罰
「……ん?」
目が覚めると、そこはなにもない真っ白な世界。
確か俺は魔獣に喰い殺された筈。
じゃあここは天国か。
地獄なわけはないしな。
「いや、君をそう簡単には天国にも地獄にもいかせはしないよ?」
背後から声がし、振り返るとそこには謎の人物がいた。
顔が見えない。
姿も朧げだ。
「こんな姿ですまないね。まぁ、これについてはまた今度説明するけど、君は今、ここがどこだが気になっているんだろ?」
「まぁな。教えてくれるのか?」
その男は頷いた。
「あぁ。ここは僕の世界。俺のスキルが作り出した空間だ。」
「あんたのスキル?」
「そう。僕のスキルは死後発動するものだったみたいでね。こうして自我を保ててる訳さ。」
そんなスキル意味が無いだろ。
「そうだね。意味はないと思う。」
「……俺の考えてることが分かるのか。」
「何せ僕の世界だからね。ここなら不可能は無い。」
すると、男は俺を指さした。
「そして、僕のスキルは現世にも関与できる。無論、君にもした。」
「俺にも?何故?」
男は少し笑ったのだろうか。
しっかりと見えない。
「そう。君、古い石像を壊しただろ?」
「あぁ。古びたボロボロの奴な。小汚くて、腹が立ってたからムシャクシャしてぶっ壊したよ。」
「あれ、僕。」
「……え?」
行っている意味が分からない。
「あれは僕なんだ。どっかの誰かが僕のことを思って作ってくれた物らしい。それを、君が壊した。」
「へ、へぇ……それで?」
嫌な予感がする。
何かは分からないが、とてつもない嫌な予感が。
「君には罰を与えた。先程も言ったように僕のスキルはある程度現世に関与できる。君は勇者だ。だから、君が勇者らしからぬ行動を取ったら……。」
「……取ったら?」
その男は指を鳴らした。
「必ず、君は死ぬ。」
「はぁっ!?」
「そうだね、具体的には、罪のない人への暴行や犯罪、仲間を蔑ろにする行為。魔王を倒そうとしない。まぁ、勇者らしからぬ行動、正義とは言えない行動を取ったら君は死ぬんだ。」
ん?いや待てよ?
「待て、俺は死んでるぞ。確かに死んだぞ?」
「そこで、二つ目の罰だ。」
「二つもあるのかよ!」
「勿論。」
男は淡々と話し続ける。
「もう一つの罰は、魔王を倒すまで、死ねないというものだ?」
「は?勇者らしからぬ行動を取れば死ぬんだろ?」
男は頷く。
全く意味が分からない。
「そう。君が魔王を殺すまで一つ目の罰は続く。もし一つ目の罰とは関係なくて死んだとしても君は必ず蘇る。時が、君が僕の石像を壊した時に巻き戻るんだ。まぁ、厳密には死ねるけどまた蘇るってことさ。」
「……つまり、勇者らしからぬ行動を取ったら必ず死ぬ。死んでも必ず石像を壊した時に巻き戻って蘇り、その罰は魔王を倒すまで続く?」
「そゆこと。」
男は笑顔で言う。
「ふざけるな!死んだら終わりでいいだろ!……いや、待てよ死んでもループする。つまり、その時に犯した犯罪は帳消しにされるのか。じゃあ、死んでも良いからやりたい放題できるのか!」
「……因みに、ループを繰り返すほど君の能力は落ちていく。更に君が経験する死に方はもっと残酷な物になっていくよ。」
あの死に方を思い出す。
中々に怖かった。
だが、一瞬で死ねたのだからまだましなのか。
「君に拒否権は無い。精々、死ぬ気で頑張りなよ。どうせループするんだから。」
すると、足元が光り始める。
「おい!待て!」
「じゃあねー!」
男は手を振る。
俺は段々と下に落ちていく。
あの男は最後まで笑顔で手を振っていた。
ここから、俺の最悪な人生が幕を開けたのだった。
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