九話
「呂布は何故生きている?曹操が何か仕掛けたか?」「いや、曹操殿は関係ない。呂布将軍の傷は深く、とても助かるとは思えなかった。しかし、呂布将軍は生きていられた。おそらくは陳宮殿の秘薬によって」
「陳宮だと?」
武将はその名前に聞き覚えがあったらしく、表情を歪める。
「ああ。陳宮はあの時、呂布将軍を助けるために自らの身体に劇毒を塗っていたらしい。しかし、そのおかげで呂布将軍は一命を取り留め、今では徐州城で太守として暮らしている」
「馬鹿な。そんな事が許されるはずがない」
武将は怒りの形相を浮かべ、再び攻撃を仕掛けてくる。
「貴様が何を考えているのかは知らないが、呂布将軍に危害を加えると言うのなら、私が許さない」
徐晃は武将の攻撃を受け流し、武将の腹を蹴り飛ばす。
武将は吹き飛び、地面に転がる。
「ぐっ、この野郎!」
武将は剣を杖にして立ち上がろうとするが、そこに徐晃が止めを刺す。
武将の首が宙に舞い、地面へと落ちる。
徐晃は呂布の後を追うべく、北門へ向かった。
「くそっ、徐晃め! あんな奴に負けてたまるか!」
武将は首のない状態で立ち上がり、徐晃を追って走り出す。
「おやおや、まだ生きていたのか」
そこへ現れたのは楽進だった。
「楽進か。ちょうどいい、あいつを倒しておけ」
武将はそう言うと、首から下だけになった自分の身体に目を向ける。
「悪いけど、もう死んでるよ」
「何だと?」
武将は自分の死体を見つめるが、そこには首のなくなった自分の死体があるだけだった。
「じゃあな」
楽進は武将の首を拾い上げ、その場を後にする。
「おや、これは珍しい。李典さんじゃないですか」
徐晃が北門へ向かう途中、張遼と出会う。
「徐晃じゃないか。お前が呂布軍にいるなんて、知らなかったよ」
「色々ありましてね」
「それより、呂布将軍は?」
「南門へ向かいました」
「南門だって? そりゃまずいな」
張遼は焦った様子を見せる。
「どうかしたんですか?」
「南門には曹操軍の武将、夏侯惇がいる。今の呂布将軍に勝てるかどうか……」
「呂布将軍が?」
「ああ。夏侯惇は強いぞ」
「わかりました。では、私は南門へ急ぎます」
「俺も行こう。このまま放っておくわけにはいかないしな」
徐晃と張遼は南門へ向かって駆け出す。
南門には、曹操軍の猛将、夏侯惇と魏続がいた。
「曹操は死んだそうだな」
「はい」
呂布の言葉に、魏続が答える。
「だが、俺は納得していない。だから、俺が曹操の代わりにこの徐州の太守となる」
「それなら、徐州の民を全員殺すしかないですね」
「どういう意味だ?」
「この徐州の民は曹操に殺されかけた。だから、曹操の代わりである太守が民を殺すと言えば、民は従うでしょう」
「民はそれでいいかもしれないが、太守がそんな事をしていいと思っているのか?」
「太守? あなたが太守? この徐州で最強と言われている呂布将軍が太守です。呂布将軍は太守になる資格があり、あなたはそれに反対している。ならば、太守の座を賭けて戦うのが正しい事ではないでしょうか?」
「貴様、ふざけた事を!」
呂布は戟を振り上げるが、魏続はその戟を受け止める。
「呂布将軍、あなたの相手はこの私です。曹操を殺した英雄を倒せば、私も英雄になれる」
「貴様、最初からそれが狙いで!」
呂布は戟を引くと、そのまま魏続に向かって振り下ろす。魏続は剣で呂布の戟を受けるが、呂布の一撃は重い。
剣を弾き飛ばされないようにするのが精一杯で、反撃に出る事が出来ない。
「呂布将軍、これが曹操を殺した男の力か」
「俺を恨むのは構わないが、今は戦いに集中しろ。この戦いは徐州の民の命がかかっているんだぞ」
「わかっているさ。曹操が死に、呂布が生きていれば呂布こそがこの国の支配者だ。呂布がこの国の王になれば、曹操など比較にならないほど良い暮らしが出来る」
「そんな事はさせない」
呂布は戟を引いて、魏続から離れる。
「将軍、呂布将軍はここです」
その時、徐晃と楽進が現れる。
「呂布将軍、無事ですか?」
「ああ。だが、この男は俺を殺せる気になっているようだ」
「なら、私が倒しましょう」
楽進はそう言うと、魏続の前に立つ。
「呂布将軍、ここはお任せ下さい」
「徐晃、任せたぞ」
呂布はそう言うと、徐晃は南門から姿を消す。
「貴様は確か徐晃とか言ったな。貴様ごときに呂布将軍が負けたとは思えんが、貴様の武勇を見せてもらうとしよう」
「その必要はない」
楽進は剣を構える。
「貴様如き、この剣の錆にしてくれる」
魏続は剣を抜く。
「我が名は楽進文謙。推して参る」
楽進は一気に間合いを詰めると、魏続に向けて剣を振るう。
その剣を魏続は剣で受けるが、その剣は真っ二つに折れる。
「何だと!?」
「私の剣は特別製でな。どんな物でも斬れるようになっている」
楽進は追撃の一撃を放つが、魏続はそれを辛うじてかわす。
「くそっ、よくも俺の剣を!」
魏続は腰の鞘から短刀を引き抜いて構える。
「来ないのか?」
「言われなくても行くさ!」
魏続は楽進に斬りかかるが、楽進は難なくそれをかわす。
「くそっ!」
魏続は今度は連続で攻撃するが、楽進は全て避ける。
「どうした? もう終わりか?」
「くそっ! 何故当たらねぇ!」
「お前の攻撃が遅いからだ」
「何だと!」




