再びの死
「くそっ!まだだ!まだ死ねない!死んでたまるか!」
ソニアの手を引っ張り、ダンジョンを奥へと進んでいく。
階層も深くなり、あまり奥に行けばさらに強い魔獣と出くわすだろう。
「ソニア!しっかりしろ!」
「……。」
ソニアは先程から殆ど自分の力で歩こうとしない。
まぁ眼の前で仲間が死んだとあればそうもなるだろう。
かく言う俺も人の死に慣れているとは言えない。
だが、こんな所で挫けるわけにはいかない。
まだこれから何度も死を経験するだろう。
自分自身もそうだし、仲間の死もだ。
「ソニア!」
「え……あ、ごめん。」
ソニアに強く語りかけるとソニアは我に戻った。
せめて彼女だけでも生かそう。
あの男の言う話では俺が死ぬとしかいっていない。
仲間が死んだのはあくまでも巻き添えだ。
なら、全力で生かす。
「良いかソニア。俺は何があってもお前を地上に送り出す。」
「……アルフレッドは?」
少し考えてから口を開く。
「ここに行こうといったのは俺だ。責任は取る。だから、命がけでお前を無事に逃がす。」
「……駄目。」
ソニアは俺の肩に手を置く。
「駄目だよ!そんなの!一緒に帰ろうよ!」
「……無理だ。俺はここで死ぬ定めだ。」
あの呪いの事を言ってもわからないだろうから説明はしない。
ソニアの手を振りほどく。
「良いか。この先は広間になってる。あのトロル達も俺達を追ってもうじきここに来るだろう。俺がトロルを誘き寄せるからお前は岩陰に隠れて隙を見て走れ。」
「……嫌。」
「嫌じゃない!どのみちこのままだったら二人共死ぬんだ!でも一人なら生きて帰れる可能性がある!お前は生きろ!」
すると、ソニアは何かに気が付いたようだった。
「……ねぇ、アルフレッド。」
「どうした?」
「私ね、あんたが他の女と話してるの、実は嫉妬してたんだ。」
唐突に何を言い出すんだ?
……少し嫌な予感がする。
「おい……。」
「リリアが来てからも嫉妬してた。……実はリリアが死んだ時、涙が出なかったの。それどころか内心ほっとしてたかも。」
ソニアが立ち上がり杖を構えた。
「お、おい……。」
「私の想いが届かないなら死んだほうがマシだって思ってた。あんたが他の女と結婚するってなったら死のうと思ってた。だから、どちらかが生き残るなんて選択肢はあり得ないの。」
ソニアはジリジリと寄ってくる。
「ねぇ、一緒に死のう?そうすればあの世でも一緒だよ?私達二人共ここで死ねば良いんだよ。」
「待て!落ち着け!」
そう言うと、ソニアは杖を投げ捨て、抱きついてきた。
そして、俺の唇を奪った。
「好きだよ。アルフレッド。」
「ぐっ!」
腹部に走る激痛。
ナイフを刺された。
……俺がこのままだと二人共死ぬといったせいか……。
いやこんな事になるとは予測つかんだろう。
「燃やすのは流石に可哀想だと思ってね。だったらせめて形が残るように死なないとね?」
すると、ソニアはナイフを俺から引き抜き、自分にも刺す。
ソニアの腹部から血が溢れ出す。
「……抱き合って……死にましょう?そうすれば、私達を発見した人は……後世に勇者アルフレッドは、愛するソニアと共に死んだって記録するでしょ。」
ソニアが俺の胸に顔を埋める。
「あぁ……ずっとこうしたかった。ずっと……。ずっと……。」
「ソニア……。」
すると、ソニアは顔を上げ、こちらを見る。
その目には狂気が宿っているようにも見えた。
「あ、そうだ。このままじゃ苦しいだけよね?せめて、先にアルフレッドだけでも楽になっておいた方が良いわよね。」
「ま、待て……。」
ソニアはナイフを再び取り出すと俺を滅多刺しにする。
「ソ、ソニ、ア……。」
「あぁ、アルフレッド。死の間際まで、私の名前を呼んでくれるなんて……私は幸せね。」
段々と意識が薄らいでゆく。
すると、ソニアは再び俺に抱きついてきた。
「愛してるわ……アルフレッド。」
「……。」
俺は残る力でそっと抱き返した。
それを最後に俺の意識は無くなった。
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