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さまざまな短編集

ミ島攻略。情報から視える魔法の痕跡

作者: 仲村千夏

 まさか……。

 私の手元に届いた情報は誤報ではと思った。

 帝国連合艦隊、ミ島攻略ス。

 情報局にも未だに届いていないこの情報は確かめるすべを私は持たない。

 特殊情報戦略班班長である私が時間に縛られるとはな。


「班長?」

「ああ、すまん。感傷に浸っていたようだ」

「ミ島では勝ちましたか」

「そのようだ」


 情報を持ってきた者もうれしいようで顔がほころんでいる。

 でも、ここからが特殊情報戦略班の仕事だ。


「勝利を味わうのはあとだ。敵の動向、損害、今後の戦略を分析する。合わせてこちらの被害もだ!」

「それはもうすでに取り掛かっております。どちらの無線の情報、あらゆる情報網から次々と情報が入っております!」

「よし、では行こう」


 班長室を出てすぐ隣が情報収集及び分析室となっている。

 ここは十人が常時在中し情報を集めている。分析、解析は別にあり四人に担当してもらっている。

 少数だが、精鋭。

 信念はどんな情報をも逃さない、たとえ味方でも、だ。


「班長、ここ数時間の報告書です」

「ありがとう」


 数時間単位で報告書が上がってくる。

 変わることもあれば、変わらないこともある。

 どんなことも持ってくるように徹底しているから関連性がわかってくる。

 今回の海戦に関する情報は当初、連合艦隊の出撃命令からさかのぼり航海、無線記録、暗号記録などを元に作戦を逐次、卓上に再現していた。

 同時にアメリカの動きも再現して始まるタイミングまで見事に当てた。

 この時にはすでにアメリカが作戦を知っていた情報まであり、敗戦となる公算が大だった。

 分析でも同様の結果が出ていた。

 

「なのに勝利して、現在はミ島の攻略後防衛のため駐留中か……」

「でも、どのように勝利したのでしょう?」

「うむ。気になるのはそこだ。戦略点としてはあまり意味のない攻略戦で敗北必死の状況だったにもかかわらずだ」

「戦略点で山本連合艦隊司令長官が言われていたのは敵空母をおびき出し、撃滅し早期講和への道でした」

「勝ったのだからそれはできるだろう。でも、アメリカの損害状況がまだよくわからない」

「あ、それに関しては今入ってきました」


 一枚の報告書を持ってきた者から強引半ばにそれを掴み取る。

 損害は空母一隻撃沈、一隻大破、一隻行方不明。その他艦艇中小破多数という内容だった。

 一隻行方不明?

 そこだけがとても気になった。この報告書からは一隻確実撃沈、一隻は傷だらけでも帰還できたということ。

 ならば、もう一隻は漂流ないし処分ということにして記録には残るはずだ。

 それが行方不明……。

 事実を確認できていない何かがあるということ。


「もう少し損害に関するのは集めてくれ」

「わかりました」

「班長~。これはどうでしょう?」

「どれ」


 そこには連合艦隊の損害報告があった。

 空母三隻撃沈、戦艦一隻大破、重巡洋艦二隻中破、航空機のべ一〇〇機損失。空母一隻、戦艦一隻行方不明。山本長官の安否不明であった。

 山本長官の行方が分からなくなった?


「どういうことだ!? 行方不明になっている艦の名前はわかるか!」

「は、はい。え~っと、戦艦は大和、空母は飛竜、敵のはわかりません」

「敵は空母エンタープライズですね」

「今わかったのか」

「はい。艦隊の無線が良く入ったので」


 戦艦大和は最新鋭の戦艦だ。空母飛竜も比較的新しい。敵のエンタープライズもなかなかのベテラン艦では間違いないのだが。

 その三隻と山本長官が行方不明だと……?

 一体、どういう状況だったのだ?


「海戦前日の気象情報です。帝国側ではミ島付近では快晴の予報です。アメリカ側もほぼ同様です」

「晴れている中での大海戦、か」


 条件はお互いに五分。

 先に偵察機が相手を見つけた瞬間に勝負は決したはずだ。


「敵の無線情報では最初に発見したのはアメリカ側です。しかし、妙なんです」

「なんでだ?」

「報告電文がでっかい雲の中で竜が暴れている。艦を飲み込むような巨大な雲、敵艦が浮き上がっている。というものなのです」

「その機体の所属は?」

「ビンゴです班長。エンタープライズ所属機体のドーントレスでした」

「見たもの、その地点は?」

「航海無線からして主力艦隊が発見された様です。その中で報告されているのは戦艦大和でしょう」


 謎の巨大な雲。でかい竜、浮き上がる現象。

 竜巻とも考えられるが戦艦大和は竜巻程度では浮き上がりもしないだろう。

 次々と報告してくれる情報収集の人たちはとても優秀だと再認識させられる。

 だが、今は上がってくる情報の分析が先決。


「発見して敵艦隊が攻撃隊を発進させるのは容易に想像がつく。この時の連合艦隊の機動部隊は?」

「機動部隊はミ島攻撃に攻撃隊を出したばっかりですね。主力艦隊とは三〇〇海里離れていたようです」


 そんな遠距離をエンタープライズの偵察機が発見した?

 ドーントレスの航続距離はそんなに長くはない。少なくとも我が軍の九九式艦上爆撃機より短かったはず。

 それなのに主力艦隊を発見?

 時と場所が違いすぎる。

 こうした情報も戦場ではあったりする。今回のは初めてだが……。

 

「撃沈した艦名が判明しました。空母レキシントンです」

「レキシントンだと!?」

「は、はい」

「ミッドウェーに向かったのはエンタープライズ、ヨークタウン、ホーネットの三隻ではなかったのか!?」

「ヨークタウンはミ島海戦の前、珊瑚海で損傷を受けてオーストラリアで修理中ですよ」


 何がどうなっている?

 情報の混在か? それとも……。


「大本営が発表しました! ミ島攻略成功の臨時ニュースをしています!」

「勝利は勝利なのか? ラジオを付けろ!」


 ラジオから流れてくるのは勝利の報告をする大本営。

 損害はほとんどないと発表されたが、それはいつものウソの上塗りだ。


「でも、戦果だけはキッチリ発表しているのか」

「そうですね。少なくとも空母一隻は撃沈で合っています」


 行方不明の艦についても山本長官についても触れていない。

 謎が深まるばかりだ。


「アメリカも臨時放送を始めました。大統領直々ですよ」

「よし、聞かせてくれ」

 

 時の大統領ルーズベルトがミ島の敗北を告げる。

 損害、戦果も同時に発表されほぼ帝国側と発表内容が戦果だけはかみ合っていた。

 信頼はしてもよいだろう。

 ただ、どちらも行方不明艦については一切触れずだ。

 

「行方不明になった艦を整理しよう」

「はい。我が軍は戦艦大和、空母飛竜と山本長官、敵は空母エンタープライズです」

「行方不明になった地点は偵察機の報告の地点でほぼ間違いなく、原因は巨大な雲、でかい竜、浮き上がる現象だ」

「超常現象は情報収集ができません」


 わかっている。

 どこかに飛ばされたとか、今となってはわからないし目撃した情報も飛ばない。

 事実は帝国が勝って、アメリカは負けたということだけだ。

 もっと情報が欲しい。


「こ、これは……!」

「どうした!?」

「班長の名前を呼び出している通信です!」


 なんだと!?

 どうやって通信を出しているんだ!?


「とりあえず、聞かせろ」


 受信口に行ってヘッドフォンを付ける。

 確かに、私の名前だ。

 

「聞いているか。私は連合艦隊司令長官山本五十六。現在、敵襲を受けている。救援を急ぎ送りたまえ」


 そう聞こえた時、ひどい雑音で聞こえなくなった。

 山本長官が直々の通信とは……。

 行方知れずなのに通信……。


「今の通信はどこからだ!?」

「わかりません! 場所もよくわからないです!」


 くそッ!

 山本長官は生きている。

 通信があったならば、そう判断してもよい。

 だが、どこだ!


「世界地図を広げろ! 情報を発信減の場所に集めろ!」


 そうして作り上げた地図はミ島を中心にその周辺で活発に発信されたものが大半だ。

 ヨーロッパとかアメリカ本土、作戦にかかわりが薄い地域は情報を少なくしているからこういう結果にも納得できるが、ミ島周辺の情報量が均一すぎる……。

 同じ量と高さ。

 場所も敵、味方が入り混じっているはずなのに等間隔。距離もすべて同じ。

 これは……なんかの図形?


「上から見てみろ」

「はい」


 脚立を持ってこさせ、上からのぞき込んでもらう。


「こ、これは……」

「なんだ?」

六芒星(ろくぼうせい)に加えて陰陽の印です!」


 なんだと!

 そうなると、昔の陰陽師の世界ではないか!

 情報はどうやって、集めたらいいんだ……。

 

「単に、海戦の詳細をまとめるだけと考えていたが、こうなると偶然とは考えられないが、魔術、魔法があるとしたらなぜ今なんだ!?」


 全員がシンと静まり機械の音だけが部屋に響いた。


「解決はしないかもしれないが引き続き情報を集める。全員、よろしく頼む!」


 より一層、情報を細分化した。

 印にいたのは確かに戦艦大和と空母飛竜、エンタープライズ、そして山本長官。

 通信が届いたということは異界に飛ばされたとも考えにくい。となると、まだあの中にいる?

 ……巨大な結界?

 一体誰が、何の目的で?


「大和と他の二艦は、この中で健在なら……」

「た、大変です!」

「どうした!?」

「て、天皇陛下が、お見えに……」


 なッ!?


「ここか、班長役はおりますかな?」

「わ、私がここの班長です」

「知っておるとは思うが、山本さんがあそこにいる」

「どうして……」

「朕は生物学以前に天皇の家系だ。古代の神通力とやらも継承しておりましてね」

「供もつれずに、ここへ?」


 天皇陛下から解説されたのは、一つは偶然に配置され情報の量と配置が規律正しく、さらには山本長官の命令で術式が発動したとのこと。

 かつての陰陽道とアメリカの魔術的要素の組み合わせで強固になっているという。


「どうやって、解放すれば……」

「朕は力になれないのが残念なのだが、解決は其方が見つけるだろうと思っている。では、これで」


 突然お越しになられて戻られた。

 でも、本当に魔術とかの類なのか……。

 

「であれば、崩すしかない」

「班長」

「情報を追加して結界に負荷をかけて亀裂を入れる。送信に切り替えろ一点集中で崩す!」


 全員が受信から送信へ切り替えた。

 情報はどうでもいいことを大量に電波に乗せた。

 目標はミッドウェー島に駐留する連合艦隊。戦艦長門。


「伝送開始!」


 できれば行いたくはない。

 存在が内外にも漏れてしまうからだ。

 だが、山本長官は失ってはならないと天皇陛下も気になされていた。

 やれることはすべてやる。

 今から現場に行っても意味はない。できることの一番はこの情報発信だ。

 中心よりズレているミ島の位置なら確実に結界が崩れる。

 早く!

 作業は一時間近く続けられた。

 最初は増える情報に合わせて結界となっている所もバランスを保つように増え始めた。

 一進一退が続いたが、一つの情報を撃ち込んだ。

 その情報とは五芒星(ごぼうせい)の図式を文章にしたもの。

 これを打ち込んだ瞬間、机の情報結界タワーが崩れた。


「こちら連合艦隊司令長官山本五十六。これよりミッドウェー島へ向かう」

『こちらはエンタープライズ艦長。ホノルルへ帰還する』


 同時に味方艦からと敵艦からの通信が入った。

 行方不明だった艦が結界から解放されたという証拠だ。


 ひとまず安心していつものように受信へと切り替えた。

 次にアメリカの敗北の原因、帝国の勝利の原因を分析。いつもの作業に戻った。


 結果としてアメリカ側は空母の場所を把握し攻撃したのは良いが帝国軍の潜水艦が長官の命令を受けて偶然索敵範囲にいた所を集中雷撃し一隻撃沈した。それが空母レキシントン。

 こちらも空母赤城、加賀、蒼龍が爆弾を受けて沈没、戦艦榛名も撃沈された。これはアメリカ航空隊の意地だ。

 残りの空母飛竜は何かしらの原因で結界に飲み込まれた。実際にはどちらの艦隊も丸々結界内に閉じ込められてはいたのだが、場所によって影響があったのではと推測された。

 戦いに戻れば、帝国の低速戦艦部隊がミ島に到着し砲撃を開始。

 戦艦のいなかったアメリカ艦隊は撤退を選択。これで勝敗は決したとのことだ。

 命令系統が塞がった帝国軍は進むことしかなく結果的に損害を出しながらも占領に成功することになった。

 これが全容だが、戦略としてはこう結論しなければならない。

 不確定要素が多いものの帝国側の戦略的敗北。アメリカ側の戦術的敗北となった。


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