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4.初めての友人

 数日後。

 すっかり熱が下がった私は、一週間ぶりに学園に登校した。

 今世の私が通っている学園は、皮肉にも前世と同じだ。

 前世の自分は、卒業間近で無念にもギュスターヴに殺された。

 そのせいか、なんだか複雑な心境だ。


 そして、午前の授業が無事に終わり。

 休憩時間になると同時に、私は中庭に出て考え事にふけった。


「はぁ……」


 小さく嘆息しつつもベンチに座り、天を仰ぐ。

 

 ──どうやって、ギュスターヴに報復しよう? できれば、心身ともにダメージが大きい方法が望ましいけれど……。


 そんな風に物騒なことを考えつつ、ひたすら読書をしているふりをした。

 しばらく、今後のことについて思いあぐねていると──


「おい」


 突然、誰かに話しかけられた。

 今、もしかして誰かに呼ばれた……?

 そう思いつつ、顔を上げる。


「へ……? わ、私……?」

「そうだよ。さっきから何度も呼んでるのに、無視しただろ」


 少し拗ねたような顔で、薄墨色の髪の少年が話しかけてくる。

 自分と同じ黒を基調とした初等部の制服を着ているから、恐らく彼も一年生なのだろう。

 こんな子、同じ学年にいたかしら……?

 いや、よく考えたら同級生のほとんどの名前と顔が一致していなかったわね。


「あなたは……?」

「レオナール・グレイだよ。お前、同級生の名前すら覚えていないのか?」

「……ごめんなさい」


 それに関しては、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 というのも、前世の記憶が蘇る以前の私は人見知りで、両親や使用人以外とはめったに喋らないほど消極的な子供だったからだ。


「ええと……あなたは、どこのクラスなの?」

「お前の隣のクラスだよ。……というか、それすら知らなかったのかよ」

「ご、ごめんなさい……」


 弁解の余地もなく、平謝りするしかなかった。


「まあ、いいよ。あと、俺のことはレオって呼んでいいから。俺も、お前のことアメリアって呼ぶし」

「はい、レオさんですね」

「さん付け禁止。敬語も禁止」

「じゃ、じゃあ……レオ君で」

「仕方ねーな、それで許してやる」


 そう返すと、レオはニッと笑った。

 しかし、不思議だ。この子は、どうして私なんかに話しかけてきたのだろう?


「私の名前、知ってるの?」

「もちろん。隣のクラスの奴の名前と顔くらい、普通は把握してるぞ」

「そ、そうかな……」

「お前が他人に興味なさすぎなんだよ」

「……」


 前世の記憶が蘇る前の私は、ひたすら孤高を貫いていた。

 成績はそこそこ優秀だったみたいだけれど、それ以外はいろいろ欠如していたようだ。

 まあ、理由は大体分かっている。

 きっと、無意識に「大切な人」を作らないように交流を避けていたからなのだろう。

 ……何故なら、私は前世で信頼していた婚約者に酷い裏切りを受けた上、理不尽な理由で殺害されたから。


「……どうして、私なんかに話しかけようと思ったの?」

「いつも一人で平気なのかなって思ったからだよ。つまらなくないのかなって」

「私が……?」


 なるほど、どうやらレオは自分を気にかけてくれているらしい。

 この歳で他人に気を遣えるなんて、よくできた子だ。


「そんなことはないわ。一人は慣れているから」

「ふーん、そっか。でもさ……じゃあ、なんでいつも皆が集まって楽しそうに話しているのを羨ましそうに眺めていたんだ?」

「それは……」


 本音を言えば……きっと、ずっと友達を作りたかったんだと思う。

 その気持ちは、前世の記憶が蘇った今でも変わっていない。


「よし、決めた。俺がアメリアの友達第一号になってやるよ!」

「えっ……?」


 意外な提案に、思わず面食らってしまう。


「なんだよ、不満なのか?」

「ううん。ただ、ちょっと意外だっただけ。私なんかと友達になりたい子がいるなんて思わなかったから」

「そうやって、後ろ向きな考え方ばっかりしてるから友達ができないんだぞ」

「……ごめんなさい」

「まあ、いいよ。とりあえずさ、友達になった記念に……特別に、お前には俺の秘密基地に招待してやるよ! ありがたく思えよ?」

「秘密基地……?」


 レオの口から「秘密基地」という、いかにも子供らしい言葉が飛び出す。

 一体、どこに案内するつもりなのだろうか?


「ああ。明後日、授業が終わったら街の中央にある『時計塔』の下に集合な」

「時計塔? なんでそんな場所に?」

「行けば分かるさ」


 言って、レオは「ふふん」と得意げな笑みを浮かべる。

 彼の話しぶりから察するに、よほど凄い秘密基地なのだろうか?

 

 ──こうして、孤独だった私に今世で初めての友人が出来たのだった。



 ***


 翌日。

 買い物を済ませた私とギュスターヴは、手を繋ぎながら街中を歩いていた。

 今世では親子関係とはいえ、怨敵と手を繋ぐのは虫酸が走る。

 でも、復讐のためには嫌なことも全部我慢しないと……。


「あのね、お父様。突然だけれど……実は明日、お友達の家にお泊まりに行くことになったの」


 ギュスターヴを見上げながら、話を切り出す。

 すると、彼は驚いたように目を見開いて、


「お泊まりだって!? アメリアは、まだ六歳だろう? そういうのは、ちょっとまだ早いんじゃないか……?」


 不安げな顔で、そう返した。


「そんなことはないわ。お泊まり会なんて、みんな普通にやっているわよ? お父様が過保護なのよ」

「うーん、いや、しかし……」

「ねえ、いいでしょう?」

「そうだなぁ……よし、わかった。認めよう。その代わり、お友達の親御さんに失礼のないようにするんだよ。わかったね?」


 愛娘に懇願され、たじたじになったギュスターヴは早々に折れる。

 基本的に親馬鹿だし、娘には物凄く甘い。私を殺した男と同一人物とは思えないわね。


「本当!? ありがとう、お父様! 大好き!」


 言いながら、子供らしく喜んでギュスターヴに抱きついてみせる。


「ハハハ……やっぱり、アメリアには敵わないよ」


 さも良い父親かのように、ギュスターヴは頭をかいて柔らかな笑顔を浮かべる。

 皆、この笑顔に騙されているのね。でも、私は彼の残忍な裏の顔を知っている。


 ──いつか、あなたにも私と同じ苦しみを味わわせてあげるわ。覚悟しておきなさい。


「でも、そうか……アメリアが友達の家に泊まるのか。普段は全然、友達の話題を出さないから学園でうまくやれているか心配だったんだよ」

「もう、お父様ったら心配性なんだから。お友達くらい、私にだっているわ」


 前世の記憶が蘇る前の私は、一応身内とはそれなりにコミュニケーションを取っていた。

 でも、やっぱり学校では孤独だったせいか友人の話題などは一切出していなかったのだ。


「ハハハ、そうかもしれないね」


 私達はそんなやり取りを終えると、帰路についたのだった。

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