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0x05:じゃぶじゃぶ!

 作成中の画面に表示されたものを見て、私は深く深呼吸した。


「……………………瑛斗くぅん?」

「イヤな予感がするんすけど?」

「まあまあ。ここにお座りなさい?」

「俺これから何言われるんすか? 何されるんすか??」


 椅子を持ってきて隣の席をポンポン叩くと、瑛斗君は渋々と座ってくれた。


「このメッセージはなにかな?」


 レモンうさぎのおててでペチペチ画面を叩く。

 そこに表示されていたものはッ!


『はよ文言よこせ。う◯こ』


「うっす! まだ正式な文言決まってないから、仮に入れやした!」

「小学生か! メッ! やり直し!! せめて違う文章にしなさい!」

「えええー。決まったら直すから良いじゃないっすか」


 不満そうに瑛斗君がボヤくと、近くにいた入山さんがスッと立ち上がって瑛斗君の背後にピタリとついた。

 脳波猫耳カチューシャをしているので、猫耳がうぃんうぃん動いていてちょっとウルサイ。


「知らんのか、瑛斗っち。その油断が、かつて恐ろし事故を生み出したんじゃ……」

「え。怖いんすけど。なんなんすか?」

「そう、あれは忘れもしない十年くらい前の出来事じゃった……」

「十年前だと俺ギリ小学生なんで、業界のこと知らないっすね」

「ウワアアアッーー!! ジェネレーションギャップ攻撃ーーッ!!」

「瑛斗君が入山さんを倒した……」


 ちなみに入山さんが話そうとしていた話題は良く聞かされるけど、十年くらい前だと私も知らなかったりする。

 でも今知らないって便乗すると入山さんにジェネレーションギャップの波状攻撃するハメになるので、心のうちに秘めておこう……。


 床につっぷして猫耳をピコピコして老いを実感しているベテランおじさんをよそに、瑛斗君が首を傾げた。


「それで何があったんすか?」


 ベテランを前にこの態度……。将来大物だね……。


「昔のゲームで、仮の文言に『う〇こ』って入れていたものがあってね。それが世に公開されてしまったことがあるんだって」

「そりゃ、ヤバいっすね……」

「ちなみにそのゲームは、クソゲーと語り継がれているらしいよ」

「う〇こなだけに! あはは! 面白いっす!」


 瑛斗君の笑いの沸点低いね。


「笑いどころじゃなくて! うっかり直し忘れて公開されたら大変なことになるんだよ? だから仮であっても『う〇こ』とか書いちゃだめだからね?」

「じゃあ何て書けば良いんすか?」

「『仮文言』で良いじゃない? 間違えても傷は浅いぞ!」

「えー。そんなの面白みがない! せっかくなら楽しく仕事したいじゃないっすか! 面白いこと書きましょーよー!」

「関わったゲームが、う〇こゲーって語り継がれる未来が待ち受けていても良いのかーっ!」

「そもそもの話、早く文言決めれば良いんじゃないっすかー!」

「それはそう!」


 やんややんやと瑛斗君と言い合ってたところを、会議から戻ってきた奥村君に声をかけられた。


「瑛斗。外川さんは女子なんだから、それ以上う〇こを連呼させちゃダメだよ」

「外川さんも、ノリノリで連呼してたっすよ?」


 すみません、ノリノリでした。


 そんな風にキャッキャと小学生のノリでう〇こ話をしているうちに、皆が帰り始める時間になりましたとさ。


 キリも良いし、ご飯食べてから帰ろうかな。

 ……う〇この話題したばっかりだけど。

 なんて思いながらフロア内を見回していると、奥村君の姿が目に付いた。

 そう言えば、奥村君と早く帰れるときにご飯食べに行く約束してたんだった。


「奥村君、今日の作業まだ残ってる?」

「……何かやることありますか?」


 話しかけてみると、困ったように眉をへにょっとさせている。


 この反応はまずいときに話しかけちゃったやつだ……。

 

「あっ。たいしたことないから、まだ作業あるなら良いんだよ。それとも手伝おうか?」

「外川さんは作業落ち着いてるんですか?」

「今日のタスクはね。だから手伝えるよ」

「! そうですか。その……忙しいわけでも、手伝ってほしいわけでもないんですが……」

「うん?」

「……相談に乗ってもらえますか?」


 いつもこっちが頼ってばかりなので、私を頼ってくれるのは嬉しいな!


「もちろん! はい、どうぞ」


 なんだか不安そうにしているので、私はレモンうさぎを奥村君に押し付けました。


「えっ?」


 押し付けられた奥村君は目を白黒させている。


「不安なときはね、ぬいぐるみをぎゅーっとすると、ちょっと癒されるよ」

「……ありがとうございます」


 そう言ってレモンうさぎをギュッとする奥村君。

 ……なぜか今の奥村君はやけ儚げだし、妙に可愛いな?


「それで、相談って?」

「……」


 問いかけると、奥村君は周囲をキョロキョロと見回した。


 まだ何人か残ってるけど、他の人に聞かれたくない話かな?


「一緒にご飯食べに行く?」

「良いんですか?」

「実は話しかけたのって、ご飯に誘おうと思っていたからなんだよね」


 そう言うと、奥村君の顔がぱあっと笑顔に満ちた。


「ぜひ、ご一緒させてください!」

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