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馬車の中で


 帰りは流石に馬車の中に入りました。護衛の方が御者を務めてくれるようです。動き出した馬車の中、細かく震えるアロイス様にぎゅっと抱きしめられています。久しぶりのハグです! 棚ぼた!


「アロイス様。大丈夫ですか……?」


「ミーシェ……。僕のミーシェ。どこにも行かないで……」


 アロイス様、もしかして泣いてます……? ベールとっていいかな? 見たい! 見たい! 超見たい!


 欲望に従い、繋がれてない左手でガバッとベールを避ける。

 ふわわわ〜泣き顔のアロイス様か、かわいい〜!


 え、ここってあれでしょ? 慰めにキスしていい場面だとおもいませんか? 誘拐初日以来のふわふわな唇を味わってもいいところではありませんか!?


 欲望に従い、繋がれていない左手でアロイス様の頬に触れる。うわーしっとりー

 思わずにっこりしながら、アロイス様の唇に触れた。


 ふにってした! くっつけ過ぎた? いや、なにぶん慣れていないもので。でも、これもまた良し! 味しないけど、感触があまーい!


 びっくりして泣き止んだアロイス様。目尻の涙を拭って。あ、味わえばよかったって後悔しながら言う。


「どこにも行きません。大丈夫ですよ。アロイス様」


「……ミーシェ……」


 いやぁー。ぱっとみふつーの爽やか好青年なのに、私なんかに泣いて縋っちゃうなんて。いよっアロイス様病んでますね! でも、それだけ必要とされてるって感じられて、満更でもありません。


「……もっと……」


 おかわりですか? どんとこいです!

 ふに ふに ふわ〜 ぶに


 触れる強さによって感触がかわるんだ〜。なんだか頭も痺れてふわふわする〜。

 何度も何度も触れるたびに、頭の中にも幸せなふわふわが! 胸もぎゅっと苦しくなる。おかわり自由って素晴らしい。いつまでも続けられる。

 馬車の振動でなかなか上手くふわふわ触感が出せず苦戦していますけど、そう思うと初めてのキスってとっても優しく触れてくれてたんだなぁーってちょっと嬉しくなりました。


 がつん


 い、いったぁ〜っ


 その時、馬車が激しく揺れて、勢いよくおでこがぶつかってしまった。端的に言えば頭突きした。


「ご、ごめんなさい……アロイス様……馬車の中は私には難易度が高かったみたいです……」


「っ、ふふふ」


 あら、アロイス様が笑ってる。元気になったみたいですね。よかった〜

 アロイス様が笑うと私もにこにこしちゃう。

 二人で小さく微笑いながらまたぎゅってして、無事にお家に着きました。


 




「ミーシェ。聞いて欲しい」


 家に帰って、護衛の方を帰して、鎖を外した後。並んでソファーに座ったアロイス様は真剣なお顔で話しかけてきました。


「はい」

 もちろん。私も真剣にお話をききますよ。


「今日街で会ったカイルストーン伯の子息のことなんだけれど……」

 ああ。さっき会った人ですね。すっかりキスの余韻で記憶から消してました。


「あの人が言った通り、あなたは川へ転落して死んだことになってる。実はミーシェのドレスを借りて僕が代わりに馬車から川に落ちたんだ」


 ええーっ! どうゆうことですか?!


「け、怪我は!?」


「大丈夫。多少痣が増えただけですんだよ。受け身をとるのは得意なんだ」


 にこっじゃないよ! 死んだと思われるくらいなら、かなりの高さから落ちたのでは? アロイス様! スタントマンでも食べていけるよ!


 もしかして誘拐初日に見せてくれた一面の痣ってほとんどそれのせいなんじゃ……。


「あの夜、ミーシェを眠らせた後。僕の服に着替えさせて、衣装箱へ入ってもらって。僕は君のドレスを着て帽子と鬘をかぶって、迎えに来ていた公爵家の馬車に乗ったんだ」


「よくばれなかったですね」


「あなたのことならずっと見てきたから。宵闇でミーシェの振りをするのは難しくなかったよ」


 だから、にこっじゃないよ! それ難しいから! 普通無理ですから! そういえば、卒業パーティーの夜の体調不良も熱演でしたね! アロイス様! 役者にもなれるよ!


「ずっと夢見ていたんだ。ずっとずっと考えてた。失敗しない様に何度も何度も領地で練習もした。上手くいってよかった」


 もしかしてこちらにある化粧品類がこれまで使用してたのと同じなのも変装の為に調べたからですか? 用意周到ですね! 計画的犯罪だったんですね! そして、女装ちょっとみたかった。


「まさか街に他領の者が、それもあなたを知っている者がいるとは思わなかったんだ。街道は封鎖していたし、宿泊客のチェックも怠らなかったのに……恐らく隣領の領主の関係者だからと街道の封鎖を無理に通ったんだろう。それでも、僕まで報告が無かったから街道を任せていた者には後ほど詳しく事情を聞かなくてはならなくなったけどね」


「あの、遠くから少し見ただけで私だと本当にわかるものなのでしょうか。そんな特徴のある仕草をしているつもりはないのですが」


 ずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。


「ミーシェには独特の雰囲気があってね。優雅で気品が滲み出ていて、そういうものが伝わってしまったのかもしれない」


 まぁ。確かに生まれは公爵家で、小さな頃から所作は厳しく躾けられてきたけど。


「どちらにせよ。もうこのまま此処にいることは出来ないだろう。きっとあの男が騒いで、公爵家から調査が入る事になる。死体はあがっていないんだ。だから、状況は絶望的だとしても、きっとやってくるだろう」


「私はどうしたら」


「僕はミーシェと離されるなんて耐えられない。かと言って最早あなたを殺す事もできない。逃げても、より不審に思われて捕まるだろう。戦っても流石に公爵家とは戦力が違いすぎる」


 物騒!


「だから、迎えが来たらあなたを返して僕は眠る事にするよ。これまで付き合ってくれてありがとう。ミーシェと過ごした日々は僕の一生分の幸福だった」


 え。眠るってそれ永眠ってことですか?! 私のオアシス爽やか好青年アロイス様が死んでしまうってことですか!? 諦め早過ぎないですか? まだまだ一週間ちょっとしか一緒にいれてないですよ! 進展だって一緒に住んでるのにキス止まりですよ!!!


「むりです。私もアロイス様と一緒にいたいです!」


「ミーシェ。……ありがとう。大好きだよ」


「だめですだめです! 諦めないでください! 私もっと一緒にアロイス様といたいんです!」


「本当に大好きだよ。愛してる。ありがとう。ありがとう。ミーシェ……」




 その後はずっと好きだよ愛してるありがとうのコンボでアロイス様は私を殺しにかかり、とても話になりませんでした。



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