0x06:好感度を教えてくれるお助けキャラなど現実にはいない!
レモンうさぎのぬいぐるみは会社でお留守番。
会社があの子のおうちなのでね!
帰り際に奥村君が、レモンうさぎに「お留守番よろしくね」とよしよししてたので、思わずほっこりした。
向かったのは私の行きつけのオシャレな創作料理店。
いつもはカウンターに案内されるけど、今日はテーブルにしてもらいました。
まずは飲み物!
私はカクテル、奥村君はビールを頼んで、かんぱーい!
「お疲れ様!」
「お疲れ様です」
急にさっきの話を聞くのもなんだし、食べたり飲んだりお話したりしながら、時間を過ごす。
「……外川さん、話なんですけど……」
「うん」
「…………」
グラスを揺らして中のビールをゆらゆらさせながら、奥村君が話し始めた。
「俺、このままリーダーやっていて良いのかと思っているんです」
「どうして?」
「……みんなに作業を押し付けている感じがして、向いてないかもしれないと思い始めて……」
リーダーになった奥村君は、あんまり実務作業をしていない。
みんなの業務を管理するマネージャー業務のようなことをやっていたり、質問や相談に乗ったりしている。
「押し付けてるじゃなくて、任せてるって言うんだよ」
「そうですかね……」
まだ若手の内に入るとはいえ、これまで人に頼られることが多かった奥村君は、逆に人に頼ることに慣れていないのかもしれない。
人に押し付けるのが苦手で、色んな事を自分で抱えてしまって、自分でやろうとして……。
元々マネジメントが好きで得意そうに見えていたけど、いざ正式に任されてメンタルに響いてしまった……という感じかな。
さっきのう◯こ文言なんかは、実はまだ仕様が確定していない画面だった。
だけど、他に着手しやすい画面がないから、瑛斗君が任されて……う◯こ騒動に至ったわけである。
だからそれを申し訳なく思ってるように感じる。
この仕事やってると、仕様確定してないのに実装しなきゃいけないこととか、なぜか稀によくある訳であって。
つまり奥村君は悪くないんだけど……気持ち的にはどうしようもないよね……。
「そんなこと言ったら、私達は誰もやりたくないマネジメント作業を奥村君に押し付けてることになるでしょう?」
「マネジメントは俺がやりたかったことでっ……!」
「プロジェクトのメンバーもだよ。私達はそれぞれやりたい仕事が出来てるんだから」
「……」
まだしょんぼりしてる……。
「納得行ってない?」
「理解は出来ましたけど、気持ち的には……」
「私は、奥村君は良くやっているなあって思うよ」
「そうですかね……」
「そうだよ。誰かが困ったときに声を上げて、助け合える環境を用意できてるでしょう? 仕様が決まってなくても、みんなの手が止まらないようにしてくれている。そんな重要なことがちゃんとできてるんだから、もっと自信を持って良いんだよ」
私がそう言うと、奥村君はちょっとうるっとした目をしてみせていたけど、すぐに揺らしていたグラスをあおった。
「……外川さん、褒め上手ですよね」
「そうかな?」
「俺が入りたてのときは、沢山失敗してましたけど、その分こうやって飲みに誘ってもらって、励ましてもらっていましたから」
「失敗したらカバーしてくれるのは、後輩の特権だからね。その分、先輩になったら後輩をフォローしてあげるんだよ。……奥村君はね、今がその時だと思うんだ」
奥村君が現在フォローしてるのは、おっさんとか年上が含まれておりますが!
「はい……!」
何気ないことを言ったつもりだったけど、奥村君の何かに響いたのか、目がキラキラと輝いていた。
気が吹っ切れたのか、そのあとの奥村君はビールとかハイボールとか焼酎とか、アルコールをガバガバ飲みまくった。
「いつもはそそっかしくて放って置けないのに、そう言うときだけ先輩っぽくてカッコよくて……ずるいです。そう言うとこが、俺は……」
奥村君とはたまに飲みに行くけど、こんなに飲んだのを見たのは初めてだ……。
「奥村君こんなに飲めるんだ……?」
「のめますよー」
にへら、と笑う奥村君。ちょっと酔っぱらってるな??
「そー言えばとがわさん、えーとと仲良いですよね?」
呂律回らなくなってきてるなあ?
大丈夫かなあ?
「そうかな? 奥村君と同じくらいだと思うよ?」
「えーとと俺が同じくらい、れすか…………」
奥村君がなんだか微妙に複雑そうな顔をしている。
「俺、もっととがわさんと仲良くなりたいです。えーとよりも、いっぱい」
「へっ?」
大胆な台詞が聞こえてきたと思うと、奥村君がテーブル越しに顔をずずいっと近づけて来た。
「もっとかまってほしいのに……さいきんはえーとのめんどーばっかりみていて……おれ、さみしいです……」
「ひぇ!?」
ちょ、距離近いっ!!
「おれ、とがわさんのことが……す……」
「す……!?」
す……? なんだなんだ!?
ドキドキがムネムネしていたところ、奥村君の綺麗な顔面がテーブルにドンッ! と沈んでいった。
「ひょわっ!? 奥村君!?」
「ぐぅ……」
「って、そこで寝るんかいっ!!」
っていうか頭痛そうだけど大丈夫かな……!?
「奥村君? 奥村くーん?」
すやすやと寝息を立てている奥村君の肩を軽くツンツンしてみたけど起きない。
「すぅ……」
ぐっすり眠っていて起こすのは忍びないので、そのまま寝かしておくことにしました。
奥村君の隣にそのまま座って、ぼーっと寝顔を眺めてみる。
奥村君の距離感の近さは……まあ好意の表れだとは思っていたけど……。
「す……好きって言おうとしていた……んだよねえ……? たぶん……」
度々、もしかしたら好かれてるのかも? いやいや単に先輩として慕われてるんだ! 自惚れるな! と思っていたけど……。
もしかして、本当に…………。
「……うんにゃ。酔っぱらっているから、本音じゃないのかもね」
距離感が妙に近い奥村君。
途中まで言って寝ちゃうなんて、距離の詰め方がずるいよね。
奥村君が机にぶつかた額を、私はツンっと人差し指で突いてみたけど、まだ起きない。
ちょっとだけ奥村君のサラサラな髪が指に触れて、ドキッとした。
奥村君は当面起きなかったので、私は奥村君の可愛い寝顔を見つつちびちびとジンジャエールを飲みましたとさ。
始発で帰ってから、再び出社した頃。
スッキリした顔の奥村君が顔を見せにやってきた。
「すみません、俺途中で寝ちゃって……」
「ぐっすり眠れて良かったね……」
衝撃的な台詞を吐いたかと思うと、すやすや寝ちゃいましたからねえ。
なんて風に生暖かい瞳で応えていたところ、奥村君に思わぬ疑問を問いかけられた。
「俺、変な事言ってませんでしたか?」
「んっ!?」
私は明後日の方向を見つつ、レモンうさぎのお耳で口元を隠し、おててをフリフリして答えた。
「…………んーん?」
「どういう反応ですか、それ!? えっ? ほんとに俺何かやっちゃいましたか!?」
どういう反応なんだろうねえ……。
自分でも、思い出すと恥ずかしいということくらいしか、分からないなあ……。
「レモンはおるすばんしてたから分からないぴょん」
「とがわさーん!?! 俺本当に何言ったんですか!?」