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十六話

「そういうものですか」


「はい。それと、これは私の予想なのですが、曹操軍は呂布将軍が徐州城を出て来た時を狙って攻めてくると思います。その時、私達はここに居るべきではありません。呂布将軍と一緒に徐州城へ逃げ込みます」

「なるほど。わかりました。では、張飛は残します。張飛は強いですからね」

「ありがとうございます」

劉備は礼を言うと、呂布の息子と娘を連れて徐州城へ向かう。

「兄貴、どう思う?」

「さっきの話の事か? 俺は陳宮を信じているからな。陳宮が大丈夫だと言うのだから、大丈夫だろう」

「でも、曹操軍もバカじゃないんだろ?そんなにうまく行くのか?」

「陳宮は優秀な軍師だ。陳宮が大丈夫だと言うのだから、心配する事は無い」

「ふーん」

張飛は関羽の言葉を聞いても、あまり納得出来ていないようだった。

徐州城には劉備と張飛と呂布の娘、さらに徐州城の守備兵も残っていた。

「張飛、お前もこっちに来ていていいのか?」

「兄貴が戦うってのに、俺だけ安全な所に隠れてるなんて出来るかよ。俺だって戦えるんだ!」

張飛は胸を張って言う。

「そうか。じゃあ、よろしく頼むぞ」

「任せてくれ! 曹操軍の奴らを全員叩き潰してやるぜ!」

張飛はやる気満々だったが、呂布は少し不安があった。

「劉備殿、本当に大丈夫なのですか?」

「はい。私達が徐州城に来た事は、曹操軍も知っているはずです。それなのに、私達を攻めて来ないと言うのは、おそらく曹操軍は呂布将軍を待っています」

「俺を?」

「はい。曹操軍は呂布将軍を討ち取る為に、多くの犠牲を払っています。呂布将軍を討ち取る為だけに、十万の兵を動員していると聞きます。おそらく、曹操軍は呂布将軍を討ち取る為には多少の犠牲は仕方無いと思っているはずです。もし、呂布将軍を討ち取る為に犠牲を出したくないのであれば、徐州城を無視して呂布将軍だけを狙えば良いだけです」

「なるほど。確かにそうですね」

「それに、呂布将軍を討ち取れば曹操軍は勝利出来る。そう思っているのであればこそ、曹操軍は呂布将軍を待っているのではないでしょうか」

「そうなると、こちらも出て行くべきでは?」

「いえ、ここは動かない方が良いと思います。曹操軍が動くまで待った方が得策です」

劉備はそう言うが、呂布は迷っていた。

曹操軍は確かに強敵だが、呂布が本気を出せば曹操軍など物の数ではない。

だが、そうすると劉備や張飛、そして呂布の家族や徐州城に残る者達に被害が出る可能性がある。

それだけは避けたかった。

「よし、決めた。俺も出よう」

呂布はそう言う。

「え? しかし……」

「大丈夫です。曹操軍が動いたらすぐに徐州城へ戻ります。それに、曹操軍が動かなかったら、劉備殿達と徐州城へ戻ればいい」

「そうですか。では、お願いします」

「お兄ちゃん、行ってらっしゃい」

「ああ、行って来る」

呂布はそう言うと、単身で曹操軍の前に出る。

「俺は呂布奉先。天下無双の豪傑なり。曹操軍よ、俺と一騎打ちをしたい者は前に出よ」

呂布は名乗りを上げる。

曹操軍の中から一人の武将が前に出る。

「我が名は曹性。貴様の首を取る者だ」

「ほう、お前が噂の猛将か」

「その通り。貴様に恨みは無いが、首を貰う」

「良いだろう。かかってこい」

呂布は戟を構える。

「いざ、尋常に勝負!」

曹性は剣を抜き、呂布に向かっていく。

「ふんっ!」

呂布は戟を振る。

「ぐあっ!?」

曹操軍から悲鳴が上がる。

曹操軍の中で、一番の精鋭である夏侯惇ですら呂布の攻撃を避けきれずに腕に傷を負っていた。

しかも、たった一撃で。

「どうした? そんなものか?」

呂布は挑発する。

「くそぉ! やれ、みんなで一斉にかかるのだ!」

曹操は指示を出すが、誰も動けない。

呂布の強さは圧倒的で、誰もが近付く事も出来ない。

呂布は戟をくるりと回して肩に乗せる。

「来ないのか? ならばこちらから行くぞ」

呂布はそう言うと、曹操軍の中へ突進していく。

「どけぇ!」

呂布は叫びながら戟を振り回す。

曹操軍の兵士は一人残らず吹き飛ばされ、血を流して倒れていく。

「この程度で終わりか? まだ戦いたい奴は居るか?」

呂布はそう言いながら、曹操軍に歩み寄る。

「ひ、怯むな! 呂布は一人で戦うと言っているのだぞ!我らは恐れる事は無い!」

曹操が声を上げ、兵士達はなんとか呂布に斬りかかろうとする。

「そうか、残念だな」

呂布は戟を大きく振りかぶると、曹操軍に向けて投げつける。

戟は曹操軍の先頭集団を吹き飛ばし、さらに後方の部隊にも襲い掛かる。

「さぁ、次は誰が相手だ?」

呂布は曹操軍を見渡しながら言う。

曹操軍は恐怖に支配されているのか、誰一人として呂布に向かおうとする者は居なかった。

「どうした? もう終わりか?」

呂布は曹操軍に向かって言う。

「貴様! それでも漢の忠臣か!」

曹操が叫ぶ。

「そうだ。俺は漢の忠臣であり、天子様の盾となる事を誓った身。お前達の蛮行を止める為に戦う事こそが、俺の使命なのだ!」

「戯言を! お前が居なければ、漢は乱れず天子は安泰だった!」

「それは違う。お前達が天子を傀儡にして操り、民を苦しめて乱世を作り出したのはお前達自身の責任ではないか。天子が乱れた原因を作ったのは、お前達自身。それなのにお前達は、自分の都合で天子に変わって天下を治めようとし、挙句の果てには国を乱すような真似をしている。それを止めようとしているのが、どうしてわからない?」

「黙れ! これ以上の狼籍は許さん! 我は曹操孟徳なり! 貴様を討ち取り、天下の秩序を取り戻す!」

曹操はそう言うと、馬に乗って駆け出す。

「曹操、貴様だけは生かしておく訳にはいかない」

呂布も曹操を追って走り出し、二人は互いの武器をぶつけ合う。

「ふんっ!」

曹操が剣を振ると、呂布はそれを受け止める。

「その程度か? お前の力はその程度なのか?」

「貴様こそ、その程度か?」

曹操は戟を弾き返すと、そのまま呂布に向かって突きを放つ。

呂布は身体を捻って避けるが、曹操の剣先は呂布の頬を掠める。

「ははは、どうした? 自慢の豪傑ぶりはどこに行った?」

「その減らず口、二度と叩けないようにしてやる」

呂布は曹操に向かって戟を突き入れる。

曹操は身を反らして避けようとするが、呂布の戟は曹操の肩を貫いた。

「ぐあっ!」

曹操は痛みに耐えながらも、呂布の腹に蹴りを入れる。

呂布は曹操から離れて距離を取る。

「はぁ……はぁ……」

「どうした、息が上がっているぞ」

呂布は挑発する。

「黙れ! まだまだこれからだ!」

曹操は呂布に向かって突撃する。

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