竜の守護者は復讐者。転生したら祖国を滅ぼした帝国の皇女だったので破滅させようと思います・短編
竜……頑丈な鱗で覆われ、強靭な顎と鋭い牙、巨大な羽と、攻撃力の高い長い尾を持つ生き物。
全長五十メートルにもなる巨体で、岩を軽々と持ち上げ、その状態で一時間で百キロ飛行する。
馬車が一時間で進むのは約十キロなので、飛行速度は単純計算で十倍だ。
岩を持っていなければもっと早く飛べるだろう。
かつて、岩山しかなかった貧しい小国に、傷を負った番の竜が舞い降りた。
二匹の竜はその国の王子に助けられた。
竜達は王子との間に友情を育み、友情の証として彼の願いを叶えるため戦争に手を貸した。
いつ隣国に滅ぼされても不思議ではなかった小国の戦況は、竜の参戦により一変した。
竜が岩を持ち上げ、遥か上空から敵国の兵や城の上に落とす。
たったそれだけのことだが、人間の魔法も弓も投石機による攻撃も、上空を飛行する竜には届かないのだ。
貧しい小国は次々に戦に勝利し、いつしか大国へと姿を変えていた。
幼かった王子は国王になり、いくつもの国を支配し、彼が死を迎える頃には皇帝と呼ばれるまでになっていた。
皇帝は自分が死んだあと国の未来がどうなるのか憂いた。
竜達は皇帝の子孫の中から一人選び、その中の一人に自分たちを従える力を持つ「竜の守護者」として任命すると約束した。
皇帝はその話を聞いて、安心して息を引き取った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから百年が経過した。
番の竜は数を増やし、今では三十頭を超えている。
彼らは今でも約束を守り、王族の中から一人選び、自分たちの主としている。
ただ一つ……初代皇帝の頃と違うのは、竜の首に魔法の首輪がつけられていること。
彼らは五百キロより先に行けない。
その範囲から出ると死ぬように、首輪に術が施されているのだ。
竜が逃げないように。
初代皇帝との約束を違わないように。
竜が落とす物も変化している。
百年前は岩だったが、現在は岩と一緒に魔法の砲弾を落とすようになっていた。
魔法の砲弾の方が軽いので、沢山運ぶことができ、威力も高いからだ。
最初に岩を投下し、物理的に建物を破壊する。
次に炎や雷の魔法を込めた砲弾を投下し、街や人を焼き尽くす。
もはやどの国も、帝国に逆らうことなどできなかった。
そんな竜を操る守護者は、帝国にとってなによりも大切な存在だった。
そして今回新たに竜の守護者に任命されたのは、今年十四歳になる末の皇女のアルティナだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アルティナよ。
竜に守護者の任を与えられた栄誉に感謝しなさい。
国のために、国民のために尽くすのだぞ。
わかったな?」
「はい、皇帝陛下」
その日、私は初めて謁見の間に呼ばれた。
皇帝の数多い妃のうちの一人。
皇帝が気まぐれで手を出した下位貴族の子供。
それが現世の私だ。
今まで一度も顔を合わせることもなく、離宮に押し込め、侍女を一人つけて放置していたくせに、何を今さら。
「例のものを持て」
「御意」
皇帝が指で合図すると、神官がサルバにチョーカーを乗せてやってきた。
「選ばれし竜の守護者の証だ。
このチョーカーを身につけられる栄誉に感謝しなさい」
「……」
神官が私の首にチョーカーを付けた。
これは栄誉の証ではない。
竜に付けられたのと同じ術が施された首輪だ。
竜の守護者が竜と共に逃げないように、帝都から五百キロ以上離れられないようにできている。
「皇女アルティナよ、竜の守護者として励みなさい」
「はい、陛下」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私には前世の記憶がある。
私の前世はニカという名前の平凡な女だった。
夫がいて、子供が二人いて、貧しいながらも楽しく暮らしていた。
帝国に滅ぼされるあの日までは……。
それは、突然空から降り注いだ。
巨大な岩が雨のように降り注ぎ、建物を壊し、人々を押しつぶしていく。
その後魔法の砲弾が降り注ぎ、炎が街を焼き尽くしていった。
地獄のような光景だった。
落石により夫と二人の子供を亡くした。
町は壊滅状態。
だが、本当の地獄はそこからだった。
奴らは始めに竜に岩や魔法の砲弾を落とさせ、街を壊滅させる。
人々が抵抗する気力を失ったところに、大軍で押し寄せ、住民を捕縛し、奴隷として売りさばくのだ。
前世の私は帝国と、帝国に手を貸す竜を恨みながら死んだ。
まさか、帝国の皇女に生まれ変わり、竜の守護者に選ばれるなんて思ってもみなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
竜の住まいは帝都を見下ろす高台にある。
そこには一部の限られたものしか入れない。
皇女として生まれたが、私もこの場所に足を踏み入れるのは始めてだ。
竜は、恐ろしく、おぞましい姿をしてると思っていた……。
気性が荒く、人間を虫けらのように踏み潰す存在だと思っていた。
なのに……この目で見た竜は、あどけない顔をしていて、澄み切った空よりも澄んだ目をしていた。
守護者の私になつくその姿に、複雑な感情が湧いた。
憎んでいた。
前世を含め、ずっと敵だった。
ずっと憎んでいた相手だった。
彼らは前世の私の家族を奪った許しがたき存在だ。
なのに……どうしてそんなあどけない目で見つめてくるのだろう?
彼らに触れられると、温かい気持ちになるのだろうか?
私は彼らを殺そうとしているのに……!
彼らの奥からピーピーという甲高い声が聞こえた。
音のした方向に近づくと、まだ人の背丈の半分ほどの小さな竜が二匹いた。
どうやら彼らは生まれたばかりらしい。
魔法の……いや呪いの首輪をつけられていない。
私は二匹の子竜を、他の人間から隠した。
彼らだけでも逃がしたい……そう思ってしまったからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから数ヶ月が過ぎ、皇帝は私にサルビア国という北の小国を攻めるように命じた。
こんなに多くの国を支配しているのに……。
有り余るほどの富があるのに……。
たくさんの奴隷を抱えているのに……。
彼らはそれでもまだ満足できないらしい。
まだ人の命を奪い足りないらしい。
作戦が決行される日、私は皇帝の命令通り、竜達に岩と魔法砲弾を持たせた。
私は一匹の竜の背に跨ると、竜達に合図を送り、竜達と大空へと飛び立った。
大人の竜の中に子竜がいたことに気づき、巣の管理者が慌てていたが、そんなこと私の知ったことではない。
私は岩と魔法の砲弾の半分を帝都に落とした。
そして残り半分を、サルビア王国の手前で待機していた帝国の軍隊の上に落とした。
これで、帝国は帝都も軍隊も壊滅。
帝国の軍事力は半減した。
でもこれだけじゃ足りない。
帝国による支配を終わらせるためには、竜達を帝国から切り離さないとだめだ。
「ねぇ、あなた達の故郷はどの方角なの?
今日は遠くまで飛ぼう。
あなた達の故郷の近くまで子竜達を送って上げよう」
竜達は私の命令に従って、東を目指して飛んだ。
竜達の飛行速度を考えると、一時間もすれば呪いの首輪が上限と定める五百キロ圏外に出るだろう。
「ごめんね。
あなた達には私と一緒に死んでもらいたいの」
私の首にも呪いの首輪がある。
死ぬときは一緒だ。
「子竜達には生きてほしい。
でも二度と人間には関わらないでほしいの!
里に帰って静かに暮らして!」
竜の力は強大だ。
彼らが力を貸した国が必ず勝利してしまうほどに。
「竜の守護者として命じます!
子竜達を先祖の呪縛から解放すると!」
日の出が近いのか、東の空が明るくなっていた。
下にはどこまでも続く青い海が広がっている。
子竜達が群れの先頭にでて、そのままぐんぐんと東に向かって羽ばたいていく。
「そのまま振り向かずに飛び続けて……!」
私達はその先には行けない。
人を殺してしまった私達は、そっちには行けない。
首輪の呪いが発動し、前を飛んでいた竜達が朝日を見ることなく爆ぜていく。
ああ……これでやっと、夫と息子の敵が取れた。
なのになぜ……こんなにも胸が苦しいのだろう……。
私の首輪が閃光を放ち……彼らと同じ運命を辿った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
かつてこの地には、竜を使い大陸全土を支配しようとした大国があった。
しかし、神の怒りに触れ、竜はその国を見捨てた。
竜に見捨てられた国は、かつて自分達が滅ぼした国の報復にあい、竜が去って数年で滅亡したという。
――終わり――
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