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八話

「そんなはずはない! 劉備は死んだのだ! あの男はこの世に存在してはならない!」武将は激情のままに叫び、再び呂布に向かってくる。

呂布と武将の戦いは続くが、呂布の肩の傷はかなり深く、出血量も多い。

「くっ」

呂布は武将の攻撃を防ぎきれず、戟を落としてしまう。

「死ね!」

武将は呂布にとどめを刺そうとするが、その瞬間に武将の身体が吹き飛ぶ。

「徐晃!」

呂布は徐晃が駆けつけてくれた事に喜ぶが、すぐに表情を曇らせる。

徐晃の右腕は肘から先がなくなっていた。

「大丈夫か?」

「申し訳ありません。取り逃がしました」

徐晃は苦笑いを浮かべながら、呂布の問いに答える。

「呂布将軍、ここは私に任せて下さい」

徐晃はそう言うと、武将の後を追う。

「徐晃、気を付けろ!」

呂布は徐晃に声をかけたが、徐晃は振り返る事なく北門へと駆けて行く。

「くそ、何だあいつは?」

武将は徐晃の強さに驚き、憎々しげに呟く。

「さて、俺の相手はお前だけだな」

呂布は戟を拾い上げ、武将に向かって構える。

「貴様が呂布だと? 呂布は死んだはずだ」

「俺が呂布だ。お前が殺したと思っている男だよ」

呂布は武将に問いかけるが、武将は答えない。

「貴様が呂布だと?」

武将は呂布を睨み付ける。

「そうだ」

「嘘だ! 俺がこの目で見たんだ! 呂布は死んだ! 俺が、俺が呂布を殺したんだ!」

武将は激昂し、呂布に向かって襲いかかってくる。

「だから、俺が呂布だと言っているだろうが!」

呂布は武将の攻撃をかわすと、戟で武将を薙ぎ払う。

武将はかろうじて呂布の攻撃を避けたが、そのせいで体勢を崩す。

呂布はその隙を見逃さず、武将に戟を振り下ろす。

武将は辛うじて呂布の戟を避けるが、戟の刃は武将の左腕を切り落とす。

「うわぁ!」

武将は悲鳴を上げて倒れ込む。

「お前は曹操軍の刺客か?」

呂布は武将に尋ねるが、武将は返事をしない。

「お前が曹操軍の手先なら、曹操は生きていると言う事か?」

「……」

「答えろ!」

呂布は武将の腹を踏みつけ、戟の切っ先を突きつける。

「曹操は……曹操は生きているのか?」

武将は答えず、呂布を見上げる。

「答えろ!」

呂布は戟の柄で武将の顔面を殴りつける。

「曹操は……」

武将は血の混じった唾を吐き捨てる。

「曹操は死んだ! 俺の手で殺した!」

「何だと?」

呂布は驚いて聞き返す。

「俺の父は曹操軍に殺された。そして、俺は父の仇を討つために、曹操軍の兵士となった。しかし、俺は曹操軍の中でも最弱だった。父を殺した男、曹仁にすら勝てなかった。俺は父の敵討ちをするどころか、自分の身を守る事も出来なかった。俺は曹操軍でただ飯を食らうだけの存在だ。俺は何のために生きて来たのか? 俺は何の為に曹操軍にいるのか?」

武将の目からは涙が流れ、呂布はその言葉に耳を傾けていた。

「俺はもう生きる意味を失った。だから、俺は曹操を殺すためだけに生きていた。それなのに、それなのに! どうして呂布がいる? どうして、お前が生きている? どうして俺の邪魔をする?」

武将の言葉に、呂布は何も言えなかった。

「お前が呂布なのか?」

「ああ」

「ならば、呂布よ。今すぐ俺を殺してくれ」

武将は自分の首を差し出すように、呂布の前に膝をつく。

「頼む。俺はもう、疲れた」

「……」

呂布は戟を振り上げる。

「待って下さい」

その時、徐晃の声がした。

「徐晃!」

呂布は徐晃に呼びかけると、徐晃は呂布の元へ駆け寄ってくる。

「呂布将軍、お怪我は?」

「大丈夫だ。それより徐晃、お前こそ腕は大丈夫か?」

「問題ありません」

「そうか、よかった」

呂布は安堵の息を漏らす。

「将軍、この者は私が引き受けます。将軍は兵を率いて南門へ」

「しかし、この男は俺の客将だった者だ。見過ごすわけにはいかない」

「将軍、将軍はこの徐州の太守です。将軍がこの者を討ち取ったとなれば、徐州の民が動揺します。ここは私にお任せ下さい」

徐晃はそう言って、呂布に頭を下げる。

「わかった。徐晃、後は頼んだぞ」

呂布は戟を鞘に納めると、徐晃に武将を任せて南門へと向かう。

「さて、貴様の相手はこの私だ」

徐晃は呂布の姿が見えなくなると、武将に向き直る。

「……」

武将は無言で立ち上がると、剣を構える。

「貴様の名は?」

「徐晃」

「徐晃だと? 聞いた事がある。黄巾の乱の時、張飛や関羽と共に活躍したと言う。だが、貴様の武勇伝はそれだけではない。曹操と敵対していた劉備をも助けた事もあるそうだな。曹操が呂布に殺された後、劉備は荊州に逃れたと聞くが、その後の行方はわからない。もし、貴様が劉備を助けたのなら、貴様は呂布以上に憎むべき存在だ」

「そんな事はどうでもいい。私は呂布将軍の命に従い、貴様を倒すだけだ」

「それは俺も同じだ」

武将は再び徐晃に向かってくる。

武将の動きはそれほど速くなかったが、それでも武将の一撃をまともに喰らえば徐晃と言えども無事では済まないかもしれない。

武将の攻撃をかわしながら、徐晃は隙を伺う。

「貴様に一つ聞きたい」

武将は動きを止めて、徐晃に声をかける。

「何だ?」

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