05.我美しく、故に我在り
桜霞
晦冥の湾刀の戦技
闇の力で空間を歪め、超高速の斬撃を繰り出す
無仁流の極致は、闇の神器によって再現された
神の力で、人の技を凌駕した
あるいは、それに縋らねば至れない境地であったのか
それは、黒々と聳え立つ壁だった。
空全体を覆うかのように、黒々とした巨大な樹壁が聳え立っている。その表面には無数の赤黒い線が縦に走り、どくんどくんと大きく脈打つ。蠕動する不気味な輝きの奥に、名状しがたいナニカが壁面の随所を巡っている。その脈動すら聞こえてきそうな圧迫感に、ムルムルの背に跨るシルヴィアは、思わずたじろぎそうになった。
「――……これが、“孕魔霊樹”……」
その威圧感に圧倒されつつ、三人を乗せたムルムルは根元へと飛翔していった。ごうごうと吹き荒ぶ風など、重苦しい魔力の圧迫感に比べれば屁でもない。首を限界まで上げてようやく、拡がっていく太い枝が見える。魔王の魔力に汚染された空の上で、黒々と燃える太陽すら覆い隠さんばかりの大きさだ。その先にあるべき葉は見えない。枝が太すぎて視界に映らないのか、そもそも光合成を必要とする尋常な樹ではないということか。これが、やがて世界中に拡大し、理ごと焼き尽くす災いの毒となる――
十分か、一時間か、それとも永遠に続くか――そんな錯覚まで襲ってくるほどの長い飛翔の果て、ムルムルはようやく根元に辿り着いた。元の赤土など見る影もなく、幹と見紛うような太い側根がどす黒い瘴気を放っている。
「ご丁寧に、入口が用意してあるぜ」
崚が指差した先に、小さな洞が見えた。直径数十メートルにもなるその洞穴も、遠近感が麻痺しているせいで、小さな窪みにしか見えない。あそこから内部に入れるだろうか。問題は、こんなに都合のいい洞が存在しているということだ。
「――十中八九、罠だろうな」
「罠でも何でも、突っ込むしかないわ。ムルムル、降りて」
魔人による罠を予期しつつも、崚たちに選択肢はなかった。瘴気を掻い潜りつつ、ゆっくりと降下していく。
全員の予想通り、空洞は“孕魔霊樹”の奥底へと続いている。その洞の中に、ぽつぽつと仄白い斑点のようなものが見えた。十や二十ではない、百を優に超える数がそこら中をびっしりと覆っている。――それがただの斑点ではなく、うごめいていると気付くのに、数秒とかからなかった。その全てが、イシマエルだ。
「げっ……!?」
「イシマエル共が、こんなに……!」
背筋が粟立つようなおぞましい光景に、シルヴィアとクライドは思わず怯んだ。それに気付いたかのように、イシマエル共の腐った視線が向けられ、ぼぉぉぉぉと喚声が木霊した。
怯えている場合ではない。これが全て襲い来るとすれば、甚大な脅威となる。侵入経路が他にないということは、脱出経路もここだけだろう。どうやって凌ぐべきか――と身構える二人をよそに、崚がエウレガラムを構えた。
「――突っ切れ、ムルムル」
「ガァァァッ!!」
そして彼は跳躍した。その声に合わせ、ムルムルが勢いをつけて飛翔する。
――ずん、と世界がずれた。
黒く染まったエウレガラムの刃が、薄暗い洞を縦横無尽に走り回り、空間を微塵に斬り裂いた。塵ひとつ逃さない斬撃の嵐が、イシマエル共の腐った肉を斬り刻んでいく。ごぇぇぁぁという悲鳴の木霊を遺すと、やがて洞は静かになった。
あの数を、あっという間に殲滅――一瞬で規格外の所業を成し遂げ、ムルムルの背に飛び込むように戻ってきた崚を見やりながら、シルヴィアは思わず身震いした。
「……つくづく、無茶苦茶よね……いなくなってた間に、修行でもしてきたの?」
「一朝一夕に成るようなもんじゃねえだろ、修行なんて」
「じゃあ、これも使徒様の恩恵ってやつ?」
「知らね」
シルヴィアの問いに、崚は半ば投げやりに返した。この程度の人外など、物の数に入れている場合ではない。それを一息で蹂躙できる力量を有する大物こそが星剣の狩りの対象であり、匹敵するだけの出力を実現しなければならないのが現実だ。その権能の引き出し方を考案し、人間の技術として落とし込み、小手先の制御で苦労している場合ではない。呼吸と同じ自然さで権能を叩きつける――それを可能としているのが、今の崚だ。
それはともかく、ムルムルは洞の中を滑翔していった。散発的に生じるイシマエルの群れは、崚による光の剣気が、闇の剣戟が、轢き逃げのように蹂躙していく。やがて、薄暗い洞道が二手に分かれた。
「――分かれ道か」
「……念入りですこと」
どすんと降下着陸するムルムルの衝撃を尻に感じながら、シルヴィアは苦い表情を浮かべた。そもそもが、こちらを招き入れるかのような不自然な洞道だ。十中八九、こちらを分断するための策略だろう。馬鹿正直に手分けを試みた先で、脱出不可能な罠に嵌められる可能性は決して低くない。
とはいえこの広い“孕魔霊樹”、順繰りに捜していっては時間がかかり過ぎる。さてどうするべきか――と思案するシルヴィアの背後で、崚がさっとムルムルの背から飛び降りた。
「クライド、シルヴィア、お前らはそっちを行け。俺はこっちを探す」
「ちょ、この馬鹿。あんた一人で行くつもり?」
抜き身のエウレガラムを担いだまま歩き出す崚を、シルヴィアが慌てて止めた。クライドやムルムルも不安そうな表情を浮かべている。しかし当の崚は、頑として譲らなかった。
「この魔力の中で活動するには、ムルムルの霊気が必須だろ。単騎で動ける俺は別れた方が、効率がいい」
「馬鹿言いなさい、それが敵の狙いに決まってるでしょ」
“孕魔霊樹”と魔王の魔力が綯交ぜになり、濃密な汚染下で活動できるのは、霊気の加護を有する臣獣と使徒のみ――特に崚の星剣エウレガラムは、その加護を他者へ分け与える能力に乏しい。必然として、ムルムルにクライドとシルヴィアが同行し、崚が単騎で別行動を取ることになる。まさにその戦力分断を、敵は狙っているはずだ。
「時間勝負なのは向こうも同じだろ。丸ごと足止めを食らうよりは、少しでもリスクを分散した方がいい」
「でも……」
何とか食い下がろうとするシルヴィアに対し、崚はどこまでも譲らない姿勢を堅持した。
お互いに理のある主張だ。手勢に優れる敵方に対し戦力分断は間違いなく悪手だが、かと言って虱潰しに捜していては時間がない。罠にかかってしまった場合、脱出に手間取ってしまうとさらに面倒だ。現在の優先順位は、あくまでもエレナの保護と合流だ。
とはいえ、ここでうだうだと言い争っていてもしょうがない。割り切ったクライドが口を開いた。
「――時間がない、ここで押し問答をしていても始まりません。
リョウ、お前はそっちを頼んだ。……エレナ様と逢えたら、任せたぞ」
「おう」
クライドの言葉に、崚は短く応えると、全身に色のない闇を纏い消失した。それを見届けたクライドは、物言いたげなシルヴィアを急かし、ムルムルの背を叩いてもう一方の空洞へと進入した。
先ほどよりは狭くなった空洞を、ごおと飛翔するムルムル。空間に余裕がないだけあって、イシマエルの姿はほとんど見られない。一体一体にかかずらうよりは、無視してさっさと進んでしまおう。どうせ脱出の際にも、同じ道を通ることになるはずだ。濃密な魔力汚染を伴う風圧をクライドの背越しに浴びながら、シルヴィアはぽつりと口を開いた。
「……あんた、あいつのあんな台詞を信じたの?」
「まさか。十割建前でしょう」
シルヴィアの問いに、クライドはきっぱりと言い捨てた。
思い起こされるのは、崚の態度。口では何のかんの言いつつ、これまでこちらを信頼してきた素直さが、今の彼には感じられない。
「あいつは――何か、変わりました。
あいつ自身に何かがあったのか、それとも“魔”に変じかけているオレのせいなのかは分かりませんが……以前とは、決定的に変質しています。
あいつ自身、それを直感してるのでしょう。だからオレたちから――オレから、遠ざかった。来るべき戦いを前に、諍いを遠ざけるために」
「……男って、本当に面倒臭いわね。あんたたちが特別なの?」
硬い表情で語るクライドに対し、シルヴィアはやれやれと嘆息した。魔王打倒という一大事の最中で、個人の下らない感情を差し挟んでいる場合か。あるいはそれが邪魔をしないための、精一杯の理性というべきなのか。
「今は、エレナ様の探索を急ぎましょう。いずれ合流し、共に魔王打倒を目指すことになるはずです」
クライド自身、苦いものを感じつつ、しかし彼にできることは、ムルムルの背を叩いて飛翔速度を上げさせることだけだった。
◇ ◇ ◇
誤解を恐れず形容するならば、それは苛立ちだろう。
「――ふっ!」
崚は闇の中を駆けつつ、道中に立ちはだかるイシマエル共を斬り伏せていった。両手に煌々と輝く黒白の刃は、あらゆる角度から柔軟に敵を斬殺し、足を止める手間すら与えない。一息に十数もの腐肉を斬り伏せられる俊敏さは、崚に小さなストレス解消を与え続け、自身を省みる余裕を与えた。
――正直に言うならば、彼は苛立っていた。
“魔”に変じかけているクライドの存在に。仲間を排除しようとする自身の衝動に。それを抑えつけようとする無為な理性に。それを『無為』と断じる自身の感性に。
クライドは、確かに“魔”に変わり始めている。斃すべき存在だ――神器が絶え間なく崚の脳裏に囁き続ける。しかし魔王打倒に当たって、エレナ救出に当たって、替えの利かない仲間であることは変わりない。衝動と理性が錯綜し、崚の心中はむかむかと苛立つばかりだった。神器の囁きと崚の思考が絶えず衝突し、どちらが自分の考えなのか分からなくなってくる。
故に、遠ざかるしかなかった。魔王と対峙し撃滅するまでは、クライドの存在を棚上げにするしかない。手近な獲物を遠ざけ、本当に斃すべき敵へと一歩でも近づくことで、強引に優先度を書き換えるしかない――一時凌ぎだ、自覚はある。よしんば魔王を斃せたとして、すぐさまその場でクライドと殺し合いを演じる羽目に――
「ずぇいッ!」
無数の腐腫蜘蛛の群れを焼き潰すと、崚は目の前の開けた空間に飛び込んだ。既に数キロメートル分は走り抜いている。罠を仕掛けてくるならそろそろだろう。何より、濃密な魔力の気配が脳裏を苛んでくる。
目の前に広がる数十メートルの空白には、うぞうぞと這いずる死に蠢く――いや違う。まだ生きている。豪奢な甲冑を纏った騎士が、剣や槍を携えた無数の兵士が、何者かに操られているかように、緩慢な歩みで崚に迫ってきている。その数はすでに五十を超えるが、まだまだ召喚されているようだ。
「――俺はかくれんぼも鬼ごっこも嫌いだ。そもそも碌な思い出がない」
崚は双剣を構え、騎士たちの向こう側の空白に向かって言い放った。一見して何もないその場所には――しかしこの場の何よりも濃密な魔力の気配が存在する。
果たして、そこに音もなく女の姿が現れた。流れるような金髪、切れ長の怜悧な瞳、豊満でありながら無駄のない魅惑の肢体――その唇を蠱惑的に歪める、魔人カンデラリアだった。
「あら、つまらない。異界の稀人とやらも、可哀そうな人生を送ってきたのね」
「押し付けられた『人の道』なんぞをはみ出した連中ほどじゃない」
カンデラリアの憐れむような物言いに、崚はふんと鼻を鳴らした。並みの男なら垂涎ものの美貌も、彼にとっては斬りやすい敵でしかない。そのつっけんどんな態度に構わず、カンデラリアは艶然と微笑んだ。
「では、まずは自己紹介といこうかしら。
私はカンデラリア。世間では、“堕落”の魔人などと呼ばれているわ。
さぁ、異界からやってきた使徒さん。お名前を教えて下さる?」
まるで敵対者に向けるとは思えない、優雅な手つきで崚に問いかけるカンデラリア――その返礼は、逆斬りとともに噴き出した白い光波だった。
幾多の騎士兵士を呑み込み、まっすぐに殺到する光波。手弱女一人を両断して余りある熱量は、果たして彼女を呑み込み、その向こう側の樹壁を焼き焦がしたが――肝心のカンデラリアには、傷ひとつ付いていなかった。その身を包む真っ白なドレスさえ無傷、煤ひとつ付いていない。
「……礼儀のなっていない子。名前を尋ねた淑女に向かって、剣を振り上げるなんて」
「ほざけよ売女。百回生まれ変わってから出直してこい」
不機嫌そうに口を尖らせるカンデラリアは、しかしその眼に嘲笑を浮かべていた。仮にも神器、それも一段と苛烈な退魔の光剣の権能を、まるでスポットライトのように嘲弄できるのは、明らかに尋常ではない。
(ただ頑丈なだけじゃない――何か、絡繰りがあるのか)
思えば不自然だ。魔界を展開している他の魔人たちとも引けを取らない、濃密な魔力を宿していながら、それを外界に漏れ出させる様子がない。攻撃性と引き換えに、神器すら凌ぐ防御力を獲得したか。
思索に沈み口を塞ぐ崚を嘲るように、カンデラリアは艶然と笑った。逸る若人の相手には慣れている。有り余る精力を制御できず、昂るままに貪るように組み伏せてくる、獣のような情欲のいなし方には慣れている。
「ふふ、がっついちゃって。前戯を楽しむ余裕もないのかしら?
――いいわ。お姉さんが丁寧に、手取り足取り教えてあげる」
あやすような言葉とともに、どろりと粘着くような、甘い香りの魔力が溢れ出した。それに呼応するかのように、虚ろな目をした騎士たちが崚に飛び掛かった。
◇ ◇ ◇
相も変わらず“孕魔霊樹”の薄暗い空洞を滑翔すること、数里分――がおお、と突如ムルムルが咆哮し、その飛翔速度を急激に低下させた。
慣性の法則に従い、つんのめるような圧力がクライドとシルヴィアを襲う。内臓が捲れ上がるような不快感に、二人は咄嗟に異変を感じ取った。だが周囲は纏いつくように濃密な魔力汚染ばかりで、新手の様子は見えない。
代わりに、清澄な霊気の気配を感じた。その視線の先にあったのは――ふらふらと覚束ない足取りの、細剣を携えた少女。
「エレナ様!!!」
「エレナ!!」
ムルムルの着地を待つまでもなく、二人は咄嗟に飛び降りた。慌てて駆け寄る二人に、少女もといエレナが顔を上げる。茫然自失となりかけていたエレナは、二人の姿を見、その顔を思い出し、はっと気力を取り戻した。
「クライド――! シルヴィ――!」
反射的に駆け出したエレナは、先に走ってきたクライドの胸に抱き着いた。ぴりりと身を切るような霊気の気配に、しかしクライドは構わず主君をぎゅっと抱き締めた。
「わたし――わたし……!!」
「――よかった……! よくぞ、ご無事で……!」
今にも泣き出し頽れそうな、か細い身体を力強く抱き締める。今度こそ、決して離さぬとばかりに。ぎゅっと抱き締める力強い腕に、エレナもまた細い腕を這わせて応えた。
「とにかく、無事? 怪我はない?」
「う、うん……わたしは……」
再会の喜びにひとしきり満足した二人は、互いに気恥ずかしさを覚えながら離れた。平時なら微笑ましく眺めているところだが、状況がそれを許さない。シルヴィアの問いに、エレナは心を落ち着かせながら答えた。
ともかく、これで第二段階は達成。あとは崚と合流してこの“孕魔霊樹”を脱出し、カヤたちの許に戻りたいところだが……
――ぴりり、と痺れるような霊気の気配を感じた。
「――お二方、お下がりください」
クライドは咄嗟にエレナとシルヴィアを庇い、二人を背に進み出た。ムルムルも異変を察知し、ぐるぐると唸りながら前へ進み出る。
何かが闇を歩いている。覚束ない足取りで、こちらに歩み寄ってくる。その気配に、その正体に、三人は覚えがなかったが――この魔界の奥深くにあって、まともに活動できる存在など、候補は自然と限られる。
「――……でん、か……」
「――まさか……!」
果たして、その人物は闇を抜け姿を現した。苦悶に震えるその声には、聞き覚えがある。今は煤けたその赤毛にも、見覚えがある。
「……久々、ですな……エレナ、殿下」
――レイナード・アレスタ。ベルキュラスに召し上げられ、カドレナに通じ、而してその双方を裏切った奸臣。
往時の美麗さなど見る影もない襤褸を纏い、煤けた赤毛を振り乱し、落ち窪んだ眼窩はひたすらに虚空を映すばかり。その手に携えている大鎌――雷獣の鉤爪も、濃密で苛烈な魔力によって余すことなく締め上げられ、ぎちぎちと軋むような音を立てている。
いつかのシルヴィアの懸念は的中した。神器、雷獣の鉤爪でさえ魔王の魔力に隷属させられ、その尖兵となっている。まずいことに、こちらには“魔”がいる。濃密な魔力汚染に総身を縛り上げられながらも、決して翳ることのない使命を果たす理由が、存在してしまっている。
クライドはアレスタに向けて長槍を構えつつ、毅然とした態度で口を開いた。
「――……アレスタ、一度だけ訊いておく。
同じ使徒として、エレナ様と轡を並べる意志はあるか。貴様が積み上げてきた全ての罪を償い、清算し、世界を護るために己を擲つ覚悟はあるか」
“魔”が、使徒に、戦いの是非を問う。何とあべこべな絵面だろう。恐るべきは、この善悪逆転の絵図を成立させ、使徒エレナを含む三人に刃を向けさせる魔王の魔力か。
「……むろ、ん……世界を――あるべ、き形に、正す、ために……」
「それが魔王に従い、世界廃絶を成すことだとでもいうのか!!」
大鎌を構え、苦しげに喉を震わせながら答えるアレスタの言葉に、クライドは声を荒げた。
分かってはいたことだが――この男は、決して味方たり得ない。“魔”と敵対し、使徒に害をなす怨敵だ。そして、もしも悪い想像が当たっているのなら――
「――……くく、ははは……“魔”たる、貴様が、言え、た口、かね……」
「――ちっ……!」
果たして、その顔に嘲笑を浮かべながら問い返すアレスタに対し、シルヴィアは歯噛みしながら錫杖を構えた。
事ここに至って、雷獣の鉤爪の意志は消えていない。斃すべき“魔”を、片端から殲滅する本能は狂わされていない。人の世の道理すら蹂躙する荒魂は、その影を色濃く残している。
「……さて――それでは……弔い合、戦と、でも――いこう、かね」
ぎちぎちと魔力に軋みながら、アレスタは雷獣の鉤爪を突き付けた。ぎらりと輝く大鎌の刃が、紫電を迸らせた。
魔界創生:我美しく、故に我在り
“堕落”の魔人、カンデラリアが司る魔界
世界を侵食し、“理外の理”を押し広げる魔導の究極
しかし彼女の魔力は裡に巡り、その理想を映し続ける
すなわち、何者にも侵されぬ完全なる美を
とある時代に、とある高級娼婦がいた
類稀なる美貌と才智を備えた彼女は
多くの権力者の寵愛を得、愛欲に狂わせた
そして傾城の汚名を着せられ、都を追われた




