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平和な日常


「アロイス様! 私にも料理を教えて下さい!」


「いいよ。ミーシェ。喜んで」


「アロイス様! 私も一緒に掃除がしたいです!」


「ありがとう。お願いするよ」


 なんでも出来る爽やか(私的)イケメンとの二人だけの生活プライスレス! 家族には悪いけれど、こんなに楽しくていいのかしら?


「今日も色々手伝ってくれたから疲れたんじゃないかな。もし嫌じゃなければ、ミーシェの手に触れても?」


「手ですか? はい。どうぞ」

 アロイス様は私と同じソファーに座り、私の差し出した手をとった。


「やっぱり。水仕事をさせてしまったから、あなたの綺麗な手を汚してしまった。クリームを塗ってもいいかい?」


 懐から小さな陶器の器をだして私の手に白いクリームを擦り込んでくれる。マッサージされているみたいに手が動いてとても気持ちがいい。


「痛くない? ミーシェ」

「ちっとも。とても気持ちがいいです」

 はぁ。幸せ。


「よかった。僕の取り柄といえばこれくらいで。恥ずかしいけれど、これが一番使用人達に受けが良かったんだ」

 照れ笑いで教えてくれたアロイス様。可愛い! でも、ちょっと待って!


「使用人へマッサージをされてたんですか?」


「あ、普通はしないよね。ごめんね。変なこと言って」


「私、アロイス様のどんなことでも知りたいです! アロイス様がお嫌でなければですけど」

 語尾を濁しながら、アロイス様が辛くないか顔色を伺いながら訊ねる。


「……僕の家は少し変わっていて。美醜をとても気にする家なんだ」


 顔が濃ければ濃いほど良いってことですね。分かりたくないけどわかっちゃいます。この世の中全体もそんな傾向ですから!


「両親、姉、兄も皆彫りが深く美しい顔をしている。使用人の採用基準さえ美しいかどうかで。屋敷にいる全ての人間の中で一番美しくない者が僕だったんだ。物心ついた頃から既に僕は一番下だった。だから生きるためになんでもやってきたんだ」


 屋敷全体で育児放棄されてたってことでしょうか?


「まずは食事を改善したくて調理場へもぐり込んだ。誰も僕のことなんて気にしないけど一応領主の息子だったから、家族以外には手をだされることはないし。それをいいことにじっと観察して調理の仕方を覚えたんだ。人がいない時に試して何度も繰り返して覚えていった。部屋が汚いのも嫌だったから掃除の仕方も。汚れた服は痒いし(にお)ったから洗濯の仕方も。観察して一つずつ。自分が汚くなくなって一通りに事が出来る様になってからは家を出ることを考えて。人は自分の利益になるような人には優しいとわかったから。こっそり姉や母がマッサージを受けるところを見て覚えた。水仕事をする使用人や書類仕事の多い者達はいつもどこか痛みを抱えていたから、子供だったからね。他に利益になるようなことはわからなくて。痛みを和らげて対価に書類の読み書きや仕事のコツを教わって領地経営や生きるのに必要な色んなことが出来る様になったんだ」


 淡々と無表情で話すアロイス様。物心ついた頃から、一人でなんて、なかなか出来ることじゃない。一歩間違えれば死んでいたかもしれない。


「すごいです! アロイス様! 見て技を盗むなんて天才じゃないですか!」

「そんないいものじゃないよ。必要に迫られてやらざるを得なかっただけで。でも、誰かに自分の事を聞いてもらえるって嬉しい事なんだね。ミーシェは僕に新しいことをたくさん教えてくれる。本当にあなたと出会えて僕は幸せだよ」

 こんな月並みなことしか言えない私に幸せって言ってくれる。アロイス様は可愛い人だな〜

 どうやら死んだことにされているらしいけど、どうせ卒業をもって政略結婚の駒にされるだけだし、そこまで家族に愛されていたかと言ったらそうでもない。典型的な貴族のお家だったから。


「私もアロイス様と一緒にいられて幸せですよ」


「ミーシェ……」


 おっとアロイス様マッサージしてくれてる手に力入れすぎですよ。ちょっと痛い。

 どうせぎゅってするならハグがいいです。






 そんなこんなで早いことに一週間経ちました。


 ええ。そうですね。例えて言うなら新婚ほやほや? 私の旦那様なんでもできるんですぅ〜って誰かに言いたい。誰もいないけど。

 現在はアロイス様はお仕事で外出中。私はもちろんお留守番っていうか、相変らず外には出してくれません。まぁ、こんな下着もない格好で外に出たら痴女ですけど。


「そろそろ信頼を勝ち取って、お外に出たいんだけどな〜」


 ぽっと呟いた声が響く、森の中一人静かすぎる。

 

「ミーシェ」


 わっ! びっくりした。アロイス様もう帰ってきたの?


「お帰りなさい。アロイス様! お仕事はどうでした?」

「ここから出たいの……? ミーシェ……」


 あ、なんか暗い? でも、出たい。

「はい! お出かけ行きたいです」


「……おでかけ……」


「お買い物とか、流石にそろそろ女の子特有の物品が種々必要です。

 ここの管理って男性が二人じゃなくて夫婦ってことにするのはダメなんでしょうか?」


「……ふうふ…………」


「私と夫婦ダメですか? アロイス様私の旦那様ってことで」


 目が開ききってますよ。アロイス様。瞳孔開いてない?大丈夫かな。

 なんかもう一押しすればいけそうな……


「だ・ん・な・さ・ま」

 強調して言ってみた。


「……うん」

 アロイス様が堕ちた。やったー!






 










____________________


 監禁するにあたって。自分がされて嫌な事はしないようにって考えた。せめて僕はあなたにされて嫌な事はしない。僕の基準だから、どこまでも自分本位で嫌になるけれど。

 やっぱり殴られたり傷をつけられるのは幾ら慣れたと言っても嫌だ。だからあなたにもしない。汚いのも臭いのも良くない。部屋も服も清潔に。ご飯も美味しい方が好きだから、あなたにもできるだけ美味しいものを。必要な物は揃えてあげたい。なんとか計画を遂行する前に資金力をあげないといけない。そうなると僕が何もしなくてもお金が入ってくる仕組みも作らないとならない。僕をあなたが監禁してくれるとして、一緒にいてくれないのはとても嫌だから。何もしなくても不自由なく生活できる様にしたい。


 それでも、帰りたいって言われたらどうしよう。泣いてしまったら? 嫌いって言われたら?


 でもどうしようもない。彼女がいないと最早生きてもいけない。僕は生きたい。だから。そうなったら、非道な事をしてしまうかもしれない。暴力や恐怖で縛り付けてしまうかも。これまで僕がされてきたように。従うまで。僕がされて嫌な事をあなたにしてしまうかも。好き放題して。心も体も傷をつけてしまうかも。

 せめて知られない様に。眠られせてしまおうか。眠らせてその間に僕の欲求を満たして。後は見ないふりをする。それならまだ許されるだろうか。


 許される? 許される訳がない。僕の行いは 最低だ。

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