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五話

その実力は呂布も認めており、いずれは自分と戦えるほどの相手になるとさえ思っている。張飛は呂布と李典の二人を見て、首を傾げる。

「おめえら、こんなとこで何してんだ?」

「え? 張飛さんこそ、どうしてここに?」

「俺か? 俺は兄者に会いに来たんだよ」

「劉備殿に?」

「おう。兄者は今、徐州城の客将として招かれているからな。客将として出向く時には、俺も一緒に付いていくんだよ」

張飛は胸を張って言う。

「張飛さんは劉備殿の義弟ですし、確かにそれが自然かもしれませんね」

「まあ、そう言う事だ。ところで、お前らは何をしてるんだ? この辺りは物騒だぞ。特にお前は、一応は呂布軍の将軍なんだから、気をつけないと」

張飛は呂布に忠告してくれる。

「張飛さんは、これから徐州城に行かれるんですよね? 私達も呂布将軍の案内で、徐州城へ向かおうと思っているんですが、途中までご一緒させてもらってもいいですか?」

「ああ、いいぜ。俺も丁度暇してたところだし」

張飛は気前良く言うが、呂布は内心で張飛に謝る。

張飛は関羽同様、非常に腕が立つ武将であり、しかも武勇に優れただけでなく、知略にも優れている。

その為、劉備軍の武将の中では、曹操と袁紹を除けば筆頭と言っても良い。

そんな人物を、呂布は張飛に付き合わせて時間を潰させてしまうのだ。

「あの、張飛さん。俺達の事は気にしないで、劉備殿に会ってきて下さい。俺達は勝手に付いていくだけですから」

呂布はそう言って、先を急ごうとする。

「ん? ちょっと待てよ」

しかし、張飛は呂布を呼び止める。

「お前、何か雰囲気が変わったか?」

「え? そうですか? 自分ではよく分かりませんけど」

「うーん……」

張飛は目を細めて呂布を見る。

「お前、何かあったのか?」

「何かって言われても、別に何もありませんけど」

「そうか? 何かこう、前より男らしくなったと言うか……いや、前からお前は男らしい奴だったけどよ、そうじゃなくて、何つーか、もっと自信を持ったと言うか、そんな感じだ」

「そうでしょうか?」

「まあ、いいや。それより、早く行こうぜ。兄者が待ってるからよ」

張飛はそう言うと、先に歩いて行ってしまう。

「……どう思う?」

「何が?」

李典の問いに、于禁は素っ気なく答える。

「だから、りっくんの事だよ」

「だから、何が?」

「だからさぁ」

「文遠」

李典と于禁が揉めそうになったのを、呂布が止めに入る。

「文遠は心配性だなぁ。大丈夫だよ」

「でも、りっくん」

「文遠は、私が信じられない?」

「そんな事無いけどさ」

「じゃあ、信じてくれないか?」

呂布に言われると、李典もそれ以上は何も言えなくなってしまう。

「じゃあ、行くか。文遠も、もう何も言わないでくれ」

「分かりました」

李典はまだ納得出来ないようだったが、渋々引き下がる。

「なあ、公祐。さっきの話だけどさ」

「何だよ」

「お前、本当に良いのか?」

「何が?」

「だから、呂布将軍の護衛」

「だから、呂布将軍に頼まれたから、仕方が無いだろ」

「そうか。それなら良いんだけど」

「お前、しつこいぞ」

「悪い悪い。でも、お前が護衛についててくれるなら安心だよ。俺達も気をつけてはいるけど、俺達よりお前の方が強いからな」

「まあ、そりゃそうだが」

「だから、頼むな」

「はいはい」

二人はそんな会話をしながら、呂布の後を付いていく。

呂布達は丘を登るが、その途中、呂布達は妙な雰囲気を感じ取る。

「文遠、これは」

「うん。誰かが戦っている」

「多分、劉備殿だと思うが」

張飛はそう言いながら、丘の麓の方を見下ろしている。

「劉備殿!」

張飛が叫ぶと、劉備と関羽がこちらに向かってくる。

「おお、翼徳か。久しぶりだな」

「兄者、この騒ぎは何だ?」

「ああ、これはな」

劉備は言いかけて、呂布達に気づく。

「おや? 呂布殿ではないか。それに李典に于禁も。どうしてここに?」

「それはこっちの台詞ですよ。劉備殿こそ、どうしてこんなところで争ってるんですか?」

「いや、実は曹操の刺客に襲われてな。撃退したんだが、その時に徐州城の警備兵達が巻き込まれてしまってな。それで、呂布殿には申し訳ないが、城へ避難していただいていたんだ」

「なるほど。そう言う事ですか」

「ところで、そちらは?」

「ああ、こちらは張飛です。俺の義兄弟で、俺が徐州の太守になった時から一緒に付いてきてくれています」

「張飛だ。よろしくな」

張飛はそう言うと、手に持っていた大剣を肩にかける。

「張飛は、この辺りで暴れまわっていた山賊を退治してくれた事もあるんですよ」

呂布はそう言って張飛を紹介する。

「そうか。張飛は腕が立つと聞いている。私からも礼を言わせてもらうよ」

劉備はそう言って頭を下げる。

「そんな事はいいって。それより、曹操の奴はどこにいる? 俺が叩き斬ってやるよ」

張飛はそう言って、劉備に尋ねる。

「曹操殿は、徐州城を占拠したようだ」

「なんだと! 兄者を殺そうってのか!?」

劉備の言葉に、張飛は激昂する。

「落ち着け、翼徳。曹操殿が我々を殺すつもりなら、すでにそうしているはずだ。おそらく曹操殿は、我々の動きを止める為に、徐州城を占拠する事を選んだのだ。そうすれば我々は動くに動けなくなるからな」

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