奇妙な縁と過干渉
ある日の放課後、僕と天が二人での通学路を歩いていると、
「柚希?」
と言う声に僕は振り返った。その先にいたのは…。
「母さん?」
母は、女友達と二人で歩く俺を見るなり、警戒心が露わになった。
「柚希!こんな所で何してるの?隣の子は…」
母は天を上から下まで値踏みするように見た。
俺は覚悟を決めた。ここで隠す必要はない。
「母さん。紹介するよ。彼女の、宮野天さんだ」
母は、その言葉を聞いた瞬間、笑顔を消し、表情が一変した。
「初めまして。宮野天です。柚希君とお付き合いさせていただいています」
天は姿勢を正し、柔らかな笑顔で丁寧に挨拶をした。
「まあ、ご丁寧に。本田桜子です」
母は笑顔の裏に冷たさを隠したまま、続けた。
「柚希はね、昔から体が弱い子なの。特に、最近は…あまり無理をさせないでちょうだいね」
母の言葉は、僕の病気の事実を匂わせ、天を牽制するものだった。天の表情が一瞬硬くなったが、すぐに気丈に微笑んだ。
すると、鈴が、母の背中から顔を出した。
「あの…お姉さん、どこかで会ったことありますか?」
鈴が不思議そうに尋ねた。
「もしかして、天お姉ちゃん…玲先生に雰囲気がそっくり!」
鈴が声を上げた。
その瞬間、天の笑顔が凍りついた。
「鈴、失礼でしょ!」
母が注意したが、天は優しく鈴を見つめ、「…そうかもしれないわね。鈴ちゃん、これからもピアノ頑張ってね」
と頷いた。
天は俺に「また明日ね」と笑顔を残し、帰っていった。
天が角を曲がって見えなくなった途端、母は表情を一変させた。
「ちょっと、柚希!『彼女』って、どういうことなの!」
「そのままの意味だ。なんでそんなに詮索するんだよ」
僕は苛立ちを隠さなかった。
「詮索じゃないわ!柚希、あなたは病気があるのよ!余命がどうなるかもわからないのに、そんな重い責任をあの子に負わせてどうするの!?ただでさえ、バスケをやめてから…」
「バスケは関係ないだろ!」
僕は思わず声を荒げた。
「僕の人生だ!誰と付き合うのも、僕の勝手だろ!過干渉なんだよ、母さんは!」
母は立ち止まり、悲しみに満ちた目をした。
「過干渉?そうよ、過干渉よ!だって、あなたは…あんな怪我をして、そして病気まで!母さんは、あなたが幸せになってほしいだけなのよ!」
母が言いたいのは、僕の病気のことだ。僕が病気のことを隠そうとしているのを知っていながら、この場でそれを口にできないもどかしさを感じているのだ。
「母さんの言う『幸せ』は、僕を檻に入れることじゃない。僕は、僕の人生を生きたいんだ」
母はそれ以上何も言わなかった。鈴も悲しそうな、穏やかな笑みを浮かべていた。