茶色の髪は、二人の秘密を逆撫でする
僕は宮野先生の家…天の家に上がらせてもらった。妹さんがいることは天から聞いたことがあったが、リビングから部屋に移ってもらったみたいだ。紅茶を淹れる先生は確かに天にそっくりで、今まで気づかなかったことに違和感を感じる。
「柚希くん。体調は?」
「大丈夫です。」
「…。天。お前、隠して付き合っていたな。」
「…。」
天は黙ったまま何も話さない。
「天。何か隠してるの?」
「…。別に何もないよ。」
そう引き攣る笑顔から、嘘をついているのは明白だった。こんなことで今までの付き合いが役に立ってしまうのが切ない。
「天…。言わないなら、私から言う。結論からいうと、天は君の病気を知っている。僕のカルテを見たからだ。」
「…。え?」
さっき吐血をしたことで病気がバレたわけではない?
「それは…いつですか?」
「君が検査をしてから、要は1年の3学期から知っていたわけだね。」
嘘だろ。ずっと隠していたのに。天は知っていたのか。
「天。どういうことだ?」
「…。」
黙ったまま話さない。
「悪いが天。このまま黙り通す気なら僕は君と付き合いを続けることはできない。」
「いや。それはいや。」
「じゃあどういうこと?」
天はカタカタと震えている。そして立ち上がって玄関から飛び出した。
「天!」
「先生、すみません。追います!」
そうして僕は飛び出す。どこに行くのだろう。ただ、そこまで遠くには行かないはず。
先生はソファに座りながら紅茶を啜って1人でつぶやいた。
「柚希くん。君は、天の最後の希望だよ。行きなさい。」
そして、部屋から妹の空が出てきた。
「お父さん、あの男の人、お姉ちゃんの彼氏?」
「そうだよ。」
「すごいイケメン!すごい背が高いし!」
「あぁ…。本当に、勿体無いくらいだ…。
天…。」
アスファルトを駆ける。天を追いかける。そして、天の姿が見えた。天は公園のブランコに座っていた。
「天!」
そう叫んで走った勢いのまま彼女に抱きつく。
「柚希…。なんで、」
「天のことが大切なんだ。」
そして僕は語る。
「君が言いたくないことなら、言わなくてもいい。僕にも秘密はある。君だって秘密にしたいことはいいんだよ。でも、今回のことは、僕たちのこれからの関係に関わることだ。教えてもらえない?」
「…。うん。柚希…。ここ、覚えてない?」
「この公園?昔、よくきた場所だけど…。」
「受験の日、実は私たちは出会ってたんだよ。」
そうして天は語り始めた。