六話
「じゃあ、どうするつもりだ?」「今、曹操軍に降伏の使者を送っているところだ。曹操軍がそれを受け入れれば、我々は平和的に解決出来る」
「兄者がそう言うなら、俺は構わないけどよ」
張飛は不満そうに言う。
「とにかく、今は徐州城に戻ろう。呂布殿、申し訳ないが、貴方にもご同行願いたい」
「私は構いませんよ」
呂布はそう答える。
「文遠、公祐。お前達はここで待っていてくれ。すぐに戻る」
「はい」
李典と于禁はそう答えたが、李典はどこか不安そうな表情をしていた。
「どうした?」
「いや、ちょっと気になる事が」
「気になる事?」
「うん。何か、胸騒ぎがして」
「文遠の予感はよく当たるからな。気をつける事にしよう」
呂布はそう言ったが、特に気にしていなかった。
呂布は劉備達と徐州城に戻り、そのまま劉備達の客将として滞在する事になり、徐州城の一角にある部屋を与えられた。
呂布はそこで、李典の事を気にかけながらも、ゆっくりと過ごす事が出来ていた。
「呂布将軍、よろしいでしょうか?」
呂布が一息ついているところに、徐晃が訪ねてきた。
「ああ、大丈夫ですよ」
呂布は立ち上がると、徐晃を招き入れる。
「失礼します」
「どうかしましたか?」
「はっ。曹操軍の様子がおかしいのです」
「おかしいとは?」
「曹操軍の一部が、城から出て行ったようなのです」
「出て行った? どこに?」
「それが、分からなくて。ただ、呂布将軍を探している様な感じだったのですが」
「俺を?」
呂布は首を傾げる。
「曹操軍は徐州城を制圧した。曹操は呂布将軍が逃げないように捕らえているはず。なのに、曹操軍の一部が出ていった。それはつまり、呂布将軍の居場所が分かっていないと言う事じゃないだろうか」
「確かに、そうかもしれませんね」
「呂布将軍、すぐにここを出ましょう」
「いや、それは危険でしょう」
呂布は徐晃の提案を却下する。
「曹操軍とて馬鹿ではありません。呂布将軍が城内にいる事は分かっている。その呂布将軍を捕まえる事も出来ないのであれば、ここは大人しくしていた方が良いと思います」
「しかし、呂布将軍。相手は曹操です。どんな手を使ってくるか分かりません。それに、もし相手がこちらを本気で攻めてくるのであれば、こちらとしても戦わないわけにはいきません」
「それはそうですが……」
呂布は少し考える。
曹操が何を考えているのか分からない以上、下手に動くのは危険な気がするが、だからと言ってこのままここに居ても何も変わらない。
「とりあえず、曹操軍がいなくなった場所に行ってみますか?」
「そうですね。そこに行けば、何か分かるかもしれません」
呂布と徐晃は、曹操軍の動向を探る為、その場所に向かう事になった。
曹操軍がいなくなったと言うのは、北門の方角だった。
「北門から外に出たのだとしたら、曹操の本隊と合流するのでは?」
「その可能性はあります。急いだ方が良さそうですね」
呂布と徐晃は、急ぎ足で北門へ向かう。
北門の前には曹操軍の兵士が集まっており、厳重な警戒網が敷かれている。
その兵士達の視線が、一斉に呂布に向けられる。
「止まれ!」
兵士達の先頭にいた武将が、呂布に向かって槍を向ける。
「何者だ! ここで見かけない顔だな。どこから来た?」
「俺は呂布奉先と言います。この徐州城でお世話になっている劉備玄徳様の客将です」
呂布はそう言って、曹操の刺客に襲われた時の状況を説明する。
「劉備の客将? 貴様が?」
「ええ。劉備殿に助けていただいて、劉備殿の客将となりました」
「怪しい奴め! 劉備殿の客将なら、何故劉備殿と一緒にいないのだ?」
「劉備殿は徐州城で賊に襲われて怪我を負い、しばらく静養する事になっています。ですから、俺が代わりに徐州城を守っていたんです」
「賊に? 劉備殿が? そんな馬鹿な話があるか! 劉備殿は天下にその名を轟かす大人物だぞ! そんな劉備殿を襲う賊などいるものか!」
「いや、それが本当なんですよ。俺も襲われたし、実際に見た人もいるんだから間違いありませんよ」
呂布はそう言うが、相手の武将は納得していないようだった。
「とにかく、お前は怪しい。今すぐ立ち去らなければ、斬って捨てるぞ」
「いや、待ってください。本当に俺は何も知らないんです。曹操殿に会わせてもらえれば、俺が嘘を言っていない事が証明出来ると思うのですが」
「お前の様な怪しい男を曹操様に会わせる訳にはいかない」
「いや、だから俺は」
「黙れ。お前はここで死ね」
武将はそう言うと、呂布に向かって切りかかってきた。
呂布はとっさに戟を抜いて防ぐ。
「何をする!?」
「問答無用。曹操軍に逆らう者は、全て敵なのだ!」
武将はそう言うと、さらに斬りかかる。
呂布は相手の攻撃を捌きながら、隙を見て戟を振る。
武将は咄嵯に身をかわす。
「くっ、やるな」
「だから、俺は曹操の客将だって言っているだろうが」
「うるさい。黙れ」
呂布はそう言いながらも、相手の武将の実力が並ではない事に気付く。
呂布が曹操の客将である事を信じていない事は明白だが、それでも呂布に対して一太刀を浴びせる事に成功している。
これはかなりの実力者と言う事だろう。
「お前はここで死ぬ。曹操軍の邪魔をした報いを受けろ」
武将はそう言うと、再び呂布に襲いかかってくる。




