なんだかんだで喧嘩腰
またまたお待たせいたしました。何度やっても喧嘩を始めてしまうので、もうどうしようかと・・・。とにかく、UPです。もうちょっと続きます。
海賊業といえば、略奪だ。
ひもじいから略奪するのかどうかは別として、まあ、自分たちと別れて間もなく、何処かの船を襲ったらしい。
「それで、どこの船を襲ったって?」
海賊が襲うのだから、それはそれはお金持ちに違いないか、たいそう立派な商船か。
「・・・・まって。さっき、王族って、言った?」
ふと思い当たって、セインは青ざめた。
「おう。言った」
当たり前のように返事が返ってくる。
「王族なんかの船を、よくもまあ」
呆れ返るセインにギャンガルドはにやりと笑う。
「王族ほどの金持ちは、そうそういないだろ?」
それはそうなのだが、王族は王族だ。
どこの国の王族だろうが、警備はそりゃあもう、もの凄いことだろう。普通なら、いくらなんでも避けるものなのだ。
「目の前にお宝と食料と、きれいな女がいりゃあ、仕掛ける理由は充分だろう?」
「成功すればね。王族相手だもの。収穫は凄いだろうさ」
「へっ、なあに。手前の国民から搾り取ったモンを、ちいっと分けて貰おうってんだ。別に悪くはないだろう?」
悪い悪くないの話ではないのだが、どうもギャンガルドの頭の中では、それで説明できてしまうらしい。
「・・・・・・まあ、いいや。それで、僕らの知り合いの王族だって?」
「おう。なんだか知らねえが、お前さんの話をしてたからよ」
「何で船を襲って僕の話になるのさ。そんなの、セインロズド目的の会話なだけだったんじゃないの?良くあるもの」
セインロズドの名前など、あちこちで話の端にくらい上るだろう。まして、王族などの権力者であれば尚更だ。
「おいおい、それっくらいで、わざわざ俺が大賢者探して陸に上がると思ってんのかよ?」
「君ならやりかねないだろう?」
すっぱりと言われれば、さも嬉しそうに、ギャンガルドはにんまりと笑った。
「気持ち悪いわね」
「ホントホント」
キャルが眉間に皺を寄せ、タカが相槌を打つ。
「こら。お前、俺の手下だろうが」
「だって、気持ち悪いモンは気持ち悪いっすモン。やめたほうがいっすよ?その顔」
自分の手下にまで言われて、ギャンガルドは眉毛をハの字にした。
「だんだんこの二人に似てくるなあ」
突っ込み方から会話のかわし方まで。このままでは船長としての沽券に関わるではないか。
「良い傾向じゃない?いつも人で遊んでいるからよ」
いい気味だといわんばかりに、キャルはニヤリと笑って、ギャンガルドを睨み上げた。
「さて?」
ギャンガルドはとぼけてみせる。
「まあ、ギャンギャンに関しては、あとでタカとキャルに叱ってもらうとして」
「おいおい。なんだあ?何で俺がこの二人に叱られるんだよ?」
セインの言葉に、ギャンガルドが抗議すると、セインはにっこりと微笑み、いつの間に構えたやら。
ギャンガルドの首筋に、セインロズドの切っ先が、またもやスレスレのところで留まっていた。
「それとも、僕が叱った方がいいのかな?」
海賊王が、刃を突きつけられたまま口笛を吹き、不敵に笑う。
「やっぱ、惚れちまうね」
「むさくるしい男に惚れられたって、僕にそっちの趣味はないんだけど?」
ちょっと前に、尻を思いきりこの男に撫でられたのを思い出し、セインは心底嫌そうな顔をした。
「ま、物騒なモンはしまってくれや。きっちり話を進めようか」
刃先をつまむギャンガルドの手を叩いてどけさせると、セインは剣を一振り払って、脇に持ち替えた。
「・・・しまっちゃくれねえのかよ?」
「前に言っただろ?君は信用できないからね」
油断大敵なこの男を前にして、セインは一時たりとも気を抜く気はないようだ。
「やれやれ」
ブツブツと文句を言いながら、ギャンガルドはようやく腰を落ち着かせた。
「で?私たちの知り合いの王族が何?」
キャルが話を促せば、ギャンガルドはにやにやとキャルを見やった。
「見当は付いてるんだろ?」
「そりゃあね?わたしとセインが知っているっていったら、一人しかいないもの。・・・というより、王族もいいところじゃない。王様でしょ?」
「へえ?」
わざとらしく驚いた顔をして見せるので、キャルもセインも、カチンと来た。
ドドン!
「のわ!」
すかさず撃たれる。
「あーあー、キャプテンも懲りないっすねえ?」
「いいの!俺はこれで!」
「へーい」
あきれる部下に噛み付く海賊王。
「ホント、君らクイーン・フウェイルのクルーは、苦労するよね?」
同情すれば、タカがこくこくと、何度も首を縦に振る。
「それでも俺が好きだろ?」
「あー・・・」
ギャンガルドに面と向かって言われれば、禿げた頭を真っ赤にして、タカが言葉に詰まる。
「自惚れさんだわ!自惚れさんがここにいるわ!」
「自信過剰なヤツって嫌だよねー?」
キャルとセインが二人でこそこそ話し込めば、ギャンガルドがフッと微笑んだ。
「なんだあ?二人とも。俺に惚れたか?」
ちゃき
すぐそばで金属音。
右のこめかみに銃口。
左の首筋にセインロズド。
「だから、僕にその気はないと言っているでしょう?」
「私だって、ギャンギャンなんか無理だし」
恐ろしく冷たい空気に挟まれて、ギャンガルドは身動きが取れなくなった。
「ああ、だからキャプテン、少しは懲りて下さいよお」
泣きそうなタカが、キャルに縋り付いて、ようやく二人はギャンガルドを解放した。
「タカを連れて来て正解だったなあ」
パタパタと顔を手で扇ぐギャンガルドに、セインもキャルも、冷たい目線を向けたままだ。
「とにかく、私たちの知り合いの王族なんて、この国の王様その人しかいないのよ。分かっていてそういう態度を取るんだから、容赦しなくて当然でしょう?」
「僕らで楽しむより、他にいくらでも楽しませてくれる相手がいるでしょうに」
「命がけで楽しめる相手なんか、そうそういねえよ」
からかった相手にからかい返されたり、下手をすると冗談が通じず、本気で命が危なかったりするのだが、それさえ楽しいらしい。
「いろんな意味で命がけっずね」
ハンターの中でも凄腕で知られるゴールデン・ブラッディ・ローズと、伝説の大賢者相手であれば、どんなことでも不足はないといったところか。
しかしそれにしても。
「こんなことで命を落としたいなら、いくらでも落とさせてあげるわよ?」
からかって命を落とすなら、命なんていくらあっても足りない。
「ええと、そ、そうだ!お嬢!王様と知り合いって、凄えじゃねえかい!」
タカが必死に話を元に戻す。
「知り合いっていうか、どちらかと言ったらセイン絡みよね」
キャルが気の毒に思ったのか、タカの話に受け答え、気の良い海賊船のコックは、ひとまず胸を撫で下ろした。
「僕がらみっていうの?」
「だって、おじいちゃんの上司でしょう」
「いや、上司って事じゃないんじゃ・・・」
国王とその臣下は、別に会社勤めをしているわけではない。
「まあ、似たようなものか」
とりあえず納得しておくことにする。
「思いっきり省略するけど、僕が昔仕えた人の子孫が貴族でね。それで、王とも繋がりがあるんだよ」
思いきりと言うとおり、思いきりよく省略して説明したが、それでタカは納得できたらしい。
しきりに感心している。
「へえ!旦那はやっぱ一味違うお人に仕えてなさったんだなあ」
「・・・・」
「なんすか?」
「いや、何でもないよ。あの説明でよかったかと思ってね」
きみは一味どころか二癖も七癖もある人に仕えているじゃないか、などとは、気の毒で言えない。
「彼はもともと騎士だったしね。それで、王様が何だって?」
ギャンガルドよりも、タカから話を聞いた方が早いと、セインはタカに話を促した。
「ああ、そうそう。なんだか旦那、やらかしたみてえじゃないですか」
「は?」
国王がどうしたのか聞きたいのに、自分が何かをやったとは、どういう話の展開か。
「愚痴ってましたぜえ?セインロズドのせいで、我が親衛隊はすっかり自信をなくしてしまった、とかどうとか」
口真似をしながらのタカの説明に、思い当たる事があるので、セインは言葉を濁した。
「あー・・・」
「まあ、そういいながら、エライ精鋭ぞろいで、苦労したんですがね。船がでかいわりに一隻でうろついてっから、国王旗なんか出してるけども、王族の端くれのどれかだろうって乗り込んでみたらいけねえや。王様そのものでやんの。のん気な王様も居たモンですよ」
普通なら、国王ともなれば護衛をつけて厳重に、団体で航海するものだ。それを一隻で航海をしていたというのは、この国の国王らしいというか何というか。
「彼は君らのキャプテンと、似ているところがあるからねえ」
しみじみと、セインが呟けば、タカはうん、うん、と、首を縦に振っている。
「そりゃあもう。用があるなら余を通せ、なんて、大音声で登場して、一気にキャプテンと意気投合ですよ。珍しいもん見たなあ、ありゃあ」
「ギャンガルドと意気投合・・・」
それは確かに珍しい。