三話
「何事も経験だって言うぜ。曹操軍に勝ったっていう武将に会えるかもしれないし、もし曹操軍が負けた原因を知る事が出来るかもしれない。そうなれば、俺達ももっと強くなれるはずだ」李典がそう言うと、呂布は感心したように大きく何度も首を振る。
「さすがは文遠。頼りになるね」
呂布が素直に賞賛すると、于禁は呆れたような表情を浮かべる。
「呂布将軍、こいつは褒めても何も出ませんよ。それに、まだ決まったわけではないのですから、気を抜かないで下さい」
「分かってるって、公祐。心配性だなぁ、公輔は」
「誰のせいだと思っている!」
李典に突っ込む于禁を見て、呂布達は笑う。
「ところで、その曹操軍を破った人物はどんな方なのでしょう」
于禁に言われ、呂布は首を傾げる。
「う〜ん、俺は直接会った事がないので、よく知らないんですよね。でも、曹操軍の武将の中で一番強い武将だと言う噂ですよ」
「では、その人物のところに行けば、私達もより強くなれると言うわけですね」
「でも、本当にそんなに強い人なんでしょうか?曹操軍の武将で一番強かったって、他にもたくさんいたんじゃないですか? 例えば夏侯惇将軍とか、曹仁将軍とか」
典韋が疑問を口にするが、呂布は首を傾げる。
「曹操軍の武将はみんな強かったからなぁ。その中でも一番だったら、俺も一度くらい戦ってみたいかも」
「おいおい、やめてくれよ。呂布将軍が戦う相手は、並大抵のヤツじゃ歯が立たないんだから」
「そうそう。呂布将軍が戦ったら、俺達なんか一撃でやられちゃいますよ」
李典と于禁は慌てて呂布を止める。
「冗談だよ、冗談。それに、さっきも言ったけど、俺はまだ実戦で使った事のない武器があるんだよ。せっかくだから、試してみたいなと思って」
「……呂布将軍の冗談は分かりにくいからな」
李典はため息混じりに呟く。
「まあ、とりあえず行ってみる事にしよう。ダメで元々だし」
呂布が提案すると、三人共賛成してくれた。
袁紹軍の領内に入った呂布一行は、そのまま南下して袁術軍の領へ向かう。
そこで呂布達は、曹操軍に敗れたと言う人物と出会う事になる。
「私は、袁紹軍の中でも武勲を誇る袁術軍の将、袁術様の腹心である張勲と申します。こちらへは何用で参られたのでしょう?」
「曹操軍を倒したと言う人物に会いに来たんだ」
呂布が率直に言うと、目の前にいた若い男は驚いた顔をする。
「それはそれは。しかし、我が主は曹操軍を破れるほどの武勲を持っておりません。何かの間違いではないでしょうか」
「それは本当なのか?」
李典が尋ねると、張勲と名乗った青年は困ったような顔になる。
「お疑いになるのはごもっともですが、それが事実です。我が主は袁紹軍の中では名将として名高い方ですが、曹操軍を破るほどの実力は持ち合わせておりません。それに、そもそも我が主は袁紹軍の武将ではありませんので」
「そうなんですか?」
典韋が尋ねると、張勲は小さく頭を下げる。
「はい。我が主の名は韓浩と言いまして、元々は公孫サン軍の武将でした。それが公孫サンが曹操に降ってしまった事で、曹操軍に引き抜かれたのです」
「それで袁紹軍の武将になった、と?」
「はい。我が主は元々曹操軍には興味がなかったらしく、袁紹軍で出世する事を望んでいたのです。その為に袁紹軍の中で武勲を立てようとしていましたが、袁紹軍でも名高かった曹操に勝てるはずもなく、今に至るのです」
「なぁ、りっくん。この人が言っている事は本当だと思うか?」
「どうだろう。曹操軍と戦ったのは確かなんだろうけど、曹操軍を破ってはいない、と言うのが本当のところかもしれない。袁紹軍で武勲を立てて、袁紹軍で成り上がろうとしたんじゃないかな」
呂布は小声で李典に答える。
「あの、それなら、その人はどこにいるんですか?」
「我が主は袁紹軍から追い出され、今は袁術軍に身を置いております」
「え、それって……」
「我が主の実力ならば、袁紹軍でも十分にやっていけると思います。しかし、袁紹軍では曹操軍に勝てなかった。そして曹操軍は袁紹軍を見限り、今度は袁術軍を相手にしている、という事です」
「その人は袁術軍の武将なんですか? それとも客将ですか?」
「正式な客将ではなく、あくまで袁術軍に身を寄せているだけです。客将であれば袁紹軍が引き止める事も出来たかもしれませんが、正式な武将でもない者を引き止められる理由もありません」
張勲の説明を聞き、呂布は腕を組んで考え込む。
「どうするんだ? このまま帰るのか?」
「う〜ん、どうしようかなぁ」
李典の言葉に、呂布は眉根を寄せて悩む。
「曹操軍を破ったって言う武将に興味はあるんだけど、曹操軍って言うのは結構な大軍なんだよね。それを一蹴してしまうような武将がいるのかどうか」
「そりゃ、曹操軍だって大軍団だけど、だからと言って必ずしも強いってわけじゃないだろ」
「でも、曹操軍って言うのは、袁紹軍や袁術軍より格上の勢力なんだよ。その曹操軍の武将を一蹴出来るような武将って、そうそういないと思うんだけど」
「そう言われてもなぁ」




