クチサケ 2
悲鳴が、夜の暗黒に響く。空気が波打ち、体に届いた衝撃は、心臓を冷やす。悲鳴をあげる怪人、両手に構えた凶器は地面に落ち、街灯に照らされ輝いている。
二人の、呪文は止まらない。マシンガンのように、間を開けず、徹底的に怪人を狙う。苺は、黒川の袖を掴みゆっくりと立ち上がった。
怪人の悲鳴が止んだ。隈が浮いた大きな目が、二人を睨む。苺は怯み、小さな悲鳴を上げた。怪人は、白い枯木のような指で二人を指し示す。
二人が、身構えた。怪人は大きな口で笑うと、暗闇に溶けて消えた。
肌寒さが、これと同じに消えた。生温い、湿った風が吹き、二人の意識を叩く。
夢だったのか、もしや、自分一人が見た夢なのではないか。
二人は顔を見合わせた。苺のほほに、いつもの赤みがなく、恐怖で青く染まっている。黒川の拳は、臨戦のため固く握られている。夢ではない、現実。
苺が握る袖を離し、黒川の手を取った。黒川の手は、熱かった。黒川は、苺を連れて家まで送り届けた。帰り道では、二人は口をほとんど利かなかった。
「また、学校で」
苺は、玄関の扉がしまったのを確認して、扉にもたれ掛かり、溜息をはいた。恐怖が蘇る。黒い長い髪、凶器、裂けた口。恐怖に捕われそうになる、彼女は必死で否定した。いない、いない。あんなものは、いない。居てはいけない。
恐怖はしかし彼女を逃すきはない。捕まり狂いそうになった彼女は、手の熱さを思いだした。
この手の熱さ、彼女は手の熱を松明に、闇を払った。
「黒川、大丈夫かな」