0x00:はろー、わーるど。ぐっばい、終電。
初投稿時の数分間、1話と2話を逆投稿してしまいました。
こちらが1話です!
※このお話はフィクションです。
私こと外川夏姫が勤めるのは、社員数およそ五十人弱のとあるゲーム会社。
ここには個性的な仲間たちがいっぱいいる。
社員の机の上には、当たり前のように推しと言う名の個性に溢れている。
美少女や特撮ヒーローや宇宙で闘うロボだったり、スマホゲームのイケメンぬいだったり、三次元アイドルのアクリルスタンドだったりと、様々!
もちろん、技術書も机のうえに置いていますとも。
ゲーム会社勤務とはいえ、我々、技術者ですものね!
「ううーー?」
私のデスクも例に漏れず、ゆるキャラうさぎのミニぬいぐるみと、クールな眼差しのイケメンアクスタを飾っている。
ちなみにお膝にも、抱っこ可能サイズなうさぎのぬいぐるみをオンしておりますとも。
推しが可愛くて癒やされるね!
……でも! いまは!
癒やされる場合じゃ!
なああいー!!!
夜の十時を過ぎて数人残業している程度なら、大局的に見ればまあまあ平和な証拠だったりする。
だけどそんな時間に、一人騒がしくしているのが……私だーーー!!!
「ヴァーー!」
「わ、びっくりした」
思わず私が発狂したところ、通りがかった後輩の奥村君が話しかけてきた。
びっくりした、と言う割に驚いていない。
まるでそう、日常茶飯事のような反応。
はい。私がうるさいのは、いつものことです。
「外川さん、サイレンみたいな声でてますよ」
奥村駿君は眼鏡男子である。
職業柄的に圧倒的眼鏡率の高さなので、職場では別段目立った特徴じゃない。
ただ、私服が許された職場なのでスーツのひとはあんまりいない中、奥村君はキッチリとスーツを着込んでいる。
つまり、スーツ眼鏡男子ですね。
しかもイケメン。
かくいう私も眼鏡女子……女子って歳ではないと言うツッコミは受け付けません!
私はカジュアルなコーデでございます。
推しが作中で着てたシャツも着てみたいけど、私の推しに限ってそんなグッズは出ない。なぜだー!
それはさておき。
「ヴァー(知ってる)」
「アラート上げるなら、ふつうに声出してください」
「うー(まだひとに助けを乞う時ではない……)」
「なぜだろう。外川さんの心の声が不思議と読める……」
「うー(それはあなたが、我が同士だからよ……)」
死んだ魚のような目を奥村君に向けながら、机に突っ伏してうーうー唸り続けた。
そんな私の前にあるディスプレイの画面を、奥村君が可哀想な目で眺めている。
「外川さんさ、またなにかやっちゃったんですか?」
「や、ヤッテナイヨ!」
「なんでカタコト?」
「エラー出てるだけだヨ」
「なんかやっちゃってるじゃないですか」
奥村君が指したディスプレイの画面の先には、「ERROR」と書かれたログが大量に出力されている。
それはもう、留まることを知らない滝のように!
実はエラー以外にも英語がズラズラと並んでいるのだけど、流れが早すぎてERRORの文字しか目に残らない。
さすがの私でも見落とすね!
「わ、私はなにもしていない!」
「犯人はみんなそう言うんですよ」
「ぬ、濡れ衣だよー!」
ふふっと面白そうに笑いながら言った奥村君は、私の机に片手を乗せた。
そして、もう片方の手でキーボードを奪ってログを止める。
当然、私は机に突っ伏したままなので……。
「ちょっ!」
ちょっと! 距離近いんですけど?
ログの流れはピタリと止まったけど、今度は反対に私の心臓が早鐘を打ち始めたんですけど??
慌てて隙間を縫って椅子を転がして距離を取ったけど、それでも心臓ドキドキしてますが??
私はこんななのに、奥村君は平然としてませんか?
ドキドキし損ですか!?
ずるい!
「で? ほんとに何したんですか? 煮詰まってるなら、話聞きますよ?」
「みんなのソースコードを自分のとこに取り込んだら、エラーが出ました」
不思議そうに首を傾げる奥村君に、私はすんっと両手を挙げて答えた。
そう。私と奥村君の職種は、プログラマ。
ディスプレイに向かい、謎の言語をキーボードにカタカタカタッーン! ドヤァッ! と叩きつける、アレです!
いや、ドヤァはしないけど。
そんなに激しくカタカタ音もさせないけど。
ただいまの業務では担当箇所ごとに分業しているので、適当ならぬ適度なタイミングでみんなの変更点と合流させる必要がある。
土木作業もこんな感じなんでしょうか。知らんけど。
「やっぱり、なんかやってるじゃないですか」
「ウワーッ! その前までは動いてたのにー! 戦犯は私じゃなーいー!」
そう! 私はなにもしてない!
ただ、みんなの変更点を適用しただけなのにー!!
それなのに、自分のところに持ってきたらエラーが出るようになった!
つまり、エラーは私が手を入れる前からあったものだ!
被害者は私……!
なので!!
「そう、真犯人は! この中に……いるッ!」
ビシーッと指した室内には、しかし。
「あれっ?」
――なんということでしょう……私と奥村君しかいなかったのです。
「みんな帰りましたよ」
「犯人当てして直してもらおうと思ったのに……いまから一人で原因探し……? しゅ、終電が……」
「僕も手伝いますよ?」
「自分で頑張るから大丈夫です。……先に帰って良いよ?」
無関係な奥村君に悪いし。
そう思いながら、私は椅子に座り直して溜め息をついた。
「付き合います」
「え?」
そんな私の隣の席の椅子を引っ張ってきて、私の真隣に椅子を寄せて着席する奥村君。
「外川さんと一緒にいると、面白いですから。1日くらいは終電逃しても良いかな」
「いや良くないでしょ!?」
「まずはエラー追いましょうか」
にこっと笑う奥村君の笑顔とその言葉に、ほんのちょっと誤解してしまいそうになるのですが!
顔が赤くなった自覚がめちゃくちゃある私は、慌てて画面のエラーと睨めっこし始めた。
だけど、その横では奥村君が私の顔を見てニヤニヤしている気配がして、しんどい……!
「もしかして、照れてます?」
「て、照れてません」
「でも視線がエラーログと関係ないところ見てますよね」
やめて!
面白れぇ女みたいな顔してこっちみんな!
いやむしろアホな女って思われてる!?
どっちにしろ恥ずかしい!!
「ヴァー! 集中できないから、からかわないでー!!」
くすくす笑う奥村君の隣で、私は再び頭を抱えてしまった。
……さっきと違う意味で。
メモリ管理が得意な、しごできゲームプログラマの奥村君。
だけど彼は、どうやら恋愛メモリの管理だけはできないようですよ!
初投稿時の数分間、1話と2話を逆投稿してしまいました。
こちらが1話です!