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彼女の事情6

ストックが切れ始めそうなので、一日一回更新になりますm(__)m

それからヴィオレッタはアシュレイの正式な婚約者として、王都にあるガーランド公爵家の屋敷に住まうことになる。

アシュレイは毎日のようにヴィオレッタの公爵家まで足を運んでは、何気ないことを話して帰っていくようになった。それはアシュレイが授業で習った中で面白かったことだったり、王宮の特殊なウィステリアの花の品種の話から王宮で最近流行っている怪談話など、多岐に渡った話でいつもヴィオレッタの興味を惹きつけるのだった。


”アーシュと話していると楽しい”ヴィオレッタはいつからかそう思うようになり、アシュレイが来れない日は物足りなさを感じるようになった。

最近は未来を視る事が全くなくなったことやアシュレイの人懐っこい性格やその気遣いのお陰で、ヴィオレッタはこの生活を満喫していた。けれど、ある日を境にアシュレイが段々と来る回数が少なくなる。それに対してヴィオレッタは焦りを感じた。思い当たりがあり過ぎたからだ。

初めて会ったあの日からヴィオレッタのアシュレイに対する態度はあまり良いとは言えない。

ヴィオレッタ自身も最近分かった事だが、彼女はアシュレイの前でだけはどうしても素直になれない。思わずつっけんどんな返し方をしてしまうのだ。アシュレイと目を合わせると恥ずかしくなって、素直になるどころではない――というのが彼女の本音だ。

けれどなけなしの意地で恥ずかしがっているとは思われたくない。なので少しでも余裕を見せるために、思わず素っ気ない態度になってしまうのだ。

そんな返し方しかできない自分が少し嫌でもあったが、アシュレイはどんな態度をとっても態度が変化せずにいてくれるので、それに対する安心感もあった。

だから、アシュレイが来れなかった日が数日続いた時、ヴィオレッタは自分が嫌われてしまったのではないか――と焦りに焦り、思わず理由を聞いた。


「ねえ、アーシュ。ここ数日何かあったの……?」

「え、どうしてかな?」

「…………ここ数日、会いに来なかったでしょう?――今までは呼んでなくても毎日のように来ていたのに」

「ん?寂しかった?」

「っ別に」


いつものように照れ隠しで条件反射のようにツンとした言葉を投げかけてしまったヴィオレッタにアシュレイはあまりにも的を射た答えを返す。ヴィオレッタはそれに更に動揺したせいか、アシュレイから顔を反らして冷たい態度をとってしまう。


「そうか~、残念。ここ数日、剣の稽古で疲れていてね。会いに来れなかったんだ」

「そう、だったの。…………お疲れ様」


ヴィオレッタは正直こんな態度をとっていた所為でもう嫌われてしまったのかと不安になっていた部分が、アシュレイのその言葉に思わず安堵を覚える。


「ヴィーが会いに来てくれたら、疲れも吹き飛ぶんだけどな~。ね、僕はヴィーからも会いに来てほしいな……ダメ?」

「っ仕方ない、ですね。いいですよ」

「良かった。嬉しいよ」


それは、ヴィオレッタにとって願ってもない事だった。思わず再びツンとした態度をとってしまうが、アシュレイと一緒にいることは彼女にとってとても楽しい時間なのだ。だからアシュレイからの”会いに来て欲しい”という言葉で自分から会いに行っても良いと許されたという事実が凄く嬉しかった。


そうしてそれからは毎日の様にアシュレイを訪ねたり、訪ねられたりの日々を繰り返すようになる。

だが変化したのはそれだけではない。その辺りからアシュレイが暇な日はデートに連れて行ってくれるようになる。いつもお忍びで行くのだが、それはオペラ観劇だったり、街へのショッピング、公園でのピクニックもあった……初めて体験することが殆どだったのでヴィオレッタにとってはどれも新鮮で、とても楽しかった。

アシュレイとの時間はヴィオレッタにとってなくてはならないものになっていて、それがなかった時の事を思い出せない程に深く、深く刻み込まれていく。


***


しかしヴィオレッタが十四歳になってしばらく経ったある日の事、転機が訪れる。


ヴィオレッタの誕生日が過ぎ、新年も明けた立春の頃の事だった。数日前にアシュレイは十六歳の誕生日を迎えたのだが、ヴィオレッタはまだ十六歳になった彼に一度たりとも会いに行けていない。ヴィオレッタも時間を見つけては訪ねてはいるのだ、が中々に時間が合わないという状況が続いていた――もう彼が誕生日を迎えて一週間以上になる。

ここ最近はアシュレイも剣の稽古だけでなく執務が忙しいらしく会いに行っても部屋の守衛も兼ねたアシュレイ付きの騎士に通してすらもらえず、会うこと自体が出来ないという状況が続いていたために、ヴィオレッタは大変機嫌が悪い。そのため朝から多めに出された朝食をお嬢様らしくない速度で貪っていた。


「お嬢様。アシュレイ様に会えない日が続いてるからと言って、そんなに暴食の限りを尽くさないでください……太りますよ?」

「ふとっうぷっ…………んんんっ。べ、別にアーシュが原因じゃないもん」


図星を指されたようで、一瞬思わず口に入っていたものが出そうになったがなんとか飲み込み、リーシャの言葉を否定する。


「お嬢様、昨日もアシュレイ様に一生懸命選んだ誕生日プレゼントを渡せなかった~と嘆いていたではありませんか。一番におめでとうと祝って渡したかったのに……などと可愛いことを言いながら」


少し揶揄い口調になり始めたリーシャのその言葉に思わず顔が赤くなる。実際、ヴィオレッタは近々耳にピアスの穴を空けるというアシュレイのために自分の瞳の色と同じ色である石がついたピアスを贈ろうと思っていた。母親に聞いた話だが、自分の瞳と同じ色の石がついたものを送ると魔除けにもなるらしい。それを聞いたとき、すぐに贈ろうと思いついた。

今は、昔ほど自分の瞳に対する嫌悪感はない。むしろアシュレイがいつも綺麗だと言ってくれる自分の瞳を好きになり始めていた。


(アーシュ、このプレゼント喜んでくれるかな?)


そうアシュレイのことを考えていると、リーシャが此方を見て感慨深そうに言った。


「お嬢様は本当にアシュレイ様が好きなのですね」

「え……!?」

「え?」


”好き”その言葉にヴィオレッタは過剰なまでに反応してしまう。


(好き……?私がアーシュを?)


ヴィオレッタは今までアシュレイと過ごすのを楽しいと思えど、自分がアシュレイに対して抱いている感情など考えたことがなかった。そのためリーシャの言葉はヴィオレッタにとって衝撃以外の何物でもなかった。


「まさか、お嬢様。……今迄その感情に気づいてすらいなかったのですか?」

「――ええ。正直、衝撃だったわ。だってアーシュとは話していて楽しい位にしか思っていなかったし、なによりも自分が好きだなんて感情を他人に持つだなんて……思ってもみなかった。でもそれと同時にこれ以上ないくらいにしっくりきた――――かな。私、アーシュが好きだった、のね」

「そうです、そうですよ!!お嬢様のアシュレイ様を視る瞳は恋する乙女そのもの!!その気持ちを伝えればきっと、アシュレイ様もお喜びになられますよ。それこそ最高の誕生日プレゼントです!」


若干食い気味のリーシャの勢いに押されながらも、自分の中のアシュレイが好きだという感情を見つめてみる。なんだかムズムズして恥ずかしいような、けれどそれと同時に暖かくて嬉しいような不思議な感覚だった。


(二日後のアーシュの生誕記念で開かれる夜会――そこでなら絶対に会う事が出来る。少し……恥ずかしい気もするけど、この気持ちを伝えてみよう。……喜んでくれるといいな)


そう思えば、会えなかった故の機嫌の悪さもいつの間にか気持ちを伝えるという高揚感に変わっていた。


・途中で出たデートとかの描写は暇だったら、後日番外編として書く……かもしれません。


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