感じる違和感、隠れる本音
始業式から数日、いつもと変わらぬ朝食を食べていると、母の桜子が声を掛けてきた。
「柚希、具合はどうなの?」
「別に、普通だよ。変わりない。」
「そっか。何かあったらすぐに言ってね。すぐに行くから。もし学校でも、迎えに行くからね。あと…」
「そんなに干渉しなくていいから。俺は1人で大丈夫。」
「そんなこと言ったって…。」
「大丈夫だから。」
席を立ち上がってカバンを持つ。最近はこんな会話しかしていない。ちょうどその時父の隼人が靴を履いて家を出ようとしていた。父は昔から僕にあまり関わらない。よくいえば放任主義だが、いつも子供より仕事を優先するような人だった。なんと声を掛ければいいのか分からず立っていると後ろから抱きつかれる。妹の鈴だ。
「柚希兄!おはよう!もう行っちゃうの?」
「おはよう。鈴。うん、ちょっと早いけどね。」
「えぇー。じゃあ髪結ってくれないのー?」
「母さんにお願いしな。じゃあ行ってくるね。」
「うん!帰ってきたら宿題教えてねー!」
6年生になった鈴はピアノをしている。年が少し離れていることもあって懐いてくれている。あと、弟の優人がいるのだが…反抗期だから寝ているのだろう。兄として遅刻はしてほしくはないのだが。いつもと変わらない道、と思っていたが、桜が昨日より少し散っているようにも感じた。
「こんな風に人もいつか散ってしまうんだろうな。」
と1人で呟いていると、前に見覚えのある黒髪の男子が立っている。そう。純だ。
「おはよう!柚希。今日は早いんだな!」
「おう。朝から元気だな。」
「これから朝練だからな!」
漫画に出てくるような熱血キャラのように朝から元気な彼に耳がキーンとなる。そのまま彼は続ける。
「そーいえば柚希は最近、宮野さんと仲良さそうだな。」
「あぁ。席が後ろだからなんか話してくれる。」
「仲が良さそうで何よりだな。」
「宮野さんって去年A組だっけ?」
「そう!俺と同じクラス!」
そう話す彼の横顔はとても楽しそうだった。そういえば彼は授業中よくこっちを見ている気がする。俺のことを見ていると思っていたが、もしかしたら宮野さんのことを見ているのか?ということは純は…。
「聞いてるか?柚希?」
「あー、悪い。もう一回頼む。」
「だから今日の帰りだよ!オフだから遊び行こうって言ってたけど、急用ができちゃってな。悪いけど…。」
「あー、気にすんな。」
そんなことを言っていたら学校に着いた。部室棟の前で
「じゃあ朝練頑張れよ。」
と告げ去ろうとすると、純は
「柚希。えっと…。」
と口篭っている。
「なんだよ?」
「いや、やっぱいい。じゃあな!」
と言い走りながら去っていく。そんな彼を見つめていると、過去の自分を思い浮かべる。ああ、僕も彼のように何も考えず、今に打ち込むことができるといいのに。僕は教室向かう足取りを早めた。