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煩悩まみれの元勇者、ダンジョン配信で無双する 〜金と女と名誉のため、炎上覚悟でバズを目指します〜  作者: 新田青


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3/3

二話


「はあ」


 もう何度目のため息だろうか。


 ビットカメラの画面は何も映さない。コメントも、視聴者数も、希望も。


 だが、けなげに俺について回るのを見て目頭が熱くなる。


「……それにしても人が少ないな」


 時間は朝5時のため、人が少ないのはわかるが。それにしてもダンジョンというのはあまり人気がないのだろうか。


 ここは都内の目白に出来たダンジョンで住んでるアパートから一番近い場所だ。


 一応は初心者用のダンジョンらしいが、すれ違ったのは割と歳を食ってそうな人たちばかりだった。


「それにしても、そんなにおかしいのかな? 俺の格好」


 今の俺は白いTシャツに黒のハーフパンツ。そしてクロックスに木刀だ。


 サンダルはまあ置いといて、運動しやすい格好で来たつもりだったが、人とすれ違うたびにギョッとした目で見られる。


 あまりに凝視されるため、少し恥ずかしさも出てきた。


 確かに入り口で出会った女の子もちゃんと防具を身につけていた。すれ違う人も俺みたいな格好の人間はいなかったように思う。


 俺も周りに足並みを揃えて必要でもない装備を買うべきだろうか?


「でもなぁ……高いんだよなぁ」


 俺も一応は、ダンジョン配信を始めるに当たって装備とやらを見に行った。


 だが、あまりにも値段が張るため、店員に財布を取ってきます、とだけ言って逃げてきた。


「うーん。でも流石に悪目立ちするし、次からはもう少しちゃんとした格好するかぁ」


 そんなことを呟きながら進んでいると、前方に見たことがない魔物がいた。


 背中から何本も触手を生やしたデカい蜘蛛だ。


「気持ち悪っ!」


 あまりの悍ましい見た目につい言ってしまった。


 俺の言葉が聞き流せなかったのか、蜘蛛の魔物はゆっくりとこちらを振り返る。


「ん?」


 魔物の奥に誰かが倒れているのを見つけた。


 蜘蛛の触手が一本口の中に入っていて、白目を剥いて気絶している。


「あれってさっき会った女の子か」


 確か名前はユッカだったか。有名な配信者らしいが、思ってるより実力はないのか?


「──」


 蜘蛛の魔物が臨戦体制を取った。牙をガチガチと鳴らしながら触手を大きく揺らす。


「あ? なんだ? やるのか?」


 魔物に言葉が通じるとは思っていなかったが、なんだかむかついたためそう言った。


 するとそれを隙だと感じたのか、蜘蛛の魔物は器用に壁を走りながら近づいてくる。


 その鋼鉄の様な脚を突き立てるたびに、地面が揺れる衝撃がこちらに伝わってくる。


「触りたくないしこっちでやるか」


 木刀を右手に持ち、左手のひらに数回打ちつける。


 その間にも魔物は目前まで迫ってきていたが、俺は木刀を頭の上に持ち上げてその時を待つ。


 間近に迫った蜘蛛と目が合った瞬間、俺は木刀を振り下ろす。


 ゴミ袋を丸めたみたいな音が響いた。


 狙い違わず頭部に当たった木刀は、魔物の頭蓋を半分ほど割り込んで刀身の根本から砕け散る。


「手加減したのにっ!!」


 魔物は絶命したが、俺の木刀も息絶えた。さらば修学旅行の思い出。さらば2680円。


「くそっ……ダンジョン配信なんて儲からねえじゃねえかっ」


 俺は倒れている女の子に近づいていく。どうやら意識は戻ってきているようで、目の焦点は合い始めてる。


 倒れたまま荒い息を吐いている女の子の体を起こし、俺はその口に入れられていた触手を引き抜く。


「──」


 声にならない声を上げた女の子だったが、まだ終わりではない。


 女の子の口の中に手を入れ、無理やり嘔吐させる。


「おぇえ」


 涙目になりながら地面に吐瀉物を吐いた女の子を見て、俺は一息ついた。


「大丈夫か? なんか魔物に毒盛られてたみたいだったからさ」


「げほっ! ごほっ!」


 まだ咳き込んでいる女の子の前に腰を下ろして、俺は喋り出すのを待っていた。


「──あなた何者なんですか?」


 こちらを見る女の子の目は、異世界でよく見たものだった。


 ──主に魔族からこんな目で見られていた気がする。


「25歳……ふ、フリーター」


 自分の頬が熱くなるのを感じた。一回り年下に見える女の子に、自らの素性を晒す恥じらい。


 こんな胸を締め付けるような思いは異世界でも数えるくらいだった。


「ふ、フリーター? え? どういうことですか……?」


 女の子はまだ混乱しているのか、視線を右往左往させながら言った。


 まさか、25歳でフリーターの男を見たのは初めてという事だろうか。なんて、心を抉る言葉だろう。


「あ、ビット君」


 傷ついた俺を慰めるように近づいてくるビットカメラ。


 だが、その小さな球形の身体を抱きしめようとした瞬間、ボンっと音を立てて地面に落ちた。


「う、うう」


 遂に堪えていた涙が溢れた。


 見てみぬふりをしていた俺の15000円。その呆気ない退場にこれから一週間の極貧生活が頭に浮かんだ。


「え? あ、あの? なんで泣いてるんですか?」


 目の前の女の子に聞かれ、俺はそれに答えることができなかった。


 ひしゃげた木刀と、燃えるように熱くなったビットカメラを報酬に、俺はダンジョン配信を切り上げることにする。


「──ちょ、ちょっと! 待ってくださいよ!」


「ごめん……俺もう無理。帰る。もやし買いに行かなきゃ……。あ、でもまだスーパー開いてないっ」


「もやし!? 一体何のことですか!? それより、行く前にあなたの名前を教えてください!」


「名前……も、もしかして、まだ何か金がかかるのか……?」


「え?」


 こんなところで人の名前を聞くなんて、何か金銭を要求する以外考えられない。


 俺が何かルールを侵して、その違反金みたいなのを徴収されるのだろう。そんな経験は自転車の違法駐車だけで十分だ!


「悪いが無い袖は触れないんだ! じゃあな!」


「え? ええっ!?」


 魔王の13連ビームを避ける時と同じ速度で、俺はダンジョンを戻っていく。


「──ちょっとぉ! 待って」


 女の子の声が響いたが、既に彼方である。俺は子供の時から徒競走が得意だったのだ。


 あの異世界のフィジカル怪物巫女からも、逃げおおせてきたのだ。


 走りながら俺は考えた。


 不安は取り除けたが、問題は全く解決していないどころか、逆に窮地に立たされている。


 当面はアルバイトで食い繋ぐしかない。それもすぐにクビになりそうだが。


「どうして俺がこんな目にっ……」


 すれ違った人の悲鳴を聞き流しながら、俺は僅か四畳のボロアパートへと帰路につくのだった。



 ――――――――――――――――



「な、何だったの?」


 ユッカは男が走り去っていった方角を見ながら呟く。


 その地面にはラッセル車が通った様な足跡が続いている。


 一体どんな脚力をしているのだろうか。


「ねえ見てた?」


 ユッカは自分のビットカメラに問いかける。ホログラムのコメント欄が凄まじい速度で動いている。


『やばすぎる』

『多腕蜘蛛を一撃って、どんな怪力?』

『ビットカメラ持ってたって事は同業者なのかね?』

『S級の探索者じゃないの? にしては貧乏そうだったけど』


 視聴者数は8000人。


 早朝のこの時間にしては多い方で、ユッカも自分自身をある程度は認知度の高い配信者と思っている。


「なんかあの人について情報ないの? 私、お礼も言えてないんだけど」


 ユッカはコメント欄に聞くが、返ってくるのはお忍びのS級探索者ではないのか、という答えだけだった。


 仕方ない、とコメント欄から目を離そうとした時、一つのコメントが目に入る。


『チャンネルのURL貼っときます。ジンって配信者らしい』


 ユッカは思わずビットカメラを掴む。


「ジン……」


 視聴者が貼ってくれたURLを開くと、チャンネル登録者がたったの二人しかいないチャンネルだった。


「本当にこのチャンネルで合ってるの?」


 チャンネルのトプ画を見ると、初期設定のままの画像だった。無機質なジンという名前が青い背景に表示されているのみ。


『自分さっきまでその人の配信見てたんで』


「ふーん。そうなんだ。ていうかプロフィールのこれってどういう意味?」


 ジンのチャンネルのプロフィールには【金に操られるな。金を操れ】とただ一文書いてある。


 何かの金言なのだろうか。それとも、大した意味はないのだろうか。


(でもあんな凄い人が、適当な事言うわけないかな?)


 ユッカは顎に手を当てて考えながら、高校に行くために自宅へ一時帰宅するのであった。


 


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