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HEAVEN!ヘヴン!HEAVEN! 2  作者: coconeko
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逝く側と残される側

また、お待たせしました。もうちょっと、もうちょっと続きます。

「ピーター、うまくやっていけるかしら」

 振り返って、森の木々に隠れて屋敷が見えなくなった頃、心配そうにキャルが呟く。

「大丈夫でしょう。多分、ゼルダはまた、彼と一緒に暮らしてくれるだろうし」

「だって、もう人形だわ」

 もう、可愛らしく笑ってくれることもない。あの花のような唇で、楽しそうにおしゃべりしてくれることも、綺麗な庭で走り回ることもない。

 彼女の歯車の心臓は、キャルの胸に下がって、キラキラと輝いている。

「忘れた?元から彼女は人形だったんだ。ピーターの思い入れが、彼女を作ったんだよ?」

 死んだ少女の面影を、オートマタドールに写して、オートマタドール以上のドールになった。

「亡くなった領主の娘ではなく、自分の娘として、あのオートマタドールのゼルダを受け入れたんだから、ドールだって、それに応えてくれるさ」

 それは、また、以前のように、人と変わらぬ仕草で、自分の意思で、あの人形が動くという事だろうか。

「僕らさ。ゼルダに違和感を感じてたと思うんだ」

 森の中の一本道を、鞄を引きずりながらてくてくと、二人並んで歩く。

 つい先ほどまで、あの屋敷で起こったことが嘘のように、森は静寂で、朝日が枝葉の間からこぼれる様は清々しい。

「ゼルダの気配を感じ取れなかったり、何か変な冷たさを感じたり」

「あの子が人形だったから、てこと?」

「そうだろうね、きっと」

 人ではない、生命のない存在である彼女に、存在としての微妙なズレを感じ取っていたのだろう。

 彼女にあっさり背後を取られたことも、セインが屋敷に来るなり感じた冷たさも、生命の温度を感じなかったからに他ならない。

「そうね。そう言われれば納得がいくけど」

「けど?」

「あの子はそれでも、生きていたって、思うわ」

 たとえ、あの木と皮で作られた、歯車だらけの身体でも。脈打つ心臓と、体中を流れる熱い血が一滴も無くても。

「うん。そうだね。僕みたいな存在がいるんだから」

 もし、ゼルダがまた、以前のように自分の意思で動けるようになったなら、ピーターは自分が動けなくなる前に、彼女を停止させられるだろうか。

 それが出来なければ、ゼルダは壊れるまで彷徨うことになってしまう。

「二人が、幸せになってくれるといいんだけどね」

 願わくば。

 終焉が訪れるその時まで、二人が幸せであれば良い。

「本物のゼルダのご両親には、あのドールは辛いものがあるかもしれないけど」

 それとも、喜ぶだろうか?

「・・・・・・・?な、何?」

 下から視線を感じて見てみれば。

 キャルが歩きながら器用に、自分の顔を覗きこんでいる。

 変なことを言ったかと、聞いてみる。

 すると、思い切り盛大に溜め息をつかれた。

「な、なに?僕何か言った?キャル?」

「別に?」

 そう言いながら、視線は外さない。

「別にって、そんな顔じゃないじゃないか」

 これでは気まずい上に歩きにくい。

「セインって、苦労症よね」

「へ?」

「ゼルダのこと、本物の人間のゼルダのこと、その子の親のこと、ピーターのこと」

 キャルが、指折り数える。

「だって、気にならない?」

「あたしは、あたしが会ったゼルダのことしか頭にないわ」

「そうかもしれないけれど」

 失った大切な人にそっくりな姿をしたドールがあったら、自分はどう思うだろうか。

 死んでしまった人は、二度と帰っては来ないのだと分かっている。それでも、もう一度、会えるものなら会いたいと思ってしまうのは、罪になるのだろうか。

 たとえどんなに似ていても、それは同じ人ではないのだと知っていても、求めてしまうのではないか。

 厳しいことを言いはしたけれど、ピーターの気持ちも分かるのだ。

 長い時を、沢山の人の死と共に生きてきたのだから、今更そんなことを考えるのはおかしいことなのだけれど。

「・・・・・」

 黙ってしまったセインに、キャルはまた、盛大に溜め息をついた。

「キャル?」

 声をかけた瞬間、鈍くて重い傷みが顎に直撃した。

「あぐうっ!!!!」

 あまりの痛さに、顎を押さえてうずくまる。

「ひ、ひろいお!」

 直訳。酷いよ!

「あんまり阿呆な顔しているからよ」

 言いながら、キャルはキャルで頭のてっぺんをさすっている。

 キャル渾身の頭突きが、セインの顎にクリティカルヒットしたのだった。

「大方、くらーいことでも考えていたんでしょうけど」

「暗いことって」

「違うの?」

「違わないです」

 ぷい、と、また前を向いて、キャルが大手を振って歩き出すので、セインは顎をさすりながらカバンを引きずり、後に続く。

「まったく」

「へ?」

 会話が止まると思い込んでいたので、キャルの大きな声に、気の抜けた返事を返してしまった。

 ぐし

「!!!!!!!」

 思い切り足を踏まれ、声にならない声を上げる。

 ぴょんぴょん飛び回るセインにはお構いなく、キャルはまた前を進んで行ってしまうので、セインはズレた眼鏡の下の涙を拭いながら、一生懸命追いかける。

「あんたがそんなだから、私だっておちおちしていられないじゃない」

 一体、キャルが何をそんなにぷんぷん怒っているのか、セインには分からない。



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