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山岸T 4

二人でベンチに座って夕方の公園で遊ぶ小学生を見ていた。

夏に比べて日が短くなったと感じる。

「ここは良い所です。本当に良い所だ。我々の故郷がそうであった様に。ここにいると遠い昔を思い出す。・・・・君もそう思うでしょう?どうですか?」


「我々?」

僕も首を傾げる。

「先生も鹿児島出身なのですか?」

山岸Tはにっこりと笑う。

そして空を見上げた。

「きっとザラスシュトラもそう思った事でしょう」

・・・??


暫し無言。


「電波に乗るのは辛かったでしょうね」

山岸Tはぽつり言った。


「電波?」

僕は返した。そして考えた。



「先生、それは今度の講義の前振りですか?もしかしてサタンは電磁波を使って攻撃したとか?ガンマ線とか?」

「それとも仏陀が語ったのは実は悪魔では無くて宇宙からの電波だったとか?それと交信したとか?」


山岸Tは面白そうに僕の顔を見た。

「なかなか斬新なアイデアですね。・・・まあ、そんな所です。クラスのみんなには内緒にして置いてください」

山岸Tは立ち上がった。

「君はなかなかポーカーフェイスが・・・・」

そう言って僕をじっと見た。


「もしも、誰かから君に・・・例えば、故郷の誰かから、連絡があって、もしも、私の事を聞かれたら、こう伝えてくださると有難い」

山岸Tは穏やかに言った。

「私はここにいると。私はこれからもここで生きて行くと。何よりも置いて行けない愛しい妻と子がいる。私はこの地に骨を埋める覚悟だと言っていたと。もう転移は無しだと」


「鹿児島からですか?」

僕は尋ねた。

「そう。鹿児島から」

山岸Tは言った。

僕は「分かりました」と答えた。


「じゃあ、また。東雲君。・・・いい苗字ですね。「しののめ」。どんな状態であっても、また朝日は昇る。どんなに絶望的な状態でも。・・・朝焼けにたなびく一筋の雲・・・美しい苗字です」


僕は立ち去る山岸Tの後ろ姿を見送った。

少し考える。

僕はベンチに座ったままスマホを開いた。

父にラインを送る。


父はすぐに返信をして来た。

それを読む。

僕はベンチから立ち上がると、家では無く、駅に向かって歩き出した。



山岸Tは勘違いをしている。

遠い昔に電波に乗ってこの星にやって来たのは、僕では無くて父なのだ。


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