食わぬ顔でぴったりと、キャルとセインの後に着いてきたのだった。タカは当然、付き合わされている。
「キャルに渡してくれって頼まれモノがあるんだけどよお!」
ギャンガルドが怒鳴り返す。
「嘘よ!ギャンギャンなんか、この世でいっちばん!信用できないもの!」
走る足の早さもゆるめずに、キャルがまた怒鳴り返した。
「ほんっとうに、信用されてませんね。キャプテンって」
「うーるせえ。そうそう人に信用されてたまるかよ」
信用されたくないというのもおかしい気がするが、キャプテンなのでなんとなく分かる気がするタカだった。
ぶつくさと文句を口の中で呟いて、ギャンガルドとタカは二人の後を追いかける。
「ねえキャル。僕の剣を出すのを止めるなら、銃を町の近くで撃つのもどうかと思うんだけど」
「いーのよ。撃ちたかったんだから」
そんな会話が、前方から聞こえてくるのに、タカはしみじみ泣きたくなった。
「本当に、ほんっとうに、本気で嫌われてますぜ、キャプテン」
「嫌われてたってこっちが嫌ってなきゃ良いんだよ!」
「そりゃあ、そういうもんなのかなあ?」
「そういうモンなんだよ!納得しとけ!」
「はあ。じゃあ、納得しときます」
海賊はどこまでもマイペースだった。
「投げるから受け取れよー」
あんまり間延びした声が後ろから聞こえたので、イラついて、ついキャルが後方へ振り返った。
「えっ、ちょっと、何?」
こっちは何も構えてもいないのに、ギャンガルドが何かを放り上げるのが見えて、キャルは思わず両手を伸ばす。
ギリギリ指先で捕まえたのは、小さな小さな、木細工の、可愛らしい人形だった。
「これっ」
なんとなく、ゼルダに似ているのは気のせいだろうか。
からん、と音を立てて、関節部分がちゃんと動く。大人の手の平に収まる大きさなのに、つくりはとても凝ったものだった。
「さっきの森の中で、背中の曲がったおっさんが、大事そうに持っててよ。それ、お前さんに渡してくれってさ」
いつの間にか、すぐ傍まで追いついていた海賊たちだったが、キャルにはもう、そんなことはどうでも良かった。
「あんたたち、ピーターに会ったの?」
キッと、ギャンガルドを睨み上げた。
手の中にある銃のトリガーに、しっかりと指は掛けられたまま。
「おいおい、よしてくれ。何にもしちゃいねえよ。でっけえ屋敷の近くを通ったら、あんまり変わった風貌の男が、顔に似合わねえ人形なんか持っているから、なんだか面白そうで声を掛けてみただけだよ」
肩をおどけてみせるギャンガルドだが、キャルの眼光は、ますます鋭くなるばかりだ。
この男の事だ。もしかしたら、ゼルダ屋敷のオートマタドールを嗅ぎ付けているかもしれない。