第一面
頭に軽い衝撃を受けて目を醒ました。顔を上げると教師が立っていた。
「居眠りしてると、次のテストこまるぞ。今日の所は大事な所だからな」 教師は見回りの途中に、居眠りしている彼を見つけた。
軽く揺らしても起きないかったので、少し痛い起こしかたをした。
「うっす・・・」
会釈して、手元のノートをみると真っ白だった。
「真っ白?」
授業始めから眠っていたのだから、当たり前のこと。しかし、真っ白なノートを見つめていると、何か忘れているような、切ない気持ちになるのだ。
「当たり前じゃん。黒川さ、一時間ずっと寝てたんだもん。逆に何か書いてたほうが、ホラーだよ」
隣の席から円藤苺が教師にばれないように、囁いてきた。
「確かに。後でノート見せて? 円藤さんはノートとってたんでしょ」
黒川は自分の真っ白なノートを彼女にみせた。
「えー、どうしようかな。私、字が汚いからさ、恥ずかしいなー」
円藤はノートを体で覆い隠した。黒川の目は、彼女のノートがよだれで染みている事に気付いていたる。
「そっか、なら仕方ない。今回はあきらめるよ」
余り突っ込むのは、高校男子として、宜しくない。潔く引くのが吉だった。
教師がコソコソおしゃべりしている二人に、そろそろ怒ろうと構え初めていた。
黒川と円藤は空気を読み、これ以上じゃれなかった。
HRが終わると、一気に教室は騒がしくなった。長く授業を耐えた放課後は最高の自由時間だ。予定のある生徒達は、さっさと教室から飛び出して行った。予定のない生徒は、ダラダラ話しながら教室から出ていった。
黒川は、友人からノートを借りて写しとっていた。
「あれ? 黒川まだ帰ってなかったんだ。ノート借りたんだ、ごめんね。貸して上げられなくて」
クラスの女子と雑談していた円藤が戻ってきた。
「気にしないで。寝てたのが悪いんだから。それに、あんまりノートは使わないから。一応、提出ように書くだけだから」
「勉強はどうするのよ。ノート使うでしょう?」
黒川は写し終わったノートを友人に返す。友人はノートを受け取ると、教室から出て行った。
「教科書だけかな。ノート見ても何を書いてるのかわからないんだ。見る?」
黒川はノートを円藤に差し出した。彼女はノートを受け取り、中身を覗く。
「人のノートを見るのって、ドキドキするね。うわぁ、すごっ。象形文字? 漢字の失敗作?」
「日本語で、現代っこの書いたノートだよ」
最後まで見ずに、ノートを閉じた。
「読めるの?」
「全く」
「解読必要なノートなんて初めてみたよ」
黒川はノートをめくりながら、頷いた。
「先生は読めるみたいなんだよね。たまにコメントがついて帰ってくるんだけど、マジ不思議」
「先生解るんだ、すげえ」
二人が話していると、どんどん教室から人が引いて行った。夕日が沈み、二人も帰り支度を始めた。
「暗くなってきたし、帰ろうぜ。円藤はバスだっけ?」
「うん。でもこの時間だと、待たないとだめかな」
円藤はバスの時刻表を確認した。30分程余裕があった。バス停は学校から歩いて5分、かなり長くバス停で待つ事になる。椅子の一つもない、ただ立て札が有るだけだのバス停で30分程一人で待つ。すでに日は暮れている。
「私、時間まで教室にいるよ。あそこ、椅子ないから立っていると疲れるんだ」
円藤は席に座り、携帯を開いた。黒川はちらりと腕時計を確認し、教室の出入り口に向かった。
「またね、バイバイ黒川! 」
円藤は立ち上がって、手を振った。
「いや、帰らんよ。もう少しここにいる事にしたよ。 家に帰ってもやることないし。邪魔なら帰るよ」
パチンと音がして、暗くくなった教室に光が満ちた。
「じゃ、邪魔なわけないよ! ゆっくりしてって!」