第令話 モッチーの決意
第令話 モッチーの決意
これは全宇宙、全空間、全世界を司る大いなる安定と秩序なるモノをも消失させた……等とまことしやかな伝説が囁かれる、とある空間にまつわるお話しです。
「ふーーーっ、パンッパンッ……これが最後、千回目の捜索だよ……よしっ」
パンパンッ! と二度ほど頬を打ち鳴らし、深刻な表情で突っ立つ、一匹の楠木の妖精がいました。
その楠木の妖精の脳裏を過る、あの日……為す術もなく、立ち竦むわたしの傍ら……。
突然、目前の異空間へと……平然と飛び込む黒い影が一つ……。
「へへ……ちょっくら行ってくるわ! あいつに宜しく言っといてよ」
と、アイミーのあの日の最後の言葉が、何度も何度も何度もリフレインする。
そして今……唇を真一文字にキュッと結び。
友の飛び込んでいった、クネクネ蠢く異空間の入り口の前に佇んでいました。
「んん……何かな〜……今日、チョット荒れ気味……かな……?」
と、小首を傾げる、一匹の楠木の精霊……その名はモッチーと申しました。
「ああっ……アイミー……今……いったい何処を彷徨ってんだよ〜……必ず探し出すからね!」
モッチーの見詰めるその眼差しに宿る、並々ならぬ決意の炎がメラメラ燃えていました。
モッチーは頭のてっぺんから伸びる、触手の様なものの、丸い先っぽを手馴れた様子で、いとも簡単に碇状に変化させました。
「エイヤァッ!」と気合い一発、地面へと力強く打ち付けました。
「うん、よしよし……これがわたしの生命線……」
触手の様なものをクイックイッとひっぱり、地面への掛かり具合を念入りに確かめ。
「母様どうかご加護を下さい」
と、遠く離れた楠木の母様へと、モッチーは深々と一礼しました。
「ではでは、行くとしますかモッチーさん」
と、徐に振り返り。
「ハアーーーッ」
とモッチーは、頭から伸びる触手の様なものをジワジワジワジワと伸ばしながら、両手を広げアイミーの彷徨うその空間へと、手慣れた様子で千回目のダイブを、もう躊躇する事等も無くあっさりと試みたのでした。
そしてクネクネと空間に歪みながら、ゆっくりゆっくりと、その姿は溶け込み、その姿は消えて行きました。
モッチー自らに定められた、運命の星があるとするならば……。
今この刻その星が輝きだし、静かに動き出す運命の歯車……。
もう戻る事の許されない、運命の片道切符だとも気づかずに……。
自らも忘れ去っている、遠い遠い秘められた真実……その禁断の扉は開かれたのです。
過去と未来と現在を、行ったり来たり戻ったりして……めくるめく出遭いと別れが交錯し紡がれゆく物語……。
壱阡と壱分のモッチー……いや、モッチーたちの出鱈目で、ワチャワチャな、行き当たりバッタリ、ドタバタ真っ直ぐなお話しの開幕なのです。