夢で会えるのは
初投稿、初執筆になります。最後まで書く予定なので、お付き合い下さい。
山頂に向かう道は、絡み付く蛇のように山門から続いている。
砂利が多く、山頂をめざす登山者たちの足をよく奪う。
山頂が見えてくる頃には、たいていの者は息を切らすことになる。
重い荷物を背負い込み、のぼりきった終点には山頂一面、全てを化粧する花畑。
舞妓がするような、真っ白な、しかし暑苦しいさはなかった。
なぜなら化粧する花畑が、可憐な白雪のような花達で成り立っていたからだ。
あまりの感動と興奮に一輪、花を摘んで持ち帰ろうと恭しく膝をつく。
花に手を延ばす。
指先がチョンと触れた。ピシリと嫌な音がする。指先が触れた花びらは、ガラスのようにひび割れてしまった。
「運命花とな、呼ばれとる」
背後から、声が聞こえた。振り返るとシロヒゲのお爺さんがたっていた。
お爺さんは直ぐ側に膝をつくと、運命花に手を延ばした。
「あっ!」
お爺さんは両手で、掬い上げるように花を抱いた。
「ここでは、風は吹かない。なぜだかわかるかな?」
突然の謎掛けに、半覚醒の頭は答えられない。お爺さんは、抱き上げた運命花をこちらにそっと差し出した。
「触れただけで砕ける、赤ちゃんのようなやわい肌には、強い風は厳禁。扱う者には優しい振る舞いが求められる。大ヒントじゃな」
促され気持ちを切り替える。
「そう、それでいい」
父が生まれたばかりの我が子を抱くような心意気。両手で抱えた運命花は重かった。
「名前を教えてくれんかな。運命花を抱ける者は珍しいのでな。記念に、どうかの?」
頷き答えようとした、その時だった。山門から竜巻が吹き上がり、山頂の運命花のほとんどを連れ去ってしまった。
「いったい何事じゃあ!」
お爺さんは山頂の凄惨な光景見て、ガク然とする。ほんの少し指先で触れただけで砕けるやわい花達は、竜巻の凶行で無惨に散らされた。
「そんな、なんてこと」 お爺さんは頭を抱えた。しかし直ぐお爺さんは肩叩かれ顔を上げる。
両手に抱えた運命花を抱くのは、父の心意気。ならば、竜巻で何事かに散らされる失態を犯すだろうか。
お爺さんは両手のなか、見事に咲く運命花をみた。
「お、おお!」
包む両手に更に、両手を重ねる。お爺さんの目から涙が落ちた。
「よかった! 本当によかった!」
花畑に残ったのは、今この両手で抱く一輪だけ。真っ白な化粧はハゲて、でこぼこした茶色い地肌をさらしている。
急に頭に衝撃が走った。半覚醒の頭が、目覚めてゆく。
「オヌシ、目覚めるのか! ならば名前を、名前を教えてくれ!」
景色が曖昧に、五感がはっきりしてゆくなか名前はお爺さんに届いたのか。
目覚めた彼には、わからない。