シンデレラなんかではない、僕はロミオだ
二学期最大のイベント、文化祭。俺たちのクラスは、シンデレラのリメイク版の劇をすることになった。王子役は俺、シンデレラ役は天が選ばれた。クラスメイトが言うに、「主役はベストカップル」とのことだ。純は照明係、舞は小道具係として、文句を言いながらも手伝ってくれた。
劇のクライマックス。舞台の上で、魔法が解ける寸前、王子はシンデレラのガラスの靴を履かせ、彼女を永遠に愛することを誓う。
「もう魔法は解けない。君は、僕の唯一の光だ。」
天の瞳が潤み、俺の台詞に応えた。
「はい。私は、あなたと生きていきます。」
カーテンコールで、天は俺の隣で、眩しいほどの笑顔を見せてくれた。拍手喝采の中、僕たちは幸せだった。これは、僕たちにとって最初で最後の輝かしい共同作業だった。
劇が終わった後、野次馬の観客とクラスメイトを避け、どうにか空き教室に僕たちはたどり着いた。
「劇、大好評だったね。」
「あぁ。ただ、疲れた。」
「だね。」
そう言う僕たちは笑顔だった。
「ねえ、柚希。卒業したら、二人で旅行に行こうよ。もっと遠いところ。ヨーロッパとか」
「ああ、行こう。天の行きたいところ、どこでも」
嘘をつくしかなかった。僕に残された時間はない。天は夜中、静かに泣いているように見えた。僕は気づかないふりをした。彼女の孤独と優しさを、僕は十分に理解していた。
「天。」
「何?」
「君は、僕の光だよ。」
「急にどうしたの笑?照れくさいよ。」
「今だけは、魔法は解けてほしくない。」
「私も。」
そう言うと、2人は静かに口づけを交わした。
「踊ろう。今だけは、魔法が解ける前に。」
「うん。」
そんな僕たちの恋はシンデレラではないことはとうの昔から知っていた。名付けるならば悲劇の恋。ロミオとジュリエットのようなものであることを。今だけは、今だけは現実から目を背けていたい。感じていたのは君の体温だけだった。