十八話
呂布は曹操に捕らえられ、曹操の庇護下に入るのを潔しとしなかった。そこで呂布は流浪の身となり、やがて荊州へと流れ着いた。
荊州では呂布を迎え入れてくれる勢力が無かった為、呂布は荊州で独立する。
その時に呂布の元にやって来たのが、曹操の元を離れた陳宮だった。
そして、曹操は呂布を討つ為に兵を挙げたが、呂布は陳宮の助力を得て曹操を破り、流浪の身のまま呂布は漢王朝に仕える事になった。
呂布と劉備の関係は、そんなものである。
「劉備、俺に話があるそうだな」
「ええ、そうなんです」
劉備は呂布を伴って、城内の一室へと向かう。
「呂布将軍、この度はご迷惑をおかけしました」
部屋に入ると、劉備は呂布に頭を下げる。
「いやいや、気にする事は無いさ。劉備は曹操から徐州を守る為に戦ったんだろう? それなら、むしろ賞賛されるべきだと思うぞ」
呂布は率直な意見を述べる。
「ありがとうございます。ところで、呂布将軍にお願いがあるのですが」
「ん? 何だ?」
「私達と一緒に、曹操と戦っては頂けないでしょうか?」
「……え?」
予想外の言葉に、呂布は思わず聞き返す。
「私達は今、曹操と争っています。曹操は大軍を持って攻めてきていますが、呂布将軍の力を貸してもらえれば、曹操を撃退出来ると思うのです」
「いや、ちょっと待ってくれ。俺は曹操と戦わないと言ったはずだが?」
「はい、そうですね。ですから、私達と共闘して欲しいのです」
劉備は笑顔で答える。
「曹操の狙いは私の首です。私が死ねば、この徐州も無事で済むでしょう。ですから、どうか私達に力を貸してください」
劉備は深々と頭を下げて、呂布に頼み込む。
「劉備、俺が劉備を助ける理由が無いだろう?」
「いえ、あるはずです」
劉備は呂布を見つめる。
「呂布将軍は、曹操から追われている身。ここで呂布将軍が敗れれば、曹操は勢いを増して漢王朝に牙を向ける事になります。その時に、曹操と戦う事が出来る兵力を持っているのは呂布将軍だけです。呂布将軍が負ければ、漢王朝の危機なんですよ?」
「それはわかるが……」
「それに、私は呂布将軍に助けられました。呂布将軍がいなければ、私はここにいなかった。恩義に報いるには、これくらいしか出来ないんです」
劉備は真剣な眼差しで言う。
「劉備、お前は曹操に徐州を奪われている。それでどうして曹操の為に戦えると言うんだ?」
「それは……その通りなのですが」
劉備は口籠もりながら言う。
「曹操と戦えば、多くの者が死にます。徐州の民はもちろん、呂布将軍もです。ですが、このまま曹操に好き勝手させるわけにもいきません」
「……俺が断ればどうする?」
「その時には、私一人でも曹操と戦います」
劉備は強い決意を込めて言う。
「劉備、一つ聞かせてくれ」
「はい、何でしょうか?」
「劉備は曹操に降伏するつもりか?」
「いいえ、降伏などしません。ただ、曹操とは話し合うつもりです」
「話し合い? 話し合いでどうにかなる相手じゃないぞ」
「それでも、話し合いましょう。それが天下の善き道であると信じて」
劉備の言葉を聞いて、呂布は小さくため息をつく。
「わかった。劉備の力になろう」
「本当ですか!?」
「ああ。ただし、条件がある」
「条件、ですか? 私に出来る事であれば、何でも致しますが」
「まず、曹操と戦う前に徐州城を取り戻す。徐州城を取り戻したら、劉備はすぐに徐州の民を連れて避難する事。俺達が曹操軍を破って徐州城を取り戻したとしても、劉備がいないのでは意味が無いからな。そして、劉備は徐州の太守として俺達を導いて欲しい」
「奉先、私は太守に相応しくありませんよ」
「そんな事は関係ない。劉備は俺達の太守になってくれ」
呂布は劉備に向かって頭を下げる。
「奉先、そこまでしてくださらなくても」
「これは俺のけじめだ。俺を救ってくれた劉備に、太守になってもらわなければ俺が困る。だから、劉備は太守として、この徐州を守って欲しい」
「わかりました。その条件でしたら、喜んで」
劉備は笑顔で答えた。
こうして、呂布は劉備と再び友に戦う事になった。
劉備の誘いで呂布は曹操軍の陣へと案内された。
曹操軍は数万の大軍であり、徐州城を包囲する形で布陣している。
「曹操は本気で私を討ち取るつもりらしいですね」
「それだけ劉備を恐れているのだろう」
呂布と劉備は、曹操軍に気付かれない様に曹操の本陣へと近づいていく。
「曹操殿はおられるか?」
呂布は曹操の本陣に到着すると、大きな声で呼びかける。
「呂布だと? そんな馬鹿な」
「あの男は死んだはずだ」
「何故こんな所に?」
曹操軍の兵士達は呂布の姿を見るなり、ざわめき始める。
「曹操殿に用がある。取り次いでもらえないか?」
「貴様、何を言っているのか分かっているのか?」
「当然だ。俺は呂布。漢の武将だ」
呂布は堂々と言い放つ。
「お前が呂布だと言う証拠はあるのか?」
「曹操殿に確認すれば良い」
「曹操様はお前の様な奴を相手にしない」
「そうか? ならば、こちらから出向くとしよう」
呂布は曹操の元へと歩き出す。
「おい、待て! それ以上近寄ると斬るぞ!」
「やってみろ。出来るものならな」
呂布が歩みを止める様子は無い。
「この野郎! 曹操様に仇なす逆賊が!」
曹操の陣を守る武将の一人が戟を振りかざし、呂布に襲いかかる。
「危ない!」




