ビアッジョ日記⑤
「最近、クラリーとはどうなんだ?」
隣で剣の手入れをするクレトに尋ねると、彼はふにゃりとした笑顔を見せた。そしてふところに手を入れて、何やら引っ張り出した。
「見てください!お守りをもらいました。無事に帰還するように、って」
「お、いいじゃないか」
「でしょう?友達としてだからね、と10回は言われましたけどね。リーノは貰ってないんですよ」
「……それは、いいんだか、悪いんだか」
「あいつにあげたいって娘がいるらしいです。だから彼女は僕だけって。あ、勿論ヴァレリー以外では、ですけどね」
クレトは嬉しそうだ。
今でこそ、若手従卒の中では一番の出世頭だとか言われて恵まれた男だと思われている彼だが、父親が死んでからの数年は、かなり苦労している。
私も忙しさにかまけて、きちんと様子を伺っていなかった。まだ子供のクレトが、明日の食費の金勘定をしているのを見たときは胸がつまったものだ。
だから彼には、立派な騎士になってほしいし、幸せにもなってほしい。
「……まあ、彼女は身の上がアレですからね。どうなるかは分かりませんが、アルトゥーロ様がヴァレリーとくっついてくれれば、クラリーも自由がもらえるんじゃないかな、なんて思うんです」
「……さて、どうだろう」
アルトゥーロは全く口説く気がないようにしか見えない。あれでどうやってヴァレリーを手に入れるつもりなのか、不思議だ。
「なのでビアッジョ様はアルトゥーロ様の支援を頑張って下さい」
「……というか、彼がヴァレリーに気があると思っているのか?」
「え、違うのですか!?」
クレトは驚きに目を見開いている。
「彼女が襲われたときの怒りようは尋常じゃなかったですよ」
そうだったのか。私は翌日に報告を受けただけだから、分からなかった。
「あれで気づかないヴァレリーは相当な鈍感だよな、ってマウロと意見が一致してるんです」
「……そうなのか」
アルトゥーロもアルトゥーロだけれど、ヴァレリーも強敵なのか。
これはかなりはっきり、アルトゥーロが告白しなければ進展はないのではないだろうか。
……面倒くさいな。出征のことでもアルトゥーロは拗らせているし。
ここはコルネリオ様の協力も得て、無理やりデートでもさせてみるか。
ふむ。ヴァレリーに娘の格好をさせる口実も考えて。
いいんじゃないか。出征前に、普通のデート。
よし、明日、コルネリオ様に提案してみよう。