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最後の嘘  作者: 葉結
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エピローグ:最後の嘘

エピローグ


ずっと嘘をついていた。


4月20日 晴れ


柚希君が逝って、今日で一週間。世界は動いているのに、私の時間は止まったままだ。でも、私は泣かない。泣いてはいけない。柚希君の最期の願いは「幸せになってくれ」だったから。

純君と舞ちゃんが毎日連絡をくれる。私がどれほど疲れているか、彼らは気づいていない。

お父さんは、何も言わない。知っているのは、お父さんだけ。私と柚希君が同じ運命だったことを。


4月25日 曇り


今日は、体調がすごく悪い。

柚希君に会いたい。あの時、受験会場で倒れそうになった私を助けてくれた、あの日の柚希くんに。



あの日は、白陵高校の受験日だった。

母はその数日前に心筋梗塞で急死した。

家を出たもののとても受験をする気持ちになれない私はこと公園のブランコに1人座っていた。悲しみに暮れる私を助けてくれたのが、本田柚希くん、君だった。

「具合?悪いの?」

私は一瞬で君に恋をした。

高校に入学してからも、私は常に君の情報を集めていた。背が高い男の子という情報から、どうにか君の情報を人づてに聞いていた。高校一年生の時、私はB組にいた彼の席、そしてその瞳に宿る孤独を、遠くから見つめ続けていた。

見ているだけで十分だった、それだけで私は幸せだった。何度か男子に告白された。しかし、私は君が好きだった。

そんな時だった。去年の3学期、私は父の机の上にあったカルテを見てしまった。そこには乗るはずのない君の名前が載っていた。





そして、その下に私の名前も載っていた。





「…柚希君と同じ病気だ」。私は確信した。この運命は、偶然ではない。私たちが、同じ孤独に導かれていた。だからこそ、自分の病とあの日の出会いという重い秘密を隠してでも、彼を照らそうと決意した。

私は考えを改めた。君が幸せであればいい、と思っていた。でも、私が幸せにすることにした。クラスが同じになったことは本当に運が良かった。しかも後ろの席なんて。そして、私は初対面のフリをした。

「ねぇ。」

「うん?」

「背、高いね。」……



それが、二年生で彼と同じクラスになった時、私が「初対面」のふりをした理由だった。彼の幸せを最後まで守るため。



私の時間は、もう限界を迎えていた。柚希君が亡くなってから2週間後。私は、秘密を託すため、舞ちゃんを公園に呼び出した。

「舞ちゃん。ごめんね。実はね…。」

私は、自分も柚希君と同じ病気だったこと、高校受験の日に柚希君に助けられ、初対面のふりをしていたこと、すべてを打ち明けた。

舞ちゃんは衝撃で泣き崩れ、私の冷たい手を握りしめた。

「舞ちゃん。純君には、私が突然の病で亡くなったって言って。そして…私たち二人の分まで、長生きして、幸せになってね。」

舞ちゃんは、涙を流しながらも、力強く頷いてくれた。



そして妹の空が病院に来てくれた。

「お姉ちゃん。具合は?」

「平気。それより、話そう。多分最後になる。」

空は泣きそうな表情をしていた。無理もない。彼女はまだ中学2年生なのだ。

「空、幸せになるんだよ。あなたは私のようにならないで。」

「そんなこと言わないで。お姉ちゃんは立派に生きたんだよ。私、お姉ちゃんと同じ白陵高校に行くの。そのために勉強してるの。だから、お姉ちゃん…。」

「ありがとう。」

自然と笑みが溢れた。



「パパ。」

「天。」

寝ていたのだろう、目を覚ますとパパがいつの間にかいた。空は暗い。

「ごめんな。母さんが、玲が死んでから、天とどう関われば良いかわからなくなってしまった。病気が判明してからは尚更だ。」

「仕方ないよ。私でも、どうすればいいかわからなかった。」

「ただ、これだけは言っておく。」

一拍おいて話す。

「天と柚希くん、2人は立派に生き抜いた。君たちのことは絶対に忘れない。」

「ありがとう。」

そう言うと急に眠気がしてきた。私は欲のまま眠りにつく。

……



不思議な空だった。明るいような、暗いような、その先に、柚希くんがいた。

私は声を振り絞る。

「柚希くん。嘘をついてごめん。でも、君は秘密にしたいことは秘密にしていいと言っていたね。これが、私の秘密だよ。君と出会えて幸せだったのは私。君から色々なものを数えきれないほどもらった。ありがとう。」

……



数日後、私は、愛する柚希君の後を追うように静かに息を引き取った。

不思議と死ぬのは怖くなかった。

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