国を守る聖女システム
お待ち!新作ラーメンの連載の合間に書きたくなってしまった新作ラーメンだよ!
( `・ω・´ )つ
はい、人数多いんでサクサク並んでくださいねー。後ろが詰まってるんで。何せ国が一つ滅びましたからねー。こっちも大変なんですよ、数が多いから。
え? 何で我が国が滅びなきゃならなかったんだって? あー、あらためての説明はもう少し上がってくる魂の勢い減ったらやるんでもうちょっと待っててください。
あ、このドバッと来たのが最後?
魔物に追い詰められて城に立てこもってた人達?
なるほど、じゃあ説明しちゃいますか。
はい、自分が「聖女システム」の担当天使です。今回あなた達は……あーあー、いっぺんに騒がないでくださいね。僕は一人しかいないんで、一つずつしか答えられませんから。
……はい、じゃあ静かになりましたね。じゃあ説明していきますよ。ああ、大丈夫ですよそんな心配そうな顔しなくても、そもそもあなた達は今魂だけの存在ですから。身動き一つ取れないでしょうが、命には影響ありません。何せもう死んでますからね。
じゃあまずマニュアルに載ってる、頻出質問集にあらかじめ答えちゃいますから、その後でまだ質問があったら答えていきましょう。
えー、まずあなた達の国が滅びた理由。これはもうそのものズバリ、神が指名した聖女を処刑したからですね。
しかも……あーあー、これは別に直接の理由ではありませんが、教会内部の汚職や横領や犯罪行為も全部ひっかぶせたんですか。酷いことしますねぇ。
引き金は処刑ですが、そもそも聖女を全然大事にしてなかったせいでここ数代ギリギリの「幸福値」だったようで、まぁたまたま限界来たのが今この国になったって感じです。
ちなみに聖女を処刑までした国は186年ぶりですね。186年前も当然滅びてますけど。
神は古の時代から、人々に象徴として聖女を指名し、これが健やかで心安らかにある限り、ともにその土地に強力な魔物を防ぐ結界と、豊穣を与え極端な災害を退け、国中を平穏に整えやすい気風を加護として授けています。
これは伝説や言い伝えや教会のプロパガンダではなくれっきとした真実です。何度も言いますが、あなた達が聖女を無実の罪で処刑して、そのために聖女の「幸福値」が一気に計測可能なマイナス値を突破したから国が滅びたわけです。
幸福値についてですが、飢えや寒さ、自己肯定感や精神の安定など様々な観点を複合的に無理矢理数値化していますが、まぁ普通の人が「死にたい」「生きていたくない」と思うような環境じゃなければ普通はボーダーラインを下回りません。
聖女の精神は定期的に、といっても数年に一度ですね、えー、幸福値を測定して、規定値を下回っていたらその国の加護は順次取り消されます。また死亡した場合は測定サイクルとは別に幸福値の評価が行われることになってます。
なので聖女をただぞんざいに扱ってた時は何も起こらず、安心して更に虐げ、処刑したら一気に加護が消えたように見えたのはそのせいですね。
たまたま幸福値を測定するタイミングの間にそれがおこなわれただけで。
ここ数代の聖女は「聖女としての務め」を口実に親から引き剥がして閉じ込めて清貧を強い、おおよそ世の中の「幸せ」を教えずにほぼ洗脳して「これが聖女として当然」と教えてたのに、そんな教育を受けさせられた人間すら絶望し恨んで死んでいくってこれよほどの事ですよ。
恨むとこまでいったせいで、川の水が腐り実りは枯れ果て結界が消えた人里に魔物が押し寄せて国が滅びたんですね。普通はここまで一気に影響でないんですけどね。
最近だとローゼンツ王国、と言っても41年前ですけど。ここは10年かけてジワジワ加護が薄くなったのを、国側が気付いて全体の態度を改めて国を繋ぎましたけどね。聖女は今も名誉職として豊かな暮らしを保障されて、行動は制限されるけどそこそこ幸せに生きてますね。
神が指名した聖女をそうやって大事に出来ない者達は信仰心低いからいらないと判断されて加護が取り消される訳です。
ほんっとにすごい昔、国という成り立ちが出来た頃は信仰に対して直接応えてたらしいんですけど、人の数も国も増えてそんな事やってられなくなってこの信仰心を代替する監視システムが出来たわけです。
うーん、頻出質問集はまだ続くんですが、なんだかすっごく色々聞きたそうにしてるからもう答えちゃいましょうか。一人ずつ、自分の気が向くまで聞いてってくんで順番に声を戻していきますね。
はい、そこのあなた。ああ、生前は王様だったとかこちらには関係ないので、簡潔に質問だけ。
え? 聖女が国を守ってるなんて嘘だ、ですって?
ああ、当然ですね。聖女に加護を与えてるわけじゃありませんから。
聖女がそこそこ平穏に生きてるうちは、国への加護を与えるって条件ってだけですよ。聖女の幸福値で国全体の信仰心を推量してるわけです。
神託は昔から「聖女を慈しみ神の依として敬え」ってなってましたよね? それを破ったのは人間達ですから。我々天界サイドは契約を破られたから、対価を与える事をやめただけですから。
だって考えてみてくださいよ、一人に一国を守る力を付与するとか、どう考えてもオーバースペックでしょう? そんな事が出来る魔力なんか人の身に持て余しちゃうし、我らが神をよそに現人神にされちゃうじゃないですか。
人に実際そんな力与えるなんて出来ませんよ。神にとっての信仰心とは存在意義なんですよ。信仰心はあくまで我らが神に捧げられる形にしないと。
それでこの聖女システムなわけです。たった一人を大事にするって神様との約束すら守れないんじゃ、その国に加護を与えてる意味なんて無いですからね。
ああ、能力を計測する色々な魔道具とやらが作られて、それで聖女が無能だと決めつけたんですか。
で、教会の象徴だった聖女を排除して権力を削ぐために利用した訳ですか。
まぁそりゃあ、特に才能もない、頭が良いわけでも別に見目だって群を抜いているわけでもなく、カリスマ性も無くてとびきり善人でもないし悪人にもならないような魂を選んで聖女にしてますからね。聖女本人には特別な力は何も無いですよ。
だから教会を糾弾するために利用して良い理由にはなりませんが。
はい、次の方。え、自分の方が聖女にふさわしいとか何を……今言いましたよね。あなたみたいなクソ汚い悪人ど真ん中の魂は聖女になれないって。我々天使ほどじゃありませんが顔も良いのも、そこそこ強い治癒魔法が使えるのも聖女の条件に合わないし。
え、何でそんな何の取り柄もない美しくもない女を聖女に指名するのかと言われても……何も特筆する長所がない存在を「神託だから」と大事にして幸せに出来てこそ信仰心の高さを測る指標になるわけで。
……あー、ああ。あなたですか。聖女を偽物だと糾弾して、処刑のきっかけを生み出したのは。
いや、教会の偉い人が企んだ事だとか私に言われても……聖女は処刑されて、幸福値がマイナスカンストで国が一気に滅びたのはもう取り返しつきませんから、来世では聖女を貶めないでくださいとしか……
聖女がいるから国は安泰なのだって教会は一応主張してたけどそれを皆さん信じなくなってたんですねぇ。神託はちゃんとあったのに。
聖女がいなくなったらこんな事になると思わなかったって、まー、たしかに実際なくさないと確かめられはしないけど、神託で大事にしろって言われてたし加護は聖女がいる限り有効だって昔からおろされてたじゃないですか。
聖女がいるからって国から予算がっぽり取って、それを懐に入れて散々いい思いをしてた人達は切り捨てるついでに罪を被せたなんて。身代わりなんてよく出来ますね。
まぁその教会の人間も自称真の聖女も全員平等に死んでる訳ですが。
はい、次のあなた。あーもー、聖女の婚約者だとか王子だとか、いらないんですよ。もう死んでるんですからあなた達。全員。
え? あいつは無実の罪だったのかって?
……あいつとは、ああ、処刑された聖女の事ですか。そうですね。処刑されるような罪は何も犯してませんね。ずっと教会に軟禁されて、普段口をきく相手もいないでずっと祈るだけの生活をしてたみたいですね。
この女に騙されたんだとか、聖女の顔の裏で裏切っていたのかと強く怒りを感じてしまったせいだとか、謝罪したい後悔してる、なんて言われても……私はシステムの説明をするだけの担当者なので……騙されたのが事実だったとしても、皆さん死んでるし国も滅びてるから今更としか……
はい次の方。ああ、滅びた国の、普通に暮らしてた罪なき民で、聖女の処刑には関わってないと。
……え、何です? それがどうかしました? ……あー、自分は悪くないから生き返らせてくれと、なるほどー。
あ、無理ですね、自分にその権限は無いので。
まぁ、たまーにいますけど。蘇らせてもらえる人。ただあれもう、ほんとに運なので。神様に気に入ってもらえるかどうかって。今回のも運ですね、聖女が処刑される国にちょうどその時生きてて残念でしたってだけです。
じゃあ何のためにこうやって集めてわざわざこんな話してるのかって。
まぁこれ自分もほとんど無駄になるなー、って分かってるんですけど。後悔を魂に刻んでもらうためですね。
あと我らが神がね、おたくの国……ああもう滅びたけど。まぁそこで、聖女を愛し子として指名してると思われてるのが我慢ならなかったらしくて。
ああこれ話しとかなきゃ怒られるやつだった。何回も同じ話してるとどこまで話したか忘れちゃうんだよなぁ。
あー、それで、心外だって事で、指名した聖女をぞんざいに扱うくらい信仰心が低いなら加護は取り上げるけど、それはそれとして自分が歴代聖女を愛してたと思われるのが嫌だと。そこは訂正しとけって言われちゃって。
凡庸な人間を番にと望んだ訳では無いし、それで趣味が悪いなんて言われるのはたまったものではないってすっかりヘソを曲げてしまって。ましてや神自身が目をかけて聖女にしたならちゃんと守ってないのはおかしいと論拠にしてたじゃないですかあなた達。それをしっかり真実を教えておけと。
ああ、我らが神にですよ。あくまでも、聖女は信仰心の観測のために指名してるだけだって教えろと。まぁこれもほとんど記憶なんて残らないんですが。
人の心がないって? まぁ、神ですからね。
この説明は、聖女システムの正しい意味を理解してもらって、来世では「神への信仰篤く生きよう」と本能に残してもらうために毎回説明してます。愛し子と聖女の違いについては今回だけのイレギュラーです。
うーん、もう必要な事全部話したかな。まぁほとんど記憶に残らないからいっか。じゃあ前の方から生命の泉で魂まっさらにしてから生まれ変わってもらうんで、列進めてくださーい、お願いしまーす。
国の加護が消えた揺り戻しで国土に何も無くなったら、まだ国ではなかったただの集落に聖女が産まれ神託が下されるだろう。そうしてまた加護に守られる国が出来る。
次に、愚かな人間が神との誓約を破って聖女の魂を黒く染めるその時までまた自分の役目は一旦終わり。
加護が消えたこの国が魔物に滅ぼされた事で、しばらく……数十年は各国とも聖女を大切に扱うだろう。
我らが神はとても効率的だ。自分が仕事をしたくないから部下にも効率を求め、余計な仕事の発生を嫌う。部下が働けば上に上がる仕事もその分増えるかららしい。
人間界をずっと監視したくないからと生み出されたこの聖女システムもそう、ただ、人間の心情を考えていない。幸福値がボーダーラインを切るまでに、「不幸と自覚していない幸福からは遠い生活を強いられる聖女達が何人も生まれる」事をなんとも思っていない。
一代に一人の人生を消費するだけで国全体の信仰心をはかれると、他の神からも大絶賛だったが我らが神や他の神はやっぱり考え方が違うのだろう。天使の自分にはちょっと同意しかねる事が多い。
他の神の中にはもっと頻繁に聖女の様子を観測したり、聖女自身に何らかの力を与えたり、聖女の選定の後も手厚く関わったりしてるけど、うちはずっとこれ。
納得はできないが仕事だ、自分は与えられた中で最善を尽くすことしかできないが。
「ああ、そうだこの子も」
ただの天使でしかない自分に力なんてほとんどない。ただ、力を蓄えれば数年に一度、一人の人間にちょっと幸せな人生を送れるくらいの祝福が与えられるだけ。
王と、あの国の教会のお偉いさん達と、自称真の聖女と、あと王子だったっけか。他にも色々、そいつらの魂から次の人生でもたらされるはずだった様々な幸せを力の限り吸い取って、今回処刑された聖女だった魂にどんどん流し込む。最後に自分の精一杯の祝福をかけて、泉の中に送り出した。
聖女になった時に送った祝福はとっくに塗り潰されて、後から何度重ねても絶望の中にいる彼女には足りなかったけど、まだ何も決まったことのない来世ではきっと十分効力を発揮するだろう。
どうか今世の事は全部忘れて、次の世では幸せに生きていけますように。
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