最期の約束※変更予定
冬が明け、暖かくなった頃、俺はほとんど病院で過ごすようになった。天、純、舞が毎日欠かさずに来てくれた。
ある穏やかな夕暮れ時、俺は家族に、最後の言葉を伝えることにした。病室には、父・隼人、母・桜子、弟・優人、妹・鈴が揃っていた。
「みんな、来てくれてありがとう。もう、長くはないらしい」
母は声を殺して泣き、父は硬い表情で窓の外を見ていた。
俺はまず、父に話しかけた。
「父さん。仕事忙しいのに、最近は来てくれてありがとう。俺のこと、あんまり気にしなくていいよ。父さんの生き方を、俺は尊敬してるから」
父は、静かに俺の手を握った。
「柚希…。もっと、お前のことを見てやればよかった。本当にすまなかった。」
父は、深く頭を下げた。
次に、弟の優人へ。
「優人。バスケ、頑張れよ。お前なら、俺よりもずっとすごい選手になれる。俺の分まで、白陵のエースになってくれ。」
優人は、目を真っ赤にして、
「…わかってるよ、兄ちゃん。俺、白陵高校に絶対行くから。バスケも、サボらねぇから」
と絞り出し、病室を出て行った。
鈴は、小さな声で
「柚希兄、大好き」
と言い、母のそばで泣いた。
最後に、母へ。
「母さん。過干渉って思ってたけど、母さんの優しさが、俺を支えてくれたんだ。天のこと、ありがとう。俺のわがままを許してくれて」
母は、涙でぐしゃぐしゃになりながら、俺を強く抱きしめた。
家族が病室を出た後、天が戻ってきた。俺は天の手を握り、語る。
「柚希。」
「天。」
天は悲しそうな表情で僕を見つめる。
「具合、平気?」
「うん。不思議と死ぬことは怖くないんだ。みんなと別れるのは寂しいけど、もういっぱいもらったからね。」
天の目から涙が溢れる。
「天。約束だよ。俺のことは、忘れないでくれ。そして…幸せになってくれ。」
天は、力強く頷いた。これが、僕の最後の願いだ。
その春の終わり、僕、本田柚希は静かに息を引き取った。
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