お買い物
「ミーシェ。服用意したよ。偽装も込みで侍女の服でごめんね」
「いいえ。ありがとうございます。嬉しいです!」
「……本当に行く?」
「はい!」
アロイス様とのお出かけ! ちゃんと女性もののワンピース(侍女服)で!
ずっと男装していたから、嬉しい。寝室に化粧品は用意してくれてるし、貴金属や宝石まであるのに、なぜに男装なのか。領主と従者的な役柄なのかなー。せめて領主と侍女じゃダメなのかなー。これを機にかえちゃえないのかなー
「アロイス様。準備整いました」
「ミーシェ。かわいい」
はい! 可愛いいただきましたー!
「アロイス様も素敵です」
村人よりも似合う村人の格好! 薄い! ああ。濃くないって素晴らしい! この国何処へ行っても濃い顔ばかりで安らぎがない。アロイス様の側だけが私のオアシスです。
「……ごめんね。ミーシャ。こんなこと嫌だよね……」
そう言いつつも手を(恋人繋ぎ!)繋いで、クロスした互いの手を鎖状の金属で本当に繋いでしまった。逃亡防止?
「領主の僕の顔はみんな知っているから、もし外で助けを求めてもこの領地に僕に逆らう人はいないし、誰も助けないし、むしろ捕まえさせるから逃げられないけど。僕が安心したいからつけていてね。それから、顔がわかるとちょっと問題だから、このベールを被ってね」
「あのアロイス様、お花を摘み(トイレ)に行きたい時はどうしたら……?」
「うん。帰ろうね。今日は馬車で行くけど街から1時間はかかるから早めに教えてね。もちろん出してしまっても僕がミーシェを嫌うことなんてないから安心してね」
安心できない!
これベール? って疑問の残る、髪も鎖で繋がれた手首さえ隠れる長い黒いレースがぐるっとついた何かを被せられ(かろうじて薄〜く周囲はみれる)出発となった。
外には馬車が用意されていたけれど、乗るのは御者席で、片手なのに器用に馬を操っていくアロイス様。片手運転慣れてらっしゃる。
「ここは領主本邸の裏地にある狩場なんだ。深い崖と川で囲まれていて、周りには私兵も置いているから一度本邸を通らないと外には出られないから、本邸に向かうね。あなたと会ってから領地は僕なりに頑張って開発したんだけど、まだまだ王都のようにはいかなくて、あなたの欲しい物が揃うといいのだけれど」
「あ、そうだ。ミーシェに守って欲しいことがあるんだ。絶対に僕以外と話をしないで欲しい。なにかあったら僕から伝えるから僕だけに聞こえるように話しかけてね」
え、どうやって知られずに必要物を買えと。鎖付けられた時点で無理ゲーと過ぎったけど、更に難易度が上がった。どう考えても達成不可能じゃない?
「あの。私が欲しいものをアロイス様に知られずに買うにはどうしたらいいでしょうか……?」
「僕はミーシェのことはなんでも知っていたいんだ。だから、教えて欲しいな」
「恥ずかし過ぎてどうしても無理なんですけど、どうしても言わなくてはいけないでしょうか……?」
「そうだね。どちらにせよ本邸に届けてもらうことになるから。届いたら中身の確認もするし、早いか遅いかの違いじゃないかな」
絶句。それってほんとどうしようもな……
「ミーシェ。一人で買い物なんてさせられないよ? やっぱりここから家に帰ろう? どうせ言わなきゃならないなら、僕が揃えても同じでしょう?」
「いえ! 目で見て決めるのも大事ですから! お出かけはしたいです!」
やばい。ここまできても取り止めようとしている。さっき本邸の裏門と表門をほぼ素通りしたからもう街は目と鼻の先なのに。
「……そう。わかった。それじゃ、絶対に僕から離れちゃ駄目だよ」
鎖ついてる以上物理的に離れられませんって。
街のメインストリートについた。思ったより広くて人通りがある。真ん中にはお約束の噴水があるみたい。格好が異常だからか珍しく護衛がいるからかすごく遠巻きにされているけど。本邸を出てから騎馬で何人か護衛がついている。話しかけもせず、一定距離(3mくらい)離れているんだけどね。ってか、護衛つけるなら村人の服じゃなくてもよかったのでは? お忍びの様式美ってやつ?
「とりあえずメインストリートにつけたけれど、この通りを見るので大丈夫かな」
「はい。お店屋さんぶらぶらしたいです」
「うん。それじゃ、気になる店があったら言ってね。寄って行こう」
アロイス様にお店の説明を受けながら一軒ずつ覗いて行く。一週間ぶりの外、空気が美味しい。隣にはイケメン爽やかアロイス様。しかも鎖のせいでほぼ密着している。ずっと交差させた状態で恋人繋ぎから離れない手(鎖有り物理)。おしゃべりは耳元でこそこそと。難点は黒レースで近くに行かないと物がはっきり見えないこと。すごい近眼になった気分です。
通りの左側のお店を順次見ていく。噴水を回って帰りは右側を見て帰る予定のよう。護衛の人がいるせいかアロイス様の指示なのか、どこのお店も貸切状態です。
私に今必要なものは服。特に下着。それから各種消耗品。余裕があれば料理本とか手慰みに手芸の道具が欲しいなんて考えている。これから寒くなるし、編み物なんていいんじゃないでしょうか。
「アロイス様。私が何か編んだら使ってくれます?」
「ミーシェが僕に? それは……」
言葉に詰まったアロイス様。素人仕事はお気に召しませんか?
「使用はできないと思う。ごめん。汚れたらと思うと大切すぎて使えない」
「それならいくつか同じものを作ったら使ってもらえます?」
「そうだね。それなら、なんとか」
じゃあ、まずはマフラーとか編んでみようかな。
「アロイス様は何色が好きですか?」
「君の色なら何色でも」
うーんと髪なら銀、瞳なら薄い青? 肌色もありか? 瞳よりは髪がいいかな。でも、銀は難しいと思うので灰色を探そうかな。
さて、次の店に移動しようとした時。
「あなたは——ファリーナ公爵令嬢では?」
と、声からして男性に突然話しかけられた。
よくわかりますね。このズルズルのレース状態で。護衛がいるので3m離れているのに。私の不審がる空気を感じ取ったのか、話しかけてきた人は続ける。
「歩き方、立ち居振る舞いが、彼女にしかみえない!」
え。そんなに癖ありますか!? 普通ですけど! 驚いたのとアロイス様との約束もあって何も言えず固まる。
「不躾になんでしょうか。彼女は我が家の者ですが」
アロイス様が間に入る。
「ああ。これは失礼。私は隣のカイルストーン領の三男でセルベールと申します。ウェイガー領の発展は目覚ましいと評判で、お忍びで視察させていただいておりました。……ファリーナ公爵令嬢とは学園が同じでして、よくお姿をお見掛けしていました」
同じ学院の人かぁ。申し訳ないことに私、濃い顔を覚えるのが苦手でして。だいたいオーラで見分けていたのでオーラが無い方、特に友人にもなれない異性は塩顔アロイス様以外全く憶えられなかったんですよね。
そもそもベールがあるから3mは離れたあなたの顔全然見えないけどな! それに貴方の顔がわからない私が言うのもなんだけど、アロイス様も同じ学園にいたからな! さも初対面のように挨拶したけど、隣の領地の三男で爵位を継げないであろう御子息なら隣の領主の名前と顔くらい覚えて、学園でちゃんと挨拶しとかないとヤバいと思うよ?
「卒業後、学園からの帰途で馬車の事故で川に落ちて、亡くなられたとお聞きしていました。それが、こんなところでまた会えるなんて!」
そんなことになっていたんですね。アロイス様その辺り何も教えてくれないから、自分の死因初聞だよ……。
「ですから、彼女は我が家の者だ。勝手な憶測はやめてほしい」
不機嫌な顔のアロイス様。そんな顔もいいですね。イケメンはどんな顔してもイイ。
「それならば、顔を見せて下さい。お顔を拝見すれば、はっきり致します」
今度は冷えっとするような顔のアロイス様になった。それも良し。
「どうしてそんなことをしなくてはならない。ウェイガー子爵である僕が違うと言っているんだ。顔を見せる必要すらない。貴殿は我が領地で領主の私に対し、その様な一方的な欲求が通るとでもお思いか」
「——ですが!」
「話にならない。馬車をこちらへ。不愉快だ。帰らせてもらう」
「子爵!」
そんなこんなで、せっかくのお出掛けがあっという間に強制終了したのでした。
なんにも買えんかった!




