0x02:手順書をしっかり見るにゃん♡
初投稿時の数分間、1話と2話を逆投稿してしまいました。
こちらは3話目です。
ディスプレイの片隅に立ち上げっぱなしのグループチャットは、今日も賑やか。
書き込まれる内容は、仕様についての質問相談や、進捗状況……ときどき雑談。
それぞれの発言に対して、みんな思い思いのスタンプを押して感情や意見を訴える。
『@奥村 来週のメンテ手順書用意したから、事前チェックよろ』
『@入山 確認します』
今回は、現在サービス中のゲームで後日予定しているメンテナンスに備えて、五十過ぎのベテランおじさんプログラマの入山さんが手順書を用意してくれました。
手順書は……その名の通り、この順番で何をやっていく、と言うのを書いたもの。
レシピみたいなものかな。
さじ加減を間違えずに書いてある通りにやれば、無事にメンテナンスが終わる! という優れモノ。
「ふふっ」
『@入山 確認しました。問題ありません』
手順書を確認した奥村君が、何故か笑いを堪えながら書き込んでいた。
「? なんで手順書見て笑ってるの?」
不思議に思って問いかけると、奥村君は満面の笑みを向けてくれた。
「メンテ当日が楽しみだなあと思ったので」
「うん? 新機能増えたらユーザーさんがどんな反応してくれるか、楽しみだねー」
「はい」
奥村君が更に、にっこー! って微笑んでるけど、なんだなんだ! なんなんだ!!
何なら手順書を書いた入山さんまでもが、向こうの席でニヨニヨしてる。
『@外川 とがわん、当日のメンテ担当よろしく』
とがわんとは、私のニックネームである。
主に入山さんから呼ばれている。
『@入山 おっす! 任せろください! ばりばりー!!』
だからなんでみんな、そんな暖かい眼差しで私を眺めているのかな?
……。
と言うわけでメンテナンス当日。
デュアルディスプレイの片方に手順書をバババーン! と表示して、私はメンテナンスの作業を開始しました。
『@みんな メンテに入りましたー』
「メンテ開始しましたー!」
大事なことなので、チャットとお口の両方で宣言!
発言に頑張れスタンプが沢山ついたので、オラやる気が出て来たぞ!
今回は割と軽い作業内容だったので、問題なく作業の終盤に入った。
「よーし! メンテ終わりましたー」
「おっ。終わりか。お疲れー」
なんだなんだ?
手順書に関わった入山さんや奥村君だけじゃなくて、みんなゾロゾロこっちに集まって来たぞ??
「外川さん、手順書最後まで見ました?」
「へ? 最後? ここが最後じゃないの?」
ん? なんか手順書の下の方に謎の空白があるな……と思ってスクロールしてみると……。
「メンテ開けたら、『メンテ終わったぴょん☆と口頭で宣言すること』……ってなんやねんこれ!」
「と言う訳で、最後まで頑張ってください」
「がんばれ♡がんばれ♡とがわん♡」
「くぬぅっ! 謀ったな~!!」
入山さん、語尾にハート付けないでくださーい!
「事前に手順書見ておけば良かったー!」
というわけで、私はしぶしぶチャットに終了のメッセージを書き込みました。
『@みんな メンテ終わったぴょん☆』
「甘いね、とがわん。口頭で宣言すること、って書いてあるでしょ?」
「うぐっ……! たし……かに!」
仕方ない!!
私はレモンうさぎを手に取って、腹話術のように宣言した。
「メンテ終わりました…………ぴょん……」
は、恥ずかしい……!
そんな私をよそに、周囲に集まった入山さんやら奥村君がほんわかと和んでいた。
「ほっこり♡」
「無事にメンテ終わりましたね。お疲れ様です!」
「くっ、こんな屈辱……殺せ!」
「……そっちのチーム、楽しそうですね?」
さて。
やられたからにはやり返さなければ!!
と言うわけで、別の日のメンテの手順書に私も仕込みをしましてよ。
「えっ。外川さん、これ俺が言うんですか?」
「そう! 奥村君の可愛さを待ってるみんなのために、頑張って!」
「……かわ……いい……?」
難しい顔をして、なんかすごい考えてるね?
「……外川さんがそこまで言うなら……やります」
すごく覚悟を決めた眼差しで言うけど、まるで私が言い出しっぺみたいな言い方だね!?
入山さんが持ってた脳波でピコピコ動く猫耳カチューシャを借りて、奥村君がノリノリで言った。
「メ……メンテ開けたにゃん」
「はぐっ!!」
ノリノリとは言え、ペタリと猫耳を伏せながらちょっとだけ恥ずかしそうに言う奥村君。
猫耳イケメンの語尾ニャン付け、破壊力パないね!
ちなみに更に後日には、入山おじさんにもカチューシャを付けてにゃんにゃん♡言ってもらいました。
誰よりもノリノリだったよ!!