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9.建国祭

 そして、数日が経ち。

 皆が心待ちにしていた建国祭の開催日が、いよいよやってきた。

 国民達は、この国の末永い繁栄を願って各々祭典に参加するのだ。


 もし、二人と──レオとハンスと出会わないままこの日を迎えていたら、私はきっと復讐心にとらわれたままだっただろうし、お祭りを楽しむ余裕なんてなかったと思う。

 そういった意味でも、二人には感謝をしなければ。


 よし。今日は、羽目を外して思い切り楽しもう。

 そう考えながら、鏡台の前に座って櫛で髪を梳かす。

 レオが言った通り、自分の顔が日々別人のように変化していっているように感じるのもきっと気の所為だろう。

 大丈夫。何も心配はいらない。前世のような不幸なんて、そう滅多に起こらないはずだから。


 ──でも……午前中は、ギュスターヴと出店を見て回らないといけないのよね。


 げんなりしつつも、小さく嘆息する。

 ギュスターヴと私の親子関係は、変わらず良好だ。

 頑張った甲斐があって、前世の記憶が蘇る前よりもずっと深い信頼信頼を得ることができた。

 でも、まだ足りない。だから、長い年月をかけて更に信頼を得よう。

 ……そう、自分がやられた時と同じように、事故死に見せかけてギュスターヴを殺害するために。

 もちろん、彼が死ぬ前にはネタばらし──私の正体が実は転生したマージョリーであること──もするつもりである。


「いつか、あの二人にも事情を話さないといけない日が来るのかしら……」


 レオは、私が自分の父親を良く思っていないことを知っている。

 詳しくは言っていないけれど、あの日──時計塔で、父親のことを憎んでいると明かした日。

 レオは、「言いたくなったら言えばいい」と私の意思を尊重し追求しないでいてくれた。

 できることなら、レオにもハンスにも復讐のことは……ましてや、自分が前世の記憶を持っていることなんて言いたくない。

 二人のことを大切に思っているからこそ、余計に言えないのだ。


「まあ、成るように成るわよね……」


 今から、うじうじ悩んでいても仕方がない。

 そう考えながら、鏡に向かってにこっと微笑んでみる。


「うん、大丈夫。今日も可愛いわよ、アメリア」


 そんな風に自分に活を入れていると、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」

「アメリア、準備はできたかい?」


 僅かに開いた扉の隙間から顔を覗かせたのは、ギュスターヴだった。


「はい。あの……今日は、先日お父様からプレゼントしていただいたお洋服を着てみました。どうですか? 似合いますか……?」


 恭しくあざといくらいの上目遣いで、それでいて自信なさげに尋ねてみた。

 すると、ギュスターヴは──


「似合っているに決まっているじゃないか! はっきり言って、世界中で一番可愛いよ! 流石は僕の自慢の娘だ!」


 と言って、仰々しく涙を流しながら駆け寄ってきた。

 我ながら、完璧な演技だと思う。

 愛娘からこんな風に尋ねられて、メロメロにならない父親はいないだろう。


「く、苦しいわ……お父様」

「ああ、ごめんよ。アメリアがあまりにも可愛かったから、つい……」


 ぎゅうぎゅう抱きしめてくるギュスターヴに苦しさを訴えると、彼は慌てて私から離れた。


「全く……お父様ったら。せっかくのお洋服が皺になってしまうわ」

「あはは……」

「では、そろそろ行きましょうか?」


 尋ねると、私は苦笑するギュスターヴの手を引っ張る。

 そして、足早に邸を出ると、私達は待機していた馬車に乗り込んだ。


 ***



 王都に到着し、広場に行くと、そこには数え切れないくらいの露店が並んでいた。皆、こぞって声を張り上げながら客引きをしている。

 色とりどりの風船、様々な種類の火酒、ジューシーなウインナーを挟んだホットドッグ、仮装をした人々。

 目に映るもの全てが普段とは違って新鮮だから、それらを眺めているだけでも自然と心が躍る。


「やあ、可愛らしいお嬢さん」

「わっ……!」


 広場に足を踏み入れるなり、ピエロの仮装をした男性が話しかけてきた。

 男性は大量の風船を手に持っており、その中から一つを選んで、


「風船、おひとついかがですか?」


 と、赤い色の風船を差し出してきた。

 突然、風船を差し出され驚いてしまったけれど……よく考えたら、私、見た目は十歳の子供なのよね。

 そう考えて、心の中で思わず微苦笑した。前世の記憶が蘇って以来、思考は大人のまま過ごしてきたからすっかり忘れていた。


「せっかくだから、一つもらったらどうだい?」


 隣にいるギュスターヴが、風船をもらうよう促す。


「えっと……それじゃあ、一ついただきます」


 そう返し、ピエロから風船を受け取る。


「君にとって、素敵な一日でありますように!」


 言って、ピエロは私に向かって手を振ると、別の子供のもとに歩いていった。

 彼の背中を見送った私とギュスターヴは、手を繋ぎながら露店を見て回る。

 一通り、店を見終わった頃。ふと、大階段の付近に行列ができていることに気づいた。


 ──何かしら? あの行列……。

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