ビアッジョ日記②《3月》
ここ数日、アルトゥーロの様子がおかしい。感情の起伏が乏しく、故に常に泰然としている彼が、やけにそわそわとしている。恐らく、何かを待っている。
気にはなるが、コルネリオ様はそんな親友の様子が心配ではなさそうだから、事情を知っているのだろう。ならば私は、気晴らしの相手をするにとどめよう。
◇◇
そんなアルトゥーロがいよいよおかしい。
今日、フィーアの第一王女が誤解から、コルネリオ様に決闘を申し込みに来た。苛烈な性格の姫君であるが、その容貌はなかなかに素晴らしい。
その彼女を見たアルトゥーロは、なんとも言い難い表情をした。一目惚れ、というものではない。彼がここ数日待っていたのは彼女だろうと思わせる、そんな表情だ。
だが初対面のはずだ。アルトゥーロとは長い付き合いで、少年の頃から知っているし、長く離れたこともない。フィーアの姫に会う機会などなかったと断言できる。
ではあの表情は一体何なのだろうか。
しかも何がどうして、姫はアルトゥーロの従卒となった。コルネリオ様の差し金だ。いつもの悪ふざけのようだけれど、違うような気もする。
更にアルトゥーロは、金も物も全てを処分したという姫に給金の前払いを渡して、必要なものを買うよう命じた。自分の体面を保つためだと言っていたが、本来の彼はそんなことを気にする奴ではない。
どういうことなのだろう。
背景にあるものが何なのか見当もつかないが、彼女がアルトゥーロにとって非常に重要な人間でありことは確かに違いない。
それならば口は挟まずに、そっとバックアップをすればいい。
いつかは、訳を話してくれるだろかうか……。