苦難の始まり
眼の前には大きく口を開いたドラゴン。
その口の中にはかつて仲間だったものの腕や服の切れ端等が見受けられた。
かつて仲間だった者の顔がこちらを見ている。
落ち着こう。
何故こうなったのか。
それを考えよう。
今から俺は死ぬだろうが、それは変えられない。
そういう定めだからだ。
それに死ぬのは今回が初めてではない。
思い返せばあれは数ヶ月前。
この世界では成人したらスキルを授かる。
一人につき一つ授けられる神聖な物だ。
ついにそれを受け取るときが来たのだ。
俺は期待に満ち溢れた眼差しで幼馴染のソニアと共に神殿へと向かっていた。
「おい!早くしろって!」
「ちょっと早すぎ!急いだって結果は変わらないよ!」
金髪、貧乳、生意気。
物語の主人公ならば幼馴染はもっと魅力的な女性であるべきだ。
金髪はいい。
だが、物語のヒロインならばもっとグラマラスでなければ。
そんなくだらない事を考えながらソニアを無視して走っていた。
この世の中はスキル差別があるほどスキルによって人生が左右される。
クソみたいなスキルを授かっては村からも迫害されてしまうのだ。
「おおアルフレッドよ。ソニアも一緒か。お前達が最後だ。来なさい。」
神殿につくと神官に案内された。
この神官も長いことこの村にいるが、こんな田舎で楽しいのだろうか。
俺ならば都会に出て女遊びをしまくる。
そうやってこの頃からあらゆる人間を見下していた。
「さぁ、アルフレッドよ。祭壇に立ちなさい。」
神官に言われるがまま、儀式を進めていく。
すると、辺りが光りに包まれる。
そして、頭の中に声が響いた。
スキルを告げられたのだ。
(これは……。)
「お、おぉ!この眩い光!まさか!?アルフレッド!貴方は勇者のスキルを授かったのですね!」
「どうやら、そうみたいです。」
どうやら儀式の際に溢れ出る光がスキルの判断基準となっているようでそれで俺が勇者とわかったらしい。
そして、俺は勇者となった。
ソニアは魔法使いのスキルを得た。
ありとあらゆる魔法を使いこなすスキルである。
神官の勧めで俺は王都へと赴いた。
路銀と簡単な装備を持たされて。
「ねぇ!少しくらい荷物持ってよ!」
「……俺は勇者だぞ。勇者はそんな仕事はしない。」
ソニアも一緒だ。
残念なことに。
等とクソみたいな事を考えながら王都へと向かう途中、魔物に襲われていた集団と出くわした。
どうやら行商人らしい。
「た、助けて!」
行商人は俺達を見かけると助けを求めてきた。
数匹のゴブリンに行商人の馬車は囲まれていた。
が、俺はスルーした。
「ちょっと!助けないの!?」
そんな俺をソニアが止める。
「……面倒臭い。」
だって俺達だって強いわけじゃない。
勇者のスキルは全ての能力を数倍引き上げる物だが戦闘の技術があるわけでもない。
危険は避けて王都で王から軍資金を得てから訓練する。
それまでは逃げる。
危険なことはしたくない。
「こっち来ないで下さい!」
すると、行商人の馬車から女性の声が聞こえた。
俺はすぐさま反応し、剣を抜き、ゴブリンを殺していく。
ソニアが助力する暇も無く、辺りは片付いた。
……案外行けるな。
「す、凄い……。」
「……さて、と。」
驚く行商人をよそに馬車の中を覗く。
すると、そこには……。
「ありがたや……。ありがたや……。」
年老いた老婆が。
ふざけるな。
あの女の悲鳴はこいつか。
そう思った矢先、その後ろの荷物の影から人が現れた。
「あ、あの!ありがとうございます!私は僧侶のリリアといいます!お怪我はしてませんか?すぐに治せます!」
良かった。
俺の苦労は報われたようだ。
青みがかった長い髪。
僧侶の格好は少し地味だが、それを補って余りある豊満な胸。
俺の苦労はこのためにあった。
「いえ、あなたこそお怪我は?もし歩くのがお辛いようでした俺が背負って……がっ!」
「馬鹿なこと言って無いの!すいません。この馬鹿が。」
「馬鹿とは何だ!?俺は勇者だぞ!」
「だったらもっと早く助けなさいよ!」
全く、こいつがいると調子が狂う。
でも、女だし無下には出来ないな。
「取り敢えず、馬は逃げちゃったし、私が浮遊魔法で荷物等は持って行きますよ。王都はもうすぐですし、皆さん馬車に乗ってていいですよ。」
「おお!ありがたや!」
「じゃ、俺も。」
「あんたは歩きなさいよ!」
そんなこんなで俺達の旅は始まった。
この時は俺は物語のような壮大な物語が待っていると思っていた。
だが、待っていたのだ苦難の連続だったのだ。
俺は何度この仲間達を死なせたのだろうか。
考えるだけでも嫌になる。
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