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30.家族(エピローグ)

「ハンスさん、待っていて。今、助けるから」


 私は、ハンスの腹部に手をかざす。

 自分がガートルードだった頃は、死後すぐに癒やしの力を使えば間に合ったことがあった。

 だから、ハンスももしかしたら──


「お願い、帰ってきて……ハンスさん」


 そう強く念じると、私は治癒魔法を発動させる。

 すると──ハンスの患部は淡く優しい光に包まれ、出血も止まり、みるみるうちに傷が修復していった。


「う……うぅ……」


 しばらく経った後、ハンスの口元から僅かにうめき声が漏れた。

 それに気づいた私は、思わず彼に抱きつく。


「ハンスさんっ!」

「アメリア……?」


 まるで起き抜けのようなぼんやりとした顔で、ハンスは私を見据えた。


「俺は……助かったのか……?」

「ええ、そうよ! 私が治したの!」

「……! そうか、アメリア。お前、魔力が……」


 事情を察した様子で目を見開くと、ハンスは胸に飛び込んだ私を受け止めてくれた。


「大好きよ、お父さん」

「……!」


 私が「お父さん」と呼ぶと、ハンスは戸惑ったように目を瞬かせる。

 けれども。やがて、はにかんだように笑い「ああ、俺もだ」と返してくれた。


「本当に良かった……! 立てるか? ハンス」


 言って、レオがハンスに手を差し伸べる。

 力強く頷いてその手を取り立ち上がると、ハンスは天を仰いだ。


「もうすぐ、朝日が昇るな」


 東に昇り始めた太陽を眩しそうに眺めながら、ハンスが呟く。


「え!? もうそんな時間なの!?」

「まじかよ。結局、一晩中奴らと戦ってたんだな……俺達」

「よーし。日も昇って動きやすくなったことだし、このまま町に直行するか」


 いつも通り、私の側にはハンスとレオがいる。

 それは、きっとこの先もずっと変わらない。

 そう考えて幸せを噛み締めていたら、思わず口元が綻んだ。


「いよいよ、始まるのね。……私達の新しい生活が」


 ハンスの隣を歩きながら、そう語りかけた。


「ああ。夢にまで見た自由な生活が待ってるぞ」

「ねえ……私達、これからちゃんと本当の家族になれるかしら?」


 今までも、私達は暮らしている家こそ違うけれど家族同然の生活を送っていた。

 でも、これからは三人で一つ屋根の下で暮らすことになるのだ。

 今後、どうなるのか全く想像がつかない。傍から見たら、ちゃんと家族に見えるのだろうか……?


「もちろん、なれるさ。何も、特別なことなんかしなくていい。今まで通りでいいんだよ」


 私の質問に対してそう返すと、ハンスはニッと微笑んだ。


「そうよね……今まで通りでいいのよね」

「とはいえ、こいつは違った意味でアメリアと『家族』になりたいみたいだけどな。……なぁ? レオ」


 ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべると、ハンスは隣にいるレオの肩に自分の腕を回した。

 一体、どういう意味なのだろう……?


「な、何の話だよ……?」

「まあ、そう照れるなって。ガキの頃からずっとお守りをしてきたんだ。お前のことは、何でもお見通しなんだよ」

「はぁ!?」


 ──何の話をしているのかよく分からないけど……二人とも、通常運転みたいね。


 安堵した私は、前方に見えてきた街並みを指さして二人に伝えた。


「ねえ、街が見えてきたわよ! ほら、急ぎましょ!」


 私は立ち止まっている二人の手を取ると、軽やかに足を踏み出した。

 未だ見ぬ街やそこに暮らす人々、そして未来に思いを馳せながら──。

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